プロフィール
一般の方へ向けた研究紹介
分子を「動画化」して、古くて新しい薬剤耐性に立ち向かう
細胞の細胞膜には「膜タンパク質」と呼ばれるタンパク質群が埋め込まれており、その中の多くは栄養など必要な物質を取り込んだり、不要あるいは有害な物質を排出したりする役割を担っています。その中でも「グラム陰性細菌」と呼ばれる種類の細菌は、細胞膜の外側にもう一枚膜を持っており、抗菌剤など自分にとって危険な物質を外へ排出する「多剤排出ポンプ複合体」という仕組みを発達させています。このようなポンプの過剰発現は、抗菌剤の効かない薬剤耐性菌の発生を引き起こします。薬剤耐性菌の問題は以前から知られていましたが、その脅威は衰えるどころか年々増しています。実際、世界で2番目に多い死因である細菌性感染症の内、薬剤耐性菌はその6割以上に関与するとされます。さらにその影響は人間だけでなく、鶏や豚などの家畜にも及び、深刻な問題となっています。私はこのポンプがどのようにして多様な有害物質を見分け、二重の膜を通して外に排出しているのかを調べています。そのために、タンパク質複合体の詳細な構造を解析する研究を進めてきました。具体的には、クライオ電子顕微鏡という強力な装置を用いて、目には見えないポンプの構造を詳細に観察し、さらに計算科学の力を組み合わせて、タンパク質複合体の動きを動画として再現しています。
教育内容
「勉強」と「失敗」に没頭しよう!
よく「高校までの勉強には正解があるが、大学からの勉強には正解はない」と言います。しかし私としては、「高校までの勉強の前提はほぼ崩れないが、大学からの勉強の前提は容易に崩壊する」と言い換えたいと思います。新しい知識を吸収しながら、これまで当然のように結んでいた等式は本当にイコールで結んでよいのか、前提条件に抜けはないのかを常に疑い、到達し得ないかもしれない真理に対して、より良い近似解を目指し続ける。前提の破壊と再構築が、勉強の本質だと考えています。研究室では、「論文にこう書いてあるから」と短絡的に受け入れるのではなく、「どのような仮定に基づき、実験手法の限界はどこにあり、どの範囲まで適用できるのか」をしっかり考えるように指導しています。また実験においては、「意味のある失敗」を積み重ねられるよう、常に計画性を重視するよう伝えています。実験計画が曖昧で比較対象も不十分なまま手を動かしても、それは単なる作業であり、実験とは言えません。どれほど緻密に計画しても、実験が思い通りに進まないことは多々あります。しかし、それが「意味のある失敗」であれば、必ず解へと至る道筋となります。大学院生という立場は、人生の中で最も「勉強」と「失敗」に没頭できる貴重な時期です。学生がその期間を有意義に過ごせるよう、私は日々教育活動に取り組んでいます。
共同研究や産学連携への展望
動的構造解析が紡ぐ、生命科学と食の新しい可能性
私はこれまで多剤排出ポンプ複合体だけではなく、様々なタンパク質を対象に、クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析に取り込んできました。近年、クライオ電子顕微鏡の活用範囲は急速に広がっていますが、構造解析に適したサンプル調製や、信頼性の高い精緻な解析を実現するには、なお多くの課題があります。私は、目的タンパク質の発現から構造解析まで一貫して対応できるノウハウを持っていることを強みとしています。そのため、多剤排出ポンプに限らず、構造解析に関してお困りのことがあれば、ぜひご相談いただければと思います。
多剤排出ポンプ複合体と基質との相互作用は一般に非常に弱く、結晶構造のような単一な基質との複合体構を決定することは難しい場合がほとんどです。しかし、クライオ電子顕微鏡による動的構造解析は、このような非均一なタンパク質-基質の複合体構造について可視化できるポテンシャルを持っています。現在は、このアプローチを食品成分とタンパク質の複合体構造解析に応用し、研究を進めています。私が所属する食品生物構造学研究室は、天然物からの活性物質の抽出・同定に強みを持っています。その知見と私の構造解析技術を組み合わせることで、天然物とタンパク質の複合体構造を明らかにし、新たな機能性食品の開発につなげられると考えています。
研究概要ポスター(PDF)
関連リンク
キーワード
キーワード1 : 細菌、タンパク質、構造生物学、薬剤耐性、創薬、多剤排出ポンプ複合体、膜タンパク質、トランスポーター、クライオ電顕
キーワード2 : 多剤耐性、健康寿命、感染症対策