発表のポイント

◆自然環境下で撮影されたミツバチのワグルダンスを、動画AIにより世界で初めて完全自動解析し、ダンスの方向と時間から花資源の距離と方位を高精度に推定することに成功しました。
◆解析結果をもとに、ミツバチが利用する都市および農地の花資源の空間分布を「地図」として可視化し、花粉資源の利用状況を科学的に評価できる新たな指標を提案しました。
◆作物の受粉サービスの見える化により、花資源の配置最適化や受粉効率の改善が可能となり、持続的な農業生産システムの構築と食料安全保障に貢献することが期待されます。

動画AIがミツバチの行動から花資源を地図化

AIによって解読されたワグルダンスの方向と距離情報を地図上に投影し、都市部および農地における花資源の空間分布を可視化した例。
ミツバチの採餌行動を通じて、花資源の存在場所と利用強度が定量的に評価できることを示す。

概要

 東京大学大学院農学生命科学研究科のSylvain Grison博士課程学生と郭威准教授らの国際共同研究グループは、自然環境下で撮影されたミツバチのワグルダンス(8の字ダンス)(注1)を動画AIにより自動解析し、その行動から花資源の位置を地図化する新手法を開発した。都市化の進展によりミツバチの採餌環境は急速に変化しており、生物多様性の維持と作物の受粉サービスの確保を両立させる科学的基盤の構築が求められている。本研究では、深層学習技術を用いてダンスの方向と時間から採餌資源の距離と方位を高精度に推定し、都市および農地における花粉資源の空間分布を世界で初めて可視化することに成功した。これにより、ミツバチ行動データを活用した持続的食料生産システムの設計や花資源管理の最適化に貢献することが期待される。

参考動画リスト:https://www.youtube.com/watch?v=lSGGpsNWUIE&list=PLjA17kXOWFnm4k2tIOnzaxnkunTTJMvUZ


1:ミツバチのワグルダンスを解析する動画AIの処理フロー

自然環境下で撮影された動画から、AIがワグルダンス中の個体を自動検出し、体の向きと振動の時間情報を抽出して採餌資源の位置を推定する。
本研究で開発された解析パイプラインの全体構造を示す。

発表内容

 世界で栽培されている主要食料作物の約75%は、ミツバチをはじめとする動物による送粉に依存している、あるいは送粉によって収量が向上することが報告されている。ミツバチの採餌行動を理解することは、農業生産の安定化や食料安全保障の観点から極めて重要である。しかし近年、都市化の進展や農業環境の変化に伴い、ミツバチがどのような資源を利用しているのかを把握することは困難となっており、人間活動と生態系サービスとの関係を定量的に評価する手法の確立が求められていた。ミツバチは餌資源の位置情報を「ワグルダンス」と呼ばれる体の振動と移動の組み合わせで仲間に伝えるが、このダンスの解析はこれまで熟練研究者による手作業で行われており、膨大な時間と労力を要することが最大の障壁となっていた。
 本研究チームは、自然環境下で撮影されたミツバチの活動動画を対象に、深層学習技術を用いてワグルダンスを自動検出し、その方向と継続時間から採餌資源の位置を推定するアルゴリズムを新たに開発した。今回開発されたモデルは、動画の各フレームからダンス中の個体を識別し、体軸の角度と振動フェーズを抽出することで、餌資源までの距離と方向を高精度に解読することが可能である。これにより、従来では膨大な時間と労力を要していた解析が数分で実行可能となり、実用的なスケールでのデータ処理が初めて実現した。
 さらに、本研究では、AIによって解読されたダンス情報を地図上に投影することで、ミツバチが利用する花資源の空間分布を「花資源地図」(注2)として可視化することに成功した。都市部においては、街路樹や公園の花木が重要な採餌資源となっていることが明らかとなり、一方で農地では作物の開花期に応じて利用資源が大きく変動することが示された。これにより、人間の生活空間と農業生産空間が、ミツバチによってどのように連結されているかを定量的に評価できる科学的枠組みが確立された。
 本成果は、都市緑化政策や農業における花資源の配置最適化、さらには受粉サービスの可視化と効率化に資するものであり、持続的な農業生産システムの構築に向けた重要な基盤技術となる。また、気候変動による開花期の変動や花資源の減少に対しても、ミツバチの行動データを通じて早期に兆候を検出し、適応策を講じることが可能となる。本研究は、Googleの「AI for Social Good Awards」プログラムの支援を受けて実施されたものであり、AI技術を活用して生態系サービスの理解と食料安全保障への貢献を目指す社会実装型研究の先導的事例である。
 なお、本研究で公開されたデータセットとソースコードは、GitHub(https://github.com/UTokyo-FieldPhenomics-Lab/DeepWDT)で一般公開されています。

2:AIによるワグルダンス解析の精度検証

AIが推定したダンスの角度および継続時間と、専門研究者による手動解析との比較結果。
決定係数()が0.96以上と高く、自然条件下においても高精度な解析が可能であることを示している。

〇関連情報:
5秒おきの撮影で昆虫の訪花が種子生産に寄与するタイミングを明らかに」(2022/07/12)
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20220712-1.html  

発表者・研究者等情報

東京大学
 大学院農学生命科学研究科
  Sylvain Grison 博士課程
  Pieter M. Blok研究当時:特任助教(現:Eindhoven University of Technology, Netherlands)
  James Burridge特任助教
  郭威 (Wei Guo) 准教授

National Centre for Biological Sciences and Tata Institute of Fundamental Research
  Rajath Siddaganga 研究員
  Shrihari Hedge 研究員
  Axel Brockmann 研究当時: 准教授

Bioversity International
 College of Horticulture
  Smitha Krishnan 博士

論文情報

雑誌名:Landscape Ecology
題 名:Video based deep learning deciphers honeybee waggle dances in natural conditions
著者名:Sylvain Grison, Rajath Siddaganga,  Shrihari Hedge, James Burridge, Pieter M. Blok, Smitha Krishnan, Axel Brockmann, Wei Guo*.
DOI:10.1007/s10980-025-02244-4
URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s10980-025-02244-4

研究助成

本研究は、日本側からはGoogleAI for Social Good Awards」プログラム、JST SPRING(助成番号:JPMJSP21082022年)による支援を受けました。
また、本論文で利用したデータの一部は、銀座ミツバチプロジェクトおよび 丸の内ハニープロジェクトのご協力により提供されたものです。

用語解説

(注1)ワグルダンス
ミツバチが餌資源の位置を仲間に伝える行動であり、腹部()を左右に振りながら直線方向に進む「ワグル走行」と円運動を繰り返すことで構成される。ワグル走行の方向は餌資源の方位を、走行時間は距離を示している。

(注2)花資源地図
ワグルダンスから推定された花粉・蜜の採餌資源の位置を地図上に可視化したもの。ミツバチの行動を通じて得られるため、自然環境下の資源利用の実態を反映している点で従来の植生マップとは異なる。

問合せ先

(研究内容については発表者にお問合せください)
東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構
准教授 郭 威(かく い)
E-mail:guowei[at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp

東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
事務部 総務課総務チーム広報情報担当
E-mail:koho.a[at]gs.mail.u-tokyo.ac.jp
Tel:03-5841-8179, 5484 

※[at]を@に変えてください。

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郭 威