プロフィール

井澤 毅

井澤 毅

IZAWA Takeshi

専攻 生産・環境生物学専攻 Department of Agricultural and Environmental Biology
研究室 育種学研究室 Laboratory of Plant Breeding & Genetics
職名 教授 / Professor

一般の方へ向けた研究紹介

「花咲爺さん計画」をやり遂げよう!

 高校生の時に「花を咲かせるものはなにか」(中公新書 瀧本 敦 著)を読んで、多くの植物が、日の長さを正確に認識して、季節変化を予期し、自身の子孫を残すのに適切な時期に花を咲かせるしくみである「光周性花芽形成」を行っていることを知りました。以来、その遺伝子レベルのメカニズムを明らかにしたくて、もう、かれこれ、30年近く研究しています。おかげさまで、日本人の主食であるコメを作るイネを短日植物のモデル系として内外に認識していただけるまでに成果を出すことができ、更なる深掘り解析を日夜進めています。これまでの作物ではありえなかった、栽培する人が希望する時期に花が咲くように人為制御できる系統・品種の開発も進めています。研究室内では、「花咲爺さん計画」って呼んでいます。また、この十数年、次世代シークエンサー技術の普及により、数千を超える様々なイネ系統のゲノム解読が進み、データ公開されています。そういったビッグデータを使って、イネが作物になった過程(栽培化過程)における遺伝子の機能変化の研究もしています。これらの知見は、近年開発されたゲノム編集技術を利用した新しい育種に利用して、これまでにないイネ品種の作出も進めています。実験室内ではなく、自然界での作物の環境応答の理解に拘って研究しています。

教育内容

ただの歯車で終わらない駆動力のある人材育成を

 私が所属する育種学研究室は、1906年に設立され、もう百年以上続いています。私は、農学部の出身ではないのですが 確か8代目の教授です。初代が、動物でもメンデルの法則が成り立つことを実験で初めて示した外山亀太郎先生で、教え子に、みどりの革命の母品種となったコムギ品種「農林10号」を育種したチームのリーダーである稲塚権次郎さんがいます。そういった社会を変える力を持つ人材育成を目標にしています。そのために、学部生・修士生の指導方針は、まず、論理的な思考を「常駐」できる力と、専門的な知識を一般の人にもわかりやすいプレゼンができる力を身に着けてもらうことから始めるようにしています。また、アカデミアを目指す博士課程の院生さんの指導こそが、うちの研究室の真骨頂であり、オリジナリティの高い研究を自主的に進めていくために必要な力、ラボ内での独自の実験遂行はもちろんのこと、可能なら、外部との共同研究を企画する交渉能力を身に付けてもらうところまでを目指した人材育成を進めています。

共同研究や産学連携への展望

正しい情報をご家庭に! 真の安心・安全を目指して!

 現在、真剣に取り組んでいるのは、ゲノム編集技術を利用した新しい育種法を確立することです。最近の日本は、新しい技術に関するマスコミやSNSの不確かな情報に一般の人が振り回されている印象があります。育種学の専門家として、ゲノム編集技術に関する誤解を解消して、スムーズに技術の社会実装につなげるための活動を進めていきたいと考えています。例えば、「Off target変異は、想定外なので、危険」という報道が数年前によくされました。これは、ゲノム編集術の医学利用においてはそうかもしれませんが、育種利用においては、間違った情報です。この数十年間、日本でも盛んにおこなわれてきた「突然変異育種」は想定外の変異から、役に立たないもの・悪影響のあるものを捨てて、社会に役立つものを残す「選抜技術」なのです。この観点からすれば、Off target変異は、これまでに比べて、非常に低頻度に起きる想定外変異であり、育種的に危険なものではありません。また、一方で、育種体制が確立していない材料、魚や昆虫等においては、育種選抜の体制の確立を優先する必要があります。こういった、専門家から見た新しい技術のポイントを企業の方を含め、一般の方々と共有する活動を精力的に進めていく予定です。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  植物、イネ、短日植物、光周性、花芽形成、栽培化、ゲノム情報、ゲノム編集
キーワード2  :  育種、品種改良、イネ、ゲノム編集、収量性増、食味向上