研究成果のポイント

  • 東京を含む世界16都市におけるネズミに関する苦情数を解析したところ、多くの都市で苦情数が増加している反面、東京では減少していました。
  • 苦情数の変化を最も説明する要因は平均気温であり、続いて緑被率と人口密度であることが明らかになりました。
  • これらの環境要因の影響も考慮しながら、各都市に固有の状況に応じたネズミ対策を考えていくことが必要です。

研究概要

 リッチモンド大学生物学部のジョナサン・リチャードソン助教は東京大学大学院農学生命科学研究科の清川泰志准教授らと共同で、気候変動や都市化がネズミに与える影響を解析しました。東京を含む世界16都市におけるネズミに関する苦情数を分析したところ、ワシントンD.C.やニューヨーク、アムステルダムなどの11都市では苦情数が増加していました。一方、東京、ルイビルおよびニューオーリンズの3都市では苦情数が減少していました。そして、苦情数増加の40.7%を平均気温が説明し、次いで緑被率と人口密度がそれぞれ34.3%と19.4%を説明していることがわかりました。これらの結果から、地球温暖化は都市化とともにネズミを増加させる要因であることが示唆されました。ただし、これは世界レベルの大まかな傾向であることから、各都市は固有の状況に応じたネズミ対策が必要です。また、必要となるデータが常に利用できるように、適切なリソースの投入も求められます。

研究内容

 ドブネズミやクマネズミは世界中の都市にいる害獣です。近年、地球温暖化や都市のヒートアイランド現象によりネズミの数が増加していると多くのメディアで報じられています。しかし、正式な調査はほとんど行われていません。そこで本研究グループは、アメリカ、カナダ、オランダ、ブラジルおよび日本の16都市で得られた7~17年間のデータを用いて、各都市のネズミ数の変化を解析しました。
ネズミの数を直接把握することは難しいため、それと相関関係にあるネズミに関する苦情数を代替指標として解析に用いました。まず、苦情数の長期的な変化を解析しました。その結果、ワシントンD.C.やニューヨーク、アムステルダムなどの11都市では苦情数が増加していました。一方、東京、ルイビルおよびニューオーリンズの3都市では苦情数が減少していました。
次に、苦情数の変化と関連する環境要因を探りました。その結果、苦情数変化の40.7%を平均気温が説明し、次いで緑被率と人口密度がそれぞれ34.3%と19.4%を説明していることがわかりました(図1)。対照的に、都市のGDPや最低気温はそれぞれ3.4%と2.3%しか説明できませんでした。

図1:苦情数変化を説明する環境要因
ネズミに関する苦情数の変化を最も説明する要因は平均気温であり、続いて緑被率と人口密度であることが明らかになりました。都市のGDPや最低気温が説明する度合いは低いことが分かりました。

 そして、これらの要因の影響をさらに詳しく調べていきました。その結果、平均気温が上昇するほど、また人口密度が高いほど、苦情数の増加率が大きいことが確認されました(図2左)。しかし、苦情数の増加率は各月で同程度であったことから、気温上昇はある特定の期間に影響を与えたというよりは、年間を通じて苦情数を押し上げたと考えられます。一方、緑被率が高いほど、また緑被率の減少が小さいほど、苦情数の増加率が抑えられたり、苦情数が減少したりすることも確認されました(図2右)。ただし、緑被率の減少と平均気温の変化との間に関連はありませんでした。そのため、緑被率の減少が平均気温を上昇させた結果として苦情数が増加したのではなく、緑被地の減少という都市構造の変化自体が苦情数を増加させたと考えられます。またGDPや最低気温は苦情数の変化と関連していませんでした。

図2:苦情数と環境要因の関係
平均気温が上昇するほど、また人口密度が高いほど、苦情数の増加率が大きいことが確認されました(左)。緑被率が高いほど、また緑被率の減少が小さいほど、苦情数の増加率が抑えられたり、苦情数が減少したりすることも確認されました(右)。各データポイントは1つの都市を表し、各ポイントの色は気温の変化(左)や2020年の緑被率(右)を表しています。各ポイントの大きさは人口密度(左)や1992年から2020年にかけての緑被率の低下度合い(右)を表しています。

以上の結果から、地球温暖化や都市化がネズミの数を増加させることが示唆されました。ただし、これは世界レベルの大まかな傾向であることに注意が必要です。また、ネズミの数に影響を与える各都市固有の要因が次々に現れます。たとえば、ニューヨークでは2024年から新たなゴミ捨てルールが導入され、ネズミに関する苦情数が減少し始めています。一方、東京では2022年からネズミに関する苦情数が急増しています。したがって、温暖化や都市化の影響を踏まえつつ、各都市に固有の状況に応じたネズミ対策を考えていくことが必要です。さらに、必要となる最新のデータが常に利用できるように、各都市には適切なリソースを投入することが求められます。

発表者

東京大学大学院農学生命科学研究科
 清川 泰志 准教授
リッチモンド大学生物学部
 ジョナサン リチャードソン 助教

論文情報

雑誌
Science Advances
題名
Increasing rat numbers in cities are linked to climate warming, urbanization and human population
著者
Jonathan L. Richardson*, Elizabeth P. McCoy, Nicholas Parlavecchio, Ryan Szykowny, Eli Beech-Brown, Jan A. Buijs, Jacqueline Buckley, Robert M. Corrigan, Federico Costa, Ray DeLaney, Rachel Denny, Leah Helms, Wade Lee , Maureen H. Murray, Claudio Riegel, Fabio N. Souza, John Ulrich, Adena Why, Yasushi Kiyokawa
DOI
https://doi.org/10.1126/sciadv.ads6782

問い合わせ先

(研究内容については発表者にお問合せください)

東京大学大学院農学生命科学研究科
 准教授 清川 泰志(きよかわ やすし)
 E-mail:akiyo[at]mail.ecc.u-tokyo.ac.jp

東京大学大学院農学生命科学研究科 広報室
 Tel:03-5841-8179 E-mail:koho.a[at]gs.mail.u-tokyo.ac.jp

※上記の[at]は@に置き換えてください。

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