発表者
藤澤 秀次(東京大学大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻 助教)
高崎 祐一(株式会社アントンパール・ジャパン)
齋藤 継之(東京大学大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻 教授)

発表のポイント

  • 分子鎖で表面をグラフト化(注1)したセルロースナノファイバー(CNF)の構造を解明しました。
  • 得られた構造から、表面グラフト化CNFが様々な溶媒中で分散安定化する機構を明らかにしました。
  • バイオマス由来であるセルロースの材料利用は、低炭素社会の構築に不可欠です。本研究の知見を活かし、CNFの構造と機能を明らかにすることで、セルロースの利用用途をさらに拡大することが可能となります。

発表概要

 木質バイオマス由来のセルロースナノファイバー(CNF)は、低炭素社会の実現に貢献する材料として注目されています。CNFを化粧品や自動車部材などへの応用する研究も加速しており、CNFの増粘剤としての機能や樹脂中での補強効果を向上させるために、表面グラフト化をはじめとするCNFの表面修飾が一般的に行われます。しかし、表面グラフト化CNFの構造は複雑であり、これまでに十分に理解されていませんでした。

 本研究では表面グラフト化CNFの構造を分子動力学シミュレーション(注2)と小角X線散乱法(注3)を用いて明らかにしました。これら解析から、グラフト化された分子鎖はCNF表面で若干伸びたブラシのような構造を有していることが分かりました。このように高密度なブラシ状の構造を表面に有することで、CNFは様々な溶媒中で分散性が向上することが示されました。今回の知見を活かすことで、CNFの界面構造が材料中でどのように機能性を発現しているかが明らかになり、CNF系材料の力学、光学、熱物性などの理解やさらなる向上が期待できます。これにより、バイオマスの有効活用と持続可能で豊かな社会の実現に貢献する材料の開発が期待されます。

発表内容

図:表面グラフト化セルロースナノファイバーの構造
(上)今回明らかになった表面グラフト化セルロースナノファイバーの構造。緑色の部分が表面にグラフト化した分子鎖。(下)芯の部分であるセルロースナノファイバーのみをとりだしたもの。nm (ナノメートル):ミリメートルの1,000,000分の1 (拡大画像↗)

 近年、低炭素社会の実現に向けて、バイオマス由来材料が注目されています。なかでも非可食性バイオマス由来のCNFは、軽く、強く、しなやかな材料として高機能用途への応用が期待されています。特にCNFを増粘剤や高強度フィルムとして利用したり、補強材として自動車部材へ利用したりする研究が注目されています。これら材料中でCNFの粘弾性や表面物性、補強効果を向上させるために、CNFに対して表面グラフト化をはじめとする表面修飾が一般的に施されます。しかし、表面グラフト化CNFの構造はこれまでに解明されておらず、材料中で構造がどのように機能性を発現しているか十分に理解されていませんでした。

 本研究では分子動力学シミュレーションによって、その構造を予測しました。その結果、CNF表面において、導入された分子鎖は若干伸びたブラシのような構造を有していることが分かりました(図)。これは、CNF表面に高密度にグラフト化されることで、分子鎖同士が窮屈になったためと考察できます。このように、分子鎖がブラシ状の構造を有することで、表面グラフト化CNF同士が接近した際、その間に大きな斥力が働きます。この機構によって、表面グラフト化CNFはエタノールなどの各種アルコールや、クロロホルム、トルエン、テトラヒドロフランなどの様々な溶媒中で安定に分散することが可能です。(表面グラフト化を行っていないCNFはこれら溶媒中で安定に分散することが困難。)また、小角X線散乱によって実験的に構造を解析したところ、得られた結果はシミュレーションの結果とよく一致しており、予測した構造の妥当性が実証されました。

 本成果を活用し、CNFの構造と機能への理解を深めることで、今後CNF系材料の物性向上が期待出来ます。これにより、バイオマスの有効活用と持続可能で豊かな社会の実現に貢献する材料の開発が期待されます。

 本研究は、JST来社会創造事業 (JPMJMI17ED)、JST CREST(JPMJCR22L3)、JSPS科研費 (JP20K15567, JP21H04733)の助成を受けて行われた研究です。

発表雑誌

雑誌名
Nano Letters(12月15日オンライン版)
論文タイトル
Structure of Polymer-Grafted Nanocellulose in the Colloidal Dispersion System
著者
*Shuji Fujisawa (*責任著者), Yuichi Takasaki, and Tsuguyuki Saito
DOI番号
10.1021/acs.nanolett.2c04138
論文URL
https://doi.org/10.1021/acs.nanolett.2c04138

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻
助教 藤澤 秀次(ふじさわ しゅうじ)
Tel:03-5841-5270
E-mail:afujisawa<アット>g.ecc.u-tokyo.ac.jp  <アット>を@に変えてください。

用語解説

  • 注1 グラフト化
     グラフトは「接ぎ木」という意味。本研究ではナノセルロース表面に分子鎖を接ぎ木のように導入した。
  • 注2 分子動力学シミュレーション
     原子や分子運動の時間発展を計算によって解析する手法。原子間に働く相互作用を考慮しつつ、ニュートンの運動方程式に基づいて解析を行う。
  • 注3 小角X線散乱法
     試料にX線を照射し、小角側に散乱されたX線の強度分布から試料の構造を予測する手法。