プロフィール

後藤 康之

後藤 康之

GOTO Yasuyuki

専攻 応用動物科学専攻 Department of Animal Resource Sciences
研究室 応用免疫学研究室 Laboratory of Molecular Immunology
職名 教授 / Professor

一般の方へ向けた研究紹介

寄生虫を理解し、対策し、利用する

 感染症が身近な存在であると改めて認識された昨今ですが、寄生虫による感染症が現代でも世界レベルで蔓延していることをご存知の方は少ないと思います。寄生虫疾患の一つであるマラリアの患者数は年間2億人を超えCOVID-19に匹敵しますが、パンデミックとよばれることはありません。それはマラリアが軽微な疾患だからではなく、あまりにも普通に存在し続けるものだからです。先進国に被害が少ない疾患は、その深刻度にかかわらず軽視される傾向があるといっても過言ではないです。
 そもそも寄生虫はウイルスや細菌と異なり、私たちと同じ真核生物であり、選択性の高い有効な治療薬の開発は難しいです。また、宿主体内での慢性的な感染を特徴とする寄生虫には、宿主免疫から逃れる高度な機構を備えており、ワクチンの開発も難しいです。寄生虫疾患の適切な制御には、寄生虫の生存戦略と病態形成機構を正確に理解し、そのユニークな機構を標的にした対策を開発する必要があります。
 私たちの研究室では、寄生虫疾患であるリーシュマニア症を主な研究対象として、動物モデルを用いた寄生虫感染の基礎的な理解から、実際に疾患が蔓延する地域での対策まで、幅広い研究を行っています。加えて、前述の研究を通して明らかとなる、寄生虫がもつ様々な免疫修飾機構を活用して、他の免疫関連疾患の制御を目指すという研究も行っています。

教育内容

ラボからフィールド、フィールドからラボへ

 所属している応用動物科学専攻では、動物が持つ複雑で多様な生命現象を分子レベルから個体レベルに至る視点で探求し、基礎生物学の発展や新たな応用技術の構築につなげることを目標としています。その中で、私たちの研究室では寄生虫感染症に焦点を当て、寄生虫と宿主哺乳類、媒介昆虫という多様な動物間の相互作用を理解しようと研究を行っています。
 感染症の制御には、予防・診断・治療といった基本的な医学的要素だけではなく、インフラ整備や社会の理解といった経済学的・社会学的な要素も重要です。研究室では、「どのようなアプローチが有用であるか?」を各自が興味に従って考えるやり方を取っています。そのため、研究対象は免疫病態の解明、ワクチン・診断薬の開発、媒介昆虫の生態解明、疾患蔓延地域での実態把握など多岐にわたります。実験室と現場の両方で得られる様々な知見を双方向に活用しながら疾患の総合的な理解と対策を進める研究スタイルは私たちの研究室の特色ですが、『俯瞰的に見ること』と『現場を学ぶこと』は農学部に共通した基本のキとも言えます。
 「病気とは何ぞや」という疑問や「病気を何とかしたい」という目標を持った学生が多いこともあり、卒業生はアカデミアに残って研究を続けたり、製薬企業をはじめ人々の健康に関わる企業に就職することが多いです。

共同研究や産学連携への展望

寄生虫感染症の包括的コントロールを目指して

 リーシュマニア症を含めた「顧みられない熱帯病」ですが、近年はこれら疾患にコミットメントする動きが活発になってきています。例えば、2012年には世界製薬大手13社、ゲイツ財団、世界保健機関など産官民パートナーシップを形成して、NTDs制圧に向けた「ロンドン宣言」を発表されていますし、SDGsの3-3にもNTDsの制圧が明記されています。このように、リーシュマニア症の制圧に貢献することは、持続可能な社会の達成に向けて貢献し、社会的責任を果たすことでもあります。
 私たちの研究室は国内では数限られたリーシュマニア症の研究チームであり、in vitro/in vivoモデルを用いた治療薬評価から原虫抽出物の提供までユニークな技術や試料を提供することが可能です。実際、様々な機関や企業との共同研究を通して、治療薬や診断薬の開発を行ってきた実績があります。また、症例数は多くないですが、ヒトやイヌの輸入症例が日本においても時々見られます。研究室では、顕微鏡検査、免疫組織化学、血清学的検査、核酸検出検査など豊富なツールを備えており、診断のサポートを行っています。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  寄生虫、動物、免疫、病態、生物資源
キーワード2  :  顧みられない熱帯病、人獣共通感染症、経済格差