効率的な伐採作業と持続的な森林管理に資する小規模・分散型森林の集約化手法の開発
発表のポイント
◆AI技術(グラフ畳み込みネットワーク)を活用し、森林施業単位を効率的に集約する新手法を提案しました。本手法では、傾斜、道路への近さ、隣接関係といった各単位の属性が相互に作用し、空間的な特徴を反映した集約が可能になります。
◆空間的関係性の仮定に応じて、「単結合モデル」と「全結合モデル」の2種類の接続パターンを構築し、それぞれの集約結果に与える影響を評価しました。
◆所有形態の分散性や地形の多様性が顕著な日本の森林条件に適応した、柔軟かつデータ駆動型の施業単位集約手法を提供しました。
◆集約された施業単位の属性は、持続可能かつ経済的に実行可能な施業計画の策定に資するものであり、精密な伐採計画や長期的な森林管理に向けた基盤を提供することが期待されます。
発表概要
日本の林業は、土地所有の細分化や齢級構造の偏在により、施業の効率性や経済性、さらには長期的な持続可能性に深刻な課題を抱えています。森林資源の持続的な利用を技術的な側面から追究する東京大学森林利用学研究室の研究グループは、韓国・国立忠南大学環境素材工学科との共同研究により、AI技術を用いた新たな森林管理手法として、地理情報システム(GIS)とグラフ畳み込みネットワーク(Graph Convolutional Network 、以下GCN、注1)を統合したアプローチを提案しました(図1)。これは、林分間の空間的な相互作用をモデル化することで、従来の静的なルールベース手法の限界を超えるものです。埼玉県西川林業地域の森林データを用い、傾斜や林道への近接性、空間的隣接性などの属性を反映できるよう、「単結合」と「全結合」という2種類の林分連結モデルを構築し、集約特性を比較しました。その結果、空間的文脈に応じた柔軟かつ実用的な林分集約が可能となり、将来的には地形条件を踏まえた精緻な伐採計画の設計にも貢献することが期待されます。
図1 研究概要
発表内容
(研究の背景)
日本の人工林は現在、森林資源の高齢化と労働力不足により、齢級構造の深刻な不均衡に直面しています。本来、計画的な輪伐と再造林によって維持されるべき齢級バランスは、施業コストの高さやロジスティクスの非効率性、そして何よりも所有形態の極端な細分化(注2)により崩れており、間伐や主伐が先送りされることで管理の行き届かない森林が増加しています。全国の森林所有者の半数以上が1ヘクタール未満の土地しか保有しておらず、協調的な管理が困難な状況にあります。この細分化は、規模の経済の阻害や施業実施の困難化を通じて、さらなる齢級の偏在を招くという負の循環を生んでいます。
このような状況への対応策として、近年注目されているのが林分の集約化(注3)です。林業経営の効率化と施業の実行可能性を高める手段として、政策的支援のもと多様な研究が進められており、線形計画法、多目的最適化、GISとの統合分析、ヒューリスティックアルゴリズム(注4)など様々な手法が提案されてきました。なかでも団地化は、小規模所有林の一体的管理に有効とされていますが、多くの従来手法は距離や面積に基づく静的なルールに依存しており、林道や地形、林齢などの空間的・属性的相互作用を動的に反映する柔軟性に欠けるという課題が残されています。
(研究の内容)
本研究では、細分化された林分を効率的に集約し、持続可能な施業単位へと再構成するために、GCNを応用した林分集約手法を提案しました。対象は埼玉県西川林業地域であり、林分ごとの傾斜・林道との距離・隣接関係といった空間的属性をもとに、林分をノードとするグラフを構築。そこにGCNを適用することで、周囲との関係性を考慮した新たな林分特徴量を生成しました。
具体的には、2種類の林分連結モデルを構築しました。単結合モデルは、林道に接していない林分を最寄りの林道に接している林分に接続し、施業効率を重視した構造です。この連結結果(図2)では、林道が通る林分を中心とした放射状の構造が現れ、アクセス可能なハブ林分から多数の林分が繋がる形となっています。一方、全結合モデルでは、道路の有無にかかわらず隣接林分すべてを接続することで、図3に見られるような格子状のメッシュ構造が形成され、林分の連続性が重視されたネットワークが構築されました。
GCNの適用によって、各林分の材積・林齢といった属性値が、周囲の林分との情報伝播を通じて平滑化されました。図4はGCN適用前後の林齢分布を比較したものであり、単結合モデルでは若齢林への傾斜が強く現れ、林道アクセス性の高い若齢林の特徴が集約結果に色濃く反映されました。対照的に図5の全結合モデルの林齢分布は正規分布に近く、極端な林齢の偏在が抑制され、バランスの取れた集約が行われたことが確認されました。
図4. GCN適用前後の林齢分布の比較(単結合連結モデル)
図5. GCN適用前後の林齢分布の比較(全結合連結モデル)
また、GCNによって生成された特徴量をもとに林分を空間的に再分類した結果、図6および図7に示すように、各モデルに応じた集約単位(色分け)が形成されました。単結合モデルでは、全ての集約単位が林道に接しており、伐採・搬出作業の即時実行が可能な構造が得られました。一方で全結合モデルは、より空間的に連続したまとまりを優先しており、一部の集約単位が林道から離れた場所にも形成されています。
さらに、集約単位の面積分布(図8)を比較すると、両モデルとも平均面積が拡大し、小規模林分が削減されたことがわかります。特に単結合モデルでは平均面積が3倍以上に増加し、面積の大きな単位に集中していく傾向が顕著でした。
図8. 集約ユニット面積分布の比較(上:集約化前、中:単結合、下:全結合)
このように本研究で提案したGCNベースの集約手法は、従来の静的なルールベース手法とは異なり、地形や接続性、林齢といった多様な空間情報を動的に統合できる点に特徴があり、施業効率を重視する現場向けのモデル(単結合)と、森林の構造的安定性を重視する長期管理向けのモデル(全結合)の選択が可能となります。本手法は、日本の森林管理に新たな展望を開くものであり、将来的に伐採計画の高度化や持続可能な森林管理に直接的に貢献することが期待されます。
(今後の展望)
本研究で構築したGCNベースの集約モデルは、林分間の空間的相互作用を捉える新たな枠組みを提供するものですが、今後はこの手法を伐採計画の最適化に発展させることが課題です。具体的には、GCNによって平滑化された林分特性(林齢・材積・アクセス性など)をもとに、気象条件や地形制約、季節的アクセス性と統合した意思決定支援ツールを開発し、伐採の優先順位付けを可能とします。これにより、経済的に実行可能で環境負荷の低い施業単位の選定が可能となり、資源配分の効率化と持続可能な森林管理の実現が期待されます。
加えて、より広域的なスケールでの集約技術の探求も重要です。所有境界や生物多様性指標、保全優先度などの要素を取り入れながら、複数林分を統合することで、現実的な施業と持続可能性の目標を両立させることが可能となります。また、モデルアーキテクチャの改良として、アテンション機構や層の動的調整といった高度なGCN設計を導入することで、過剰な平滑化を抑えつつ林分固有の特徴を保持する方向性も有望です。これに高解像度GIS地形データや季節的動態を組み合わせることで、より複雑な森林空間への適応力を高め、実務的にも応用可能な汎用性の高い森林管理ツールへと発展することが期待されます。
発表者
尤 陽宇(東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻 修士課程)
金 鉉倍(韓国忠南大学環境素材工学科 助教授)
吉岡 拓如(東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻 准教授)
発表雑誌
雑誌名:Smart Agricultural Technology
論文タイトル:Optimizing forest stand aggregation in fragmented stands using graph convolutional networks: A case study in Japan
著者:YangYu You, Hyun Bae Kim and Takuyuki Yoshioka
DOI番号:https://doi.org/10.1016/j.atech.2025.100959
論文URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2772375525001923?via%3Dihub
用語解説
注1 グラフ畳み込みネットワーク(GCN):
GCNは、グラフ構造データに特化した深層学習モデルです。各ノードが、隣接するノード群から情報を集約し、自身の特徴表現を更新する処理を層状に繰り返します。これによりネットワーク内の複雑なパターンやノード間の隠れた関係性を捉えることが可能になり、様々な分析タスクに応用されます。
注2 細分化:
細分化とは、森林が多数の小規模かつ分断された所有単位に分かれている状態を指し、協調的な管理や効率的な施業の実施を困難にしています。
注3 林分集約化:
林分集約化とは、小規模で所有者が分散しがちな森林を、隣接区域で一つの単位に束ねて管理する仕組みです。施業や路網整備を共同で行い、高性能林業機械を効率的に利用することで、林業におけるコスト削減と生産性の向上を図ります。
注4 ヒューリスティックアルゴリズム:
ヒューリスティックアルゴリズムとは、最適解を保証しないものの、経験則や直感に基づいて、実用的な時間で許容できる品質の解(近似解)を見出すことを目的としたアルゴリズムの総称です。複雑な問題や、厳密な解法が知られていない問題に対して、効率的に解を求めるために用いられます。
問い合わせ先
東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻
森林利用学研究室 准教授 吉岡 拓如(よしおか たくゆき)
Tel: 03-5841-5215
E-mail: tyoshioka <アット> fr.a.u-tokyo.ac.jp
<アット>を@に変えてください。









