農学のミッション

連の中位推計によれば、2050年の世界の人口は91億人。この地球人口をどう養うか。安全な食料の効率的な生産は、まさに人類喫緊の課題です。いまでも8億の人々が飢餓や栄養不良に苦しんでいるのです。

けれども、農薬や化学肥料に過度に依存した食料生産は、土壌の劣化や水質汚染などの環境破壊を伴いがちです。森林の保全に無頓着な農地開発も問題です。将来の世代につけをまわす身勝手な食料増産であっては困るのです。

農学のミッション

料か環境か。現世代か未来の世代か。思わずため息の出る壮大なジレンマです。現代の農学は科学の英知を武器にこの難問に立ち向かい、食料確保の命題と環境保全の命題を高いレベルで両立させることを目指しています。それが、子や孫の世代に良好な環境を引き継ぐことにもなるのです。農学はグローバルな使命に導かれるmission orientedな学問だと言ってよいでしょう。農学に携わる私たちは、このことを誇りとしています。

け声だけでは何も進みません。お手軽な処方箋を求められても困ります。具体的なテーマに即して新知見を粘り強く発掘し、ジレンマの克服に科学の立場から貢献するところに農学の本領があります。

現代の農学は高度に専門化しています。分子レベルや細胞レベルの研究、個体レベルの研究、さらに群レベルや生態系レベルの研究が、実験室やフィールドで日夜展開されているのです。しかも、現代の農学は日進月歩です。分野によっては、数年のブランクで浦島太郎というわけです。

農学のミッション

っとも、進学したばかりの学生諸君をいきなり農学のフロンティアに放り込むことはありません。農学部の教育は課程・専修制という独特のシステムのもとで行われます。

農学部は1つの学部3つの課程、14の専修、そして100の研究室からなる4層の構造として組み立てられているのです。進学が内定すると、最初の半年間は農学総合科目や農学基礎科目を学びます。農学部の学生全体に開かれた講義です。

次に学ぶのは課程専門科目です。こちらも講義科目ですが、専門性のレベルが一気に高まります。最後のステップは専修専門科目です。おもに実験・実習の科目で、研究室に所属して履修します。ここまで来れば、もう農学のフロンティアを見渡すことができるはずです。

のようなカリキュラムの編成は、農学のミッションを深く理解してもらうとともに、シャープな専門知を身につけてもらうためのものです。日進月歩の農学部は、そのミッションの担い手にふさわしい人材を求めています。

農学を学ぶことは、クールな知性を鍛え上げながら、思いやりのあるハートを養っていただくことなのです。動物や植物に優しい人、フィールドワークが大好きな人、時を忘れて実験に没頭できる人、そして国際社会に貢献を希望する人。農学部はこうした若者に開かれた学部です。