発表者
磯部一夫(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 助教)
Nicholas J. Bouskill (Lawrence Berkeley National Laboratory)
Eoin L. Brodie (Lawrence Berkeley National Laboratory, University of California, Berkeley)
Erika A. Sudderth (Brown University)
Jennifer B. H. Martiny (University of California, Irvine)

発表のポイント

  • 地球規模の環境変動に対し、土壌に生息する多様な微生物、特にバクテリア(細菌)が示す応答は進化系統的に保存されていることを明らかにしました。
  • 特定の環境変動に対し、微生物の多くは異なる生息環境下においても一様の応答を示す傾向にあることを明らかにしました。
  • 環境変動に強く応答する微生物の進化系統は、環境変動の種類によって異なることを明らかにしました。
  • 地球規模の環境変動に対し、土壌に生息する多様な微生物が示す応答を予測できるようになることが期待されます。

発表概要

 微生物、特にバクテリア(細菌)はわずか1グラムの土壌に数千種もいると推定されています。この多様さゆえに土壌に生息する微生物群集の環境応答を予測することは非常に困難です。今回、東京大学大学院農学生命科学研究科の磯部一夫助教らは、地球規模の環境変動(温暖化、干ばつ、大気二酸化炭素濃度の上昇、土壌へのリンや窒素の流入)に対して、バクテリア群集が示す応答についてメタ解析を行い、応答が進化系統的に保存されている(進化系統的に近いバクテリアは類似の応答を示す)ことを明らかにしました。さらに特定の環境変動に対して、土壌に生息するバクテリアの多くは異なる生息環境下においても一様の応答を示すことを明らかにし、それらバクテリアの進化系統を特定しました。続いて、環境変動に強く応答する微生物の進化系統は環境変動の種類によって異なることを明らかにしました。以上の結果は、進化系統情報を用いることで、地球規模の環境変動に対してバクテリア群集の構成がどのように変化するのかを予測できることを示唆しています。

発表内容


1.  地球規模の環境変動(a. 温暖化、b. 干ばつ、c. 大気二酸化炭素濃度の上昇、d. 土壌へのリンの流入)に対して、土壌に生息する多様な微生物(特にバクテリア)が示す応答は進化系統的に保存されている
異なる生息環境における各バクテリアの応答の平均値を進化系統樹にマッピングした図。青は環境変動下において存在量が増えるバクテリア、赤は減るバクテリア。増えるバクテリアと減るバクテリアが進化系統樹上でランダムに分布しているのではなく、それぞれまとまって分布していることがわかる。これらは生息環境が異なっていても特定の環境変動に対して一様の反応を示すバクテリア系統群と考えられる。

 土壌に生息する豊富で多様な微生物群集は動植物遺体の分解、物質循環の形成、植物への養分供給、炭素や窒素の貯蔵などの機能を担い、生態系を支えています。そのため生態系が環境の変動に対してどのように応答するのかを理解し、予測するためには、土壌に生息する微生物群集の環境応答を理解し、予測することが重要です。温暖化や干ばつなどの大規模な環境変動が認められる現在、世界各地で環境変動を模した実験が行われ、植物の成長・群落組成や物質循環の応答など多岐にわたる調査がなされています。しかし土壌に生息する微生物、特にバクテリア(細菌)はわずか1グラムの土壌に数千種もいると推定されるほど多様であるために、バクテリア群集が示す応答を予測することは非常に困難です。
 今回、東京大学大学院農学生命科学研究科の磯部一夫助教らは、地球規模の環境変動に対して、土壌に生息する多様なバクテリアが示す応答は進化系統的に保存されている(進化系統的に近いバクテリアは特定の環境の変動に対して類似の応答を示す)か否か、について検証しました。地球規模の環境変動として、温暖化、干ばつ、大気二酸化炭素濃度の上昇、土壌へのリンや窒素の流入に着目しました。
 世界各地で行われている上記の環境変動を模した長期生態モニタリング実験において得られたバクテリア群集構成のメタ解析を行いました。実験が行われた各地点において、特定の環境変動に対して土壌に生息するバクテリア群集内の個々のバクテリアが示す応答(存在量が増えるか減るか)を算出し、その応答が進化系統的に保存されているかどうかを検証しました。続いて、多くの地点で検出されたバクテリアに着目し、それらバクテリアの応答は生息環境(生態系や環境変動の強さ)が違っていたとしても類似の応答を示すか、あるいは生息環境毎に異なる応答を示すかを検証しました。
 その結果、特定の環境変動(温暖化、干ばつ、大気二酸化炭素濃度の上昇、土壌へのリンや窒素の流入)に対してバクテリア群集が示す応答は、検証した多くの地点において進化系統的に保存されていること、異なる生息環境下においても一様の応答を示す傾向にあることを見出しました。それにより、特定の環境変動に対して一様の応答を示すバクテリアの進化系統群を特定できました。さらに、環境変動に強く応答する微生物の進化系統は環境変動の種類によって異なることを明らかにしました。以上の結果は、進化系統情報を用いることで、様々な地球規模の環境変動に対して土壌のバクテリア群集の構成がどのように変化するのかを予測できることを示唆しています。
 今後は、様々な地球規模の環境変動に対して、土壌に生息する多様なバクテリアの構成のみならずバクテリアが担っている様々な生態系機能の変化までを含めて予測できるようになることが期待されます。
 本研究は、日本学術振興会の海外特別研究員事業ならびに科学研究費助成事業の支援を受けて行われました。

参考: 土壌のバクテリア群集の窒素応答は進化系統的に保存されている

発表雑誌

雑誌名
Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences
論文タイトル
Phylogenetic conservation of soil bacterial responses to simulated global changes
著者
Kazuo Isobe, Nicholas J. Bouskill, Eoin L. Brodie, Erika A. Sudderth, Jennifer B.H. Martiny
DOI番号
10.1098/rstb.2019.0242
論文URL
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rstb.2019.0242

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 土壌圏科学研究室
助教 磯部 一夫(いそべ かずお)
Tel:03-5841-5140
E-mail:akisobe<アット>mail.ecc.u-tokyo.ac.jp <アット>を@に変えてください。 
研究室URL:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/soil-cosmology