発表者
Dichao Ma (東京大学 大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻: 特任研究員)
福田 寛史(東京大学 大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻: 大学院生)
反田 直之(東京大学 大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻: 助教)
藤原  徹(東京大学 大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻: 教授)

発表のポイント

  • 特定のリボソームタンパク質が特定の栄養の集積や根の特定の成長パターンに影響を与えることを初めて明らかにしました。

発表概要

 リボソームはタンパク質合成を担う装置であり、生命維持に不可欠です。様々な生物で栄養条件に応じたタンパク質の合成制御にリボソームが関与していることが知られています。リボソームはRNAとタンパク質から構成されています。植物の場合にはリボソームを構成する約80のタンパク質は,ぞれぞれが複数の遺伝子によってコードされています。植物の栄養条件に応じたリボソームの役割を明らかにする研究の過程で、今回、リボソームタンパク質遺伝子の一つRPL13aCが欠損すると、地上部のカリウム蓄積が低下し、さらに地上部のカリウムの蓄積の低下によって根の形態が異常になることを発見しました。特定のリボソームタンパク質が特定の栄養の集積や根の特定の成長パターンに、影響を与えることが初めて明らかになりました。
 この研究は、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費補助金の支援を受けて行われました。

発表内容

図1. rpl13ac変異株で観察された根の斜行異常
野生型株(WT)と2種類の独立なrpl13ac変異株(rpl13ac-1, rpl13ac-2)を縦に置いた寒天培地で栽培すると、野生型株で観察される根の斜行がrpl13ac変異体では弱まっていることが見出された。RPL13aC遺伝子が根の伸長方向に影響を与えることが示唆された。 (拡大画像↗)

図2. rpl13ac変異株の地上部でのカリウム蓄積
寒天培地で栽培した野生型株(WT)と2種類の独立なrpl13ac変異株のカリウム濃度を地上部(Shoot)と根(Root)で測定したもの。単位は mg/g 乾燥重量。rpl13ac変異株では地上部のカリウム濃度が低下している。(拡大画像↗)

図3. rpl13ac変異株での根でのHAK5遺伝子のmRNA蓄積

寒天培地で栽培した野生型株(WT)と2種類の独立なrpl13ac変異株の根でのHAK5遺伝子のmRNA蓄積を定量したもの。rpl13ac変異株ではHAK5遺伝子のmRNA蓄積が低下している。(拡大画像↗)

図4. rpl13ac変異株およびhak5-2変異株の根の斜行に及ぼすカリウムの役割
寒天培地で栽培した野生型株(WT)、2種類の独立なrpl13ac変異株およびおよびhak5-2変異株を栽培し、地上部に水、NaCl(10 mM). KCl(10 mM)を与え、根の斜行(図1参照)の角度を示したもの。野生型株ではいずれの条件でも強い斜行が観察されたが、変異株はいずれも、水を与えたりNaClを与えた場合には斜行の程度が小さくなっていた。いずれの変異株でもKClを与えると、斜行の程度が回復した。このことは、地上部のK濃度を高めることで根の斜行を野生型と同じ程度に回復させることができることを示している。(拡大画像↗)

【研究背景と内容】
 植物の根系の構造は、さまざまな栄養条件に適応するして形態を変化させます。シロイヌナズナを固形寒天培地に播種して、培地を垂直に置いて成長させると、根は真下に伸びず斜めに伸びる(斜行)ようになります。応用生命化学専攻植物栄養・肥料学研究室では、栄養輸送体遺伝子の発現が翻訳レベルで精密に制御されていることを明らかにしてきています。本研究では翻訳装置であるリボソームを構成するタンパク質遺伝子の変異株を研究する過程で、rpl13ac変異体では斜行が起こりにくいことがわかりました(図1)。また、この変異株では地上部のK含量が減少しており、根ではK含量が変化していないことが明らかになりました(図2)。網羅的発現解析の結果、rpl13ac変異体の根では、地上部へのカリウムの輸送を担うHigh-affinity K+ transporter 5 (HAK5)mRNA蓄積が減少していることがわかりました(図3)。また、HAK5遺伝子に変異を持つ変異体では、地上部のK含量が減少し、根の斜行も起こりにくくなっていました。これらの結果はrpl13ac変異体の根が斜行しにくくなることが、地上部のK含量の減少に起因することを想像させます。地上部のK含量の減少が根の斜行に影響を及ぼすかどうかを確かめるために、野生型の植物で地上部を切断したり、地上部へのK供給を制限したりすると根の斜行も減少すること、rpl13ac変異体、hak5変異体、およびK-飢餓状態の野生型株の地上部にKを与えると、根の斜行が回復することを示しました(図4)。
 これらの結果は、RPL13aCが地上部のへのK蓄積をHAK5 mRNAの蓄積を介して制御していること、地上部のK蓄積が根の斜行を制御していることを示しています。

【成果の意義】
 植物ではそれぞれのリボソームタンパク質を複数の遺伝子がコードしており、極めて多様なリボソームが構成されていると考えられますが、特定のリボソームタンパク質が特定の栄養の集積や根の特定の成長パターンに影響を与えることが初めて明らかになりました。今後、同様の解析を通じて、リボソームタンパク質の多様性を通じたさまざまな環境に対する翻訳レベルの応答が明らかされることが期待されます。

発表雑誌

雑誌名
The Plant Journal
論文タイトル
Arabidopsis thaliana RPL13aC affects root system architecture through shoot potassium accumulation
著者
Dichao Ma, Hirofumi Fukuda, Naoyuki Sotta, Toru Fujiwara
DOI番号
10.1111/tpj.16386
論文URL
https://doi.org/10.1111/tpj.16386

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科  応用生命化学専攻 植物栄養・肥料学研究室
教授 藤原 徹(ふじわら とおる)
Tel/Fax:03-5841-5104
E-mail:atorufu <アット>g.ecc.u-tokyo.ac.jp  <アット>を@に変えてください。

関連教員

藤原 徹