プロフィール

一般の方へ向けた研究紹介

持続可能な木材生産・森林管理と水資源管理との両立を目指して

私たち人間は、森林から木材資源だけでなく、我々にとって量的にも質的にも都合が良い水資源を得てきました。100年以上の歴史をもつ、山体や地球上での水、水蒸気、雪氷の動きを調べる水文学(すいもんがく)の成果の一つは、上流域の森林の木材生産・森林管理によって、下流に提供される水資源が量・質ともに変化することを明らかにしたことです。例えば、かつての製鉄・製塩業で木質エネルギーを得るために行われた森林伐採、高度経済成長期に日本全土が経験した天然林の皆伐(一定面積の森林を全面的に伐採して木材生産を行うこと)および人工林への転換、現在も各地で進行している人工林の皆伐などの強度が高く短期的な木材生産は、量・質ともに水資源を変化させることが報告されてきました。

東京大学北海道演習林では、北海道中央部の広大な天然林を対象にして、皆伐ではなく、収穫する樹木を1本ずつ選定して伐採する択伐(たくばつ)施業が行われています。その伐採強度は低く、また、それぞれの天然林では15年~20年間隔で木材生産が行うという長期性も有しているため、同演習林の択伐施業は、天然林における持続可能な木材生産方法の一つとして、これからの日本だけでなく世界のモデルとなるものです。一方で、上で紹介した水文学の過去の研究では、持続可能な択伐施業が下流の水資源の量や質に及ぼす影響に関する情報が極めて少ないのが現状です。そこで、水文学における、実直なフィールド実験法である「対照流域法」を用いて、同演習林で持続的木材生産を実際に実施している場所に集水域を設けて、水資源の量や質への影響を明らかにし、最終的には、持続的な水資源管理と両立しうる木材生産・森林管理方法について、科学的根拠を与えることを目指します。

教育内容

新・旧データを柔軟に融合

「農学」は応用科学ですので、指導や教育の方針として、個々のテーマがどのような社会的、経済的、技術的な意味合いを持つのか常に意識をしてもらいます。また現在は、計測技術やデータロギング技術の発展により、空間的また時間的にも細かいデータが得られる時代となりました。また、巷のパソコンであっても計算速度も向上し、データ解析技術や手法も日進月歩しています。一方で、森林科学では、長期的な視点をもって取り組むべき課題も多く、先人から引き継いだ空間的にも時間的にも荒いデータも重要です。これら新・旧のデータを柔軟に融合して処理できるような人材育成を目指します。

指導学生の研究テーマ例
「実証野外実験に基づくスギ・ヒノキ人工林の皆伐や間伐が水流出量に与える影響」
「インドネシアジョグジャカルタ市の主要4河川における河畔林によるマクロプラスチック捕捉機能の解明」

共同研究や産学連携への展望

水に関する森林の生態系サービスを科学的に評価します

森林の生態系サービスの4つのカテゴリーのうち、「供給サービス」と「調整サービス」のカテゴリーに含まれる水、水質、土壌浸食、局所災害緩和、気候調整、大気質調整に関する生態系サービスは、これまで社会的、経済的には十分な評価を受けてきたとはいえません。一方で、時代は急速に、これらの生態系サービスを正しく理解し評価しようという方向に向かっており、私自身も近年、企業や自治体との連携を開始し、このような課題に取り組んできました。私が専門とする森林水文学や森林気象学は歴史が長く、理論や技術体系が確立されており、上記の生態系サービスを科学的に評価できる専門分野であり、今後とも共同研究や産学連携を積極的に進めていきたいと考えております。

研究概要ポスター(PDF)

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キーワード

キーワード1  :  森林水文、森林気象、生態系サービス、東南アジア
キーワード2  :  生態系サービス、持続的な水資源管理