発表者
有村　慎一(東京大学大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻 准教授)
綾部　弘基(東京大学大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻 大学院生)
菅谷　　元(東京大学大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻 大学院生:当時)
奥野　未来(東京工業大学　特任研究員)
田村　美子(東京大学大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻 技術補佐員)
鶴田　　遊(東京大学大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻 大学院生:当時)
亘　　悠太(東京大学大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻 大学院生:当時)
柳瀬　俊吾(東京大学大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻 大学院生:当時)
山内　卓樹(東京大学大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻 特任研究員)
伊藤　武彦(東京工業大学　教授)
豊田　　敦(国立遺伝学研究所　教授)
髙梨　秀樹(東京大学大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻　助教)
堤　　伸浩(東京大学大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻　教授)

発表のポイント

  • 昨年同グループが世界で初めて成功した「植物ミトコンドリア内にあるゲノムの改変」を改良発展させ、実験モデル植物であるシロイヌナズナでの技術確立に成功しました。
  • 改変されたミトコンドリアゲノムは安定して次世代に遺伝し、また交配掛け合わせによる新規改変配列の誘導や、ゲノム編集後に核ゲノム上の人工制限酵素配列の除去にも成功しました。
  • 実験モデル植物でのミトコンドリアゲノム改変技術の確立は、謎の多い植物ミトコンドリアにおける機能解明の研究加速や、作物改良の技術基盤開発への貢献が期待されます。

発表内容

図　mitoTALEN法によるミトコンドリアゲノム上の標的遺伝子破壊

　植物細胞では、核のほかに葉緑体とミトコンドリアにも遺伝情報(ゲノム)が存在しており、それぞれ光合成や呼吸、農業生産に重要な影響をもつ遺伝子群もコードしていることが知られています。このうち、ミトコンドリアゲノムは最近まで改変が不可能でしたが、昨年、東京大学の有村慎一准教授・堤伸浩教授らを含むグループがイネとナタネを材料として、これに成功しました(https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20190709-1.html)。今回はこの技術を改良・発展させ、実験モデル植物として知られるシロイヌナズナでのミトコンドリアゲノム編集技術(標的遺伝子破壊)の開発に成功しました。具体的には、ゲノム編集の為の人工制限酵素(狙った配列を切断できる酵素)TALENにミトコンドリア行きの輸送シグナルを付加したタンパク質(mitoTALEN)の配列情報を核ゲノムに導入することで、細胞質で翻訳された酵素がミトコンドリアへ輸送され、ミトコンドリアゲノム上の標的配列を切断し変異が導入されるという方法(図)です。今回のシロイヌナズナを用いた方法では、①シロイヌナズナで有効な遺伝子発現プロモータの選抜、②改変後ゲノムを正しく高感度に検出するためのmultiplex-PCR法等の技術開発、③シロイヌナズナの核ゲノム形質転換に用いられるフローラルディップ法を介した効率の良いミトコンドリアゲノム改変方法の確立、④次世代(特にmitoTALENをコードする配列が核ゲノムから無くなった)系統での安定的な改変型ミトコンドリアゲノムの遺伝、⑤mitoTALENを持つ株を花粉親として、野生型植物を種子親として交配を行うことで、次世代で新たなミトコンドリアゲノム改変を引き起こすことができること、などを示すことができました。実験モデル植物でのミトコンドリアゲノム改変技術の確立は、未だ謎の多い植物ミトコンドリアの機能解明を効率良く推進するためのツールとして大きな貢献を果たすと考えられます。また、ミトコンドリアゲノム上には農産物生産で多用されるF1ハイブリッド育種において欠かせない遺伝子が存在することがあり、これらの未知の分子メカニズムの解明や、有用改変配列の創出を通して作物の品種改良にも繋がることが期待されます。
　本研究は、文部科学省ならびに日本学術振興会科学研究費「20H05680(基盤研究S)、 16H06279 (先進ゲノム支援)、 19H02927(基盤研究B) 19KK0391(国際共同研究強化A)、東京大学GAPファンドプログラムの支援により行われました。

発表雑誌

雑誌名
The Plant Journal　(巻号等未定)2020年10月24日オンライン公開
論文タイトル
Targeted gene disruption of ATP synthases 6-1 and 6-2 in the mitochondrial genome of Arabidopsis thaliana by mitoTALENs.
著者
Shin-ichi Arimura*, Hiroki Ayabe, Hajime Sugaya, Miki Okuno, Yoshiko Tamura, Yu Tsuruta, Yuta Watari, Shungo Yanase, Takaki Yamauchi, Takehiko Itoh, Atsushi Toyoda, Hideki Takanashi, Nobuhiro Tsutsumi
DOI番号
doi:10.1111/tpj.15041
論文URL
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/tpj.15041

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科　生産・環境生物学専攻　植物分子遺伝学研究室
准教授　有村　慎一(ありむら　しんいち)
Tel:070-3284-6496
E-mail:arimura<アット>g.ecc.u-tokyo.ac.jp 　<アット>を@に変えてください。