自治体による航空写真と衛星画像の使い分けの現状と課題:過渡期にある植被率調査手法
発表のポイント
- 日本の20の政令指定都市に焦点を当て、現在の植生被覆調査方法を評価
- いくつかの都市では、主にコストを理由に衛星画像に切り替えるか、切り替えを検討中
- 緑地面積の把握方法やデータの統一化、変更前後のデータ統合手法の必要性が示唆
- 研究者を含む科学コミュニティは、自治体におけるコストなどの制約を踏まえ、手法の正確性や比較可能性を考慮した手法の選択において、自治体を評価・支援する上で重要な役割を担う
- [形式:Policy overview]
発表内容
本研究では、日本の政令指定都市20市を対象に、聞き取り調査を実施し、各市の植生被覆調査方法の現状を整理した。
2024年時点で、植生被覆率の調査に航空写真を使用している市は8市、衛星画像を使用している市は9都市で、ほぼ同数であった。また、植生被覆率を測定していない都市は3市であった。航空写真を使用した市の中で、5市は高解像度を主な理由に挙げ、3市は過去データとの整合性が重視された。一方、衛星画像を使用した市のうち4市は財政的理由、2市は効率性、1市は広範囲をカバーできる点、1市は正確性を理由としていた。全体として、コストが衛星画像の主な理由として挙げられた。調査を行っていない3市は、植生被覆率よりも緑視率(視野に入る緑の量)や質(レクリエーション、公園数など)を重視していた。
20市のうち4市がこれまでに調査方法を変更しており、そのうち3市は航空写真から衛星画像に変更し、1市はコスト面で衛星画像に変更したものの、解像度やデータの統一性に問題があり、再び航空写真に戻した経緯があった。
変更に関する主な懸念としては、航空写真を使用する4市は、既存データとの整合性を懸念しており、他の市は解像度やコストを問題視していた。また衛星画像を使用する9市のうち5市は予算上の懸念を挙げた。現行方法の問題点を尋ねたところ、航空写真を使用する市では、予算確保や同時期のデータ取得の必要性を挙げた。衛星画像を使用する市でも同様の課題が挙げられ、また、過去の調査との比較が難しいという課題も提示された。
航空写真を使用する都市と衛星画像を使用する都市の緑地面積を比較した結果、衛星画像を使用する都市の方がやや広い傾向が見られたが、統計的には有意差は見られなかった(図1[左])。また、それぞれのグループ内で例外的に高い緑被率を持つ市が確認された。例外の市は山地が多く含まれていた。これらの市のうち、航空写真を使用している市では、衛星画像の利用にかかる委託費が課題で、コストが低ければ衛星画像を利用する意向がある、市役所内の他部署とデータを共有している、これまでは航空写真を使用していたが、2024年夏に委託される次回の調査では衛星画像を使用する予定である、などの回答を得た。衛星画像を使用する都市では、例外的に植生被覆率が低い市が1市認められ、「航空写真のコストに問題がある」と回答した。先行研究では、航空写真と衛星画像の選択は緑地面積の広さや周囲の条件に依存し、広範囲をカバーする場合は衛星画像がコスト面で有利とされているが、都市部では高解像度が必要で、衛星画像は不十分な場合がある。必要な精度、画像処理の容易さ、予算などが、データ選択を検討する際の要素となる。
緑の基本計画では、市町村が将来の緑地の保全・緑化の推進戦略を定めている。特に人口集中都市では、緑地の評価・モニタリングを目的とした定期的な調査が行われている。しかし、調査方法は統一化されておらず、費用、労力、求められる精度、過去データとの比較可能性などを考慮し、各市町村の裁量に委ねられている。その結果、各市町村が公表するデータは統一性に欠け、比較や包括的な把握が困難であるのが現状である。さらに、画像解析技術等の急速な進歩により、市町村の調査方法の選択は過渡期にある。自治体が使用するデータは全国的に統一されているのが理想である。インタビューでは、緑地面積の把握方法やデータの統一化に関心を示す回答者も存在し、データの統合が可能であれば変更を検討するとの回答者も複数見られた。しかし、これまでの調査結果との整合性確保の観点から、現状の調査方法の変更や統合には課題があり、各手法の統一的な調査基準の模索・策定に取り組む必要がある。そのためには標準化された手法を用いて各市町村の緑被率を推定し、その数値を正確に把握することが重要である。本分析の結果は、財源や人手の制約を踏まえつつ、手法の精度と比較可能性を考慮した都市緑地管理への科学的貢献の必要性を示している。
図 航空写真と衛星写真を用いた都市における緑地面積の違い(左)と植生被覆の違い(右)
本研究は、科研費(JP22H03852、JP23H01584、JP23H03605)、JST共創の場形成支援プログラム(JPMJPF2110)、環境省による環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20241M03)の一環として実施された。
発表者
東京大学大学院農学生命科学研究科 森林風致計画学研究室
祖父江 侑紀 特任研究員
香坂 玲 教授
発表雑誌
- 雑誌
- Environmental and Sustainability Indicators
- 形式
- Policy overview
- 題名
- Vegetation Cover Survey Methods at Cross-Roads: Choice of Aerial Photography or satellite imagery by Japanese Municipalities
- 著者
- Yuki Sofue, Ryo Kohsaka* (*責任著者)
- DOI
- 10.1016/j.indic.2024.100471
問い合わせ先
東京大学大学院農学生命科学研究科 森林風致計画学研究室
特任研究員 祖父江 侑紀
Tel:03-5841-5218
E-mail:kohsaka.lab<アット>gmail.com
kohsaka<アット>hotmail.com <アット>を@に変えてください。
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