発表のポイント

  • 中国西南高原におけるマツタケ(Tricholoma matsutake) のコモディティチェーンにおいて利益率が異なるステークホルダーが共存することが明らかになった。
  • 政府とNGOは、安定した市場秩序の形成に影響を及ぼす。
  • マツタケ(Tricholoma matsutake) のコモディティチェーンに関する政策や資金は、持続性に欠ける傾向を示した。
  • コモディティチェーンの管理においては、公平性と伝統知識を考慮すべきである。

発表概要

非木材林産物を自家消費以外の目的で商品化することは、農村の貧困と森林劣化の緩和を図るための一つの戦略である。生態文明化計画の推進に伴い、中国政府は持続可能なエコロジカル製品の価値実現メカニズムを模索してきており、既に多くの農産物商品化の成功事例が生まれている。本研究では、シャングリラ地方におけるマツタケ(Tricholoma matsutake)を例として、中国西南高原におけるマツタケ(Tricholoma matsutake)のコモディティチェーン構築の動態について、半構造化インタビュー、参加型観察、二次データ収集、統計分析などの質的・量的分析を適用し、現代の中国農村に関するユニークな洞察を得た。

具体的には、コモディティ管理の中核プロセスにおける多様な参加者の相互関係と機能論理を分析した。その結果、マツタケ(Tricholoma matsutake)のコモディティチェーンにおける上流から下流までの参加者は、土地の所有権や統一されていない基準などの制度的な制約を受けていること、また、シャングリラでのマツタケ(Tricholoma matsutake)の取引には市場が不可欠であることが明らかになった。さらに、コモディティチェーンの一部の参加者は非効率的な情報源に頼らざるを得ない一方で、マツタケ(Tricholoma matsutake)の取引プロセスにおいて仲介業者はより大きな自主性を持ち、より大きな利幅を有していることが示された。

また、政府や非政府組織の関与は、天然資源の保護や安定した市場秩序の形成に影響を与えるものの、政策や資金は短期間で終わり持続性には欠ける傾向が見られた。高原地域における非木材林産物のコモディティチェーンの持続性を高めるためには、社会的・文化的要因を考慮し、コモディティチェーンに関与する多様な参加者の公平性を確保するとともに、天然資源管理に関連する地域に根付く伝統的知識を保護することが求められる。

図1.マティアスら(2018年)による研究を基にしたコモディティチェーンの研究フレームワーク

図2.マツタケ(Tricholoma matsutake)のコモディティチェーンにおける可能な経路

図3.現地キノコ採取者へのインタビューの様子 (雲南省にて)

発表者・研究者等情報

東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻
 李 欣阳 博士課程
 香坂 玲 教授
中国人民大学農業農村開発学院
 刘 金龙 教授

発表雑誌

雑誌名
Trees, Forests and People
論文タイトル
Commodity Chain as a Negotiated Process: Empirical Analysis of Benefit Allocation, Governance, and Powers of Upstream and Downstream Actors in Matsutake Mushroom Trade in Shangri-La, Yunnan Province
著者
李 欣阳, 刘 金龙,香坂 玲*  (*責任著者)
論文URL
10.1016/j.tfp.2024.100618
論文URL
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666719324001250

研究助成

本研究は、中国国家自然科学基金会[助成番号71973145]、JST SPRING[助成番号JPMJSP2108]及び科研費(気候変動・縮小期における観光と保全の両立:境界オブジェクトとしての土地利用マップJP22H03852, JP21K18456[代表 香坂玲])の支援により実施された。

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 森林風致計画学研究室
教授 香坂 玲(こうさか りょう)
Tel:03-5841-5218
E-mail:kohsaka.lab<アット>gmail.com
    kohsaka<アット>hotmail.com <アット>を@に変えてください。
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