プロフィール
一般の方へ向けた研究紹介
森林の生物多様性と生態系機能を解明し社会課題の解決に役立てる
森林には、土壌中の微生物から林床の植物や哺乳類、さらには林冠の昆虫や鳥類に至るまで、多様な生物が生息しており、陸域の生物種の約8割が森林に依存しているとされています。これらの生物は相互に関わり合いながら多様な生態系機能を発揮し、それが人間社会を支える基盤となっています。しかし、近年、気候変動、ニホンジカの高密度化、森林資源のアンダーユースなど、森林の健全性を脅かす要因が顕在化してきました。森林の生態系機能を将来にわたって維持していくためには、生物多様性や生物間相互作用の時空間的変動を理解することが不可欠です。
私は、豊かな自然環境の残る奥秩父山地をはじめ、日本各地の山岳地域を主なフィールドとし、野外調査・野外実験・ゲノム解析・統計モデリングなどの多面的なアプローチを用いた研究を進めています。具体的には、(1)撹乱を受けた森林生態系の再生、(2)人と野生動物の軋轢の緩和、(3)山岳地域の生物多様性と生態系機能の保全を主なテーマとしています。研究対象は森林に生息するあらゆる生物の集団です。大規模な環境変動が森林の生物多様性や生態系機能にどのような影響を及ぼすのか、その生態学的メカニズムを明らかにすることを目指しています。そして、得られた知見をカーボンニュートラルやネイチャーポジティブの実現といった社会課題の解決に結びつけていきたいと考えています。
教育内容
自然に根ざした社会課題の解決に取り組むナチュラリストを育てる
気候変動や生物多様性の損失が深刻化するなか、森林管理による炭素蓄積の促進を通じた気候変動の緩和や、生物多様性の回復を通じた生態系機能の創出など、自然に根ざした社会課題の解決に貢献できる人材の育成を目指しています。また、自然とのかかわりが希薄になりつつある現代社会において、自然とともに生きる豊かな社会を実現するために、人と自然のかかわりを広げていくことのできるナチュラリストの育成も重要な目標としています。
担当している科目は、前期課程総合科目「生態学」や学部専門科目「森林生態圏管理学」、大学院専門科目「森林圏生態学」「森林圏生物動態学」です。講義では、生物多様性の成り立ちや生物多様性と生態系機能の関係などの基礎生態学から、生態系再生や野生動物管理、生物多様性の保全などの応用生態学まで幅広く取り上げ、自然に根ざした解決策に必要な知識を体系的に習得できるよう工夫しています。
卒業論文や修士・博士論文の研究テーマは、学生自身の興味やアイディアに基づいて設定しています。研究指導を行う上で重視していることは、①野外での観察を通じて経験的に自然を理解すること、②特定の生物にとどまらず現象全体を俯瞰すること、③問題解決に向けて多面的なアプローチを考えることです。複雑な自然の中から規則性を見いだし、フィールドワークや実験によってそのメカニズムを読み解くことの面白さ、統計モデリングによって環境変動の影響を予測することの重要性を実感してもらうことを目指しています。卒業生・修了生は、研究所や大学での研究職をはじめ、官公庁・シンクタンク・出版社など多様な分野で活躍しています。
共同研究や産学連携への展望
社会課題の解決に必要な生物多様性や生態系機能の評価手法の開発
カーボンニュートラルの実現に向けた森林の炭素蓄積の促進や、ネイチャーポジティブの実現に資する森林生態系の保全・回復など、生態系機能を活用して社会課題の解決につなげる「自然に根ざした解決策(Nature-based Solutions)」が注目されています。それに伴って、自然環境や生物多様性に配慮した経済活動を支える制度設計も進展していますが、その基盤となる森林の炭素蓄積や生物多様性の定量的評価・モニタリング技術については、低コスト化・高精度化が求められており、十分に確立されているとは言えません。
例えば、ある一定面積の森林における生物多様性全体を定量的に把握するにはどうすればよいでしょうか。森林には、土壌中の微生物から林床の植物や哺乳類、林冠の昆虫や鳥類まで、多様な生物が生息していますので、それらすべてを網羅的に評価することは容易ではありません。しかし、近年急速に発展している環境センシングや環境DNA解析などの手法を統合することで、信頼性の高い生物多様性評価・モニタリング技術の開発が可能になると期待されています。
さらに、炭素蓄積や生物多様性の変動を引き起こす生態学的メカニズムを考慮することは、自然環境や生物多様性に配慮した経済活動の推進に直結し、自然資本を新たな価値として社会に組み込むことにもつながります。こうした学術的知見や技術を基盤として、森林にかかわる自然資本を活かし、新たな社会価値の創出に貢献していきたいと考えています。
研究概要ポスター(PDF)
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キーワード
キーワード1 : 森林、高山、生物多様性、生態系機能、生物間相互作用、生態ネットワーク、植生衰退、植物-土壌フィードバック、野生動物管理、土壌炭素蓄積、リター分解、窒素循環、ニホンジカ、樹木実生、微生物、哺乳類、鳥類、ポリネーター、環境DNA
キーワード2 : シカ高密度化、人と野生動物の軋轢、管理放棄人工林、アンダーユース、生物多様性保全、生態系復元、外来生物、自然に根ざした解決策、気候変動適応、人獣共通感染症、カーボンニュートラル、ネイチャーポジティブ