「森からの水の恵みは岩から」を理論的に証明
発表のポイント
◆岩の中の水流動を組み込んだ、精緻な森林流域シミュレーションモデルを開発しました。
◆岩と土の間の水移動に関する相互作用が再現されることにより、土の中の水の動きがより正確に表現されました。
◆結果的に、森林流域からの水の流量、つまり、「森からの水の恵み」を推定する精度が格段に向上しました。
発表内容
森に降った雨は、ただちに川へ流れ出る水(流出)になるわけではありません。木々や落ち葉、土壌などが雨水を一時的にため込み、ゆっくりと流出になります。こうした仕組みにより、森は大雨のときに洪水を和らげ、雨が少ない時期にも川に水を流し続けることができます。これが「森林の水源涵養機能」と呼ばれるものです。国土の約7割を森林が占める日本では、私たちはこれら森からの水の恵みを享受しているのです。
近年の観測、実験やその解析によって、「基岩地下水」と呼ばれる土壌の下にある岩の中にある水の流動が、森林水源涵養機能において、これまで考えられてきたよりも遥かに大きな役割を演じていることが分かってきました。しかし、森林水源涵養機能の理解や定量的な評価のためには、自然の仕組みをよく表現できるシミュレーションモデルが必要ですが、基岩地下水の動きを物理理論に則って記述する森林流域シミュレーションモデルの開発・検証は十分には行われてきませんでした。
そこで本研究では、基岩地下水の動きまで計算可能な新しい森林流域シミュレーションモデルを開発しました(図1)。そして、神奈川県丹沢山地に位置する大洞沢森林流域試験地(約50 ha)に開発したモデルを適用して検証しました。さらにシミュレーションモデルの利点を活かし、「土壌水分・基岩地下水を計算するモデル」と「土壌水分だけ計算・基岩地下水は計算しないモデル」を比較することで、基岩が降雨流出過程に持つ重要性の理論的な証明を目指しました。
図1 本研究で開発したシミュレーションモデル。(a) 土壌ブロック・基岩ブロックに分割し、矢印で示すブロック間の水移動を物理則に従い計算する。
(b) 流域は、土壌ブロックと基岩ブロックの集合として表現された。流域末端のブロックから流域外に向けて流れる水が流出である。
「基岩地下水を計算するモデル」は、渇水時の川の水の多くが基岩からしみ出した水であることを上手く説明して、流出や基岩に掘られた井戸の水位を良好に再現しました(図2)。これに対して、「基岩地下水を計算しないモデル」では流出の再現精度が下がり、特に渇水時における再現精度の低下は著しいものでした。また、このシミュレーションの過程で、基岩の上に厚い土壌層があってこそ、ゆっくりと土壌水分が基岩に移行することができ、もし土壌層が薄ければ土壌水分は基岩に浸透することができず斜面に沿って速やかに流下してしまうということが示されました。以上のシミュレーション結果から得られた知見は、渇水をやわらげる森のはたらきは基岩の存在を抜きには説明できず、そして、この基岩の水源涵養機能上重要な役割はその上に存在する森林土壌との協働によって発揮される、ということです。
図2 2017年4月から12月における観測値とモデル計算値の比較。(a) 1時間平均降水量。(b) 1時間平均流出量。
(c)と(d) 2地点の基岩井戸における、地表面から基岩地下水面までの距離。それぞれ、赤の陰影はモデル計算値の2.5%〜97.5%範囲を示す。
本研究の成果は、森林水源涵養機能において未解明で見過ごされがちな基岩地下水が実は重大な意味を持っているという更なる研究指針を与え、何より、森林管理・整備によって森林水源涵養機能を高め水資源保全を図ろうとする際に、森林土壌と基岩の関係性を守ることが肝要であるという重大な示唆を提供するものだと考えています。
関連のプレスリリース
・「水資源のために森を変えることはできるのか?」(2021/10/18)
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20230710-1.html
・「木々の葉っぱが洪水を防いでいる!?」(2023/07/10)
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20211018-1.html
発表者
亀山敏顕(東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻 特任研究員)
熊谷朝臣(東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻 教授)
江草智弘(静岡大学農学部 助教)
籾山寛樹(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所森林防災研究領域 研究員)
発表雑誌
雑誌名:「Journal of Hydrology」
論文タイトル:Importance of bedrock hydrology for the rainfall–runoff process in a forested mountain catchment
著者:Toshiaki Kameyama*, Tomo’omi Kumagai, Tomohiro Egusa, and Hiroki Momiyama
*責任著者
DOI番号:https://doi.org/10.1016/j.jhydrol.2025.134205
論文URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022169425015434
研究助成
本研究は、神奈川県「対照流域調査地 流域水収支評価研究委託」、JSPS科研費「侵略的外来植物がハワイ諸島の森林流域水源涵養機能を壊す」(20KK0140)、同「革新的な森林水循環モデルの開発・展開による水源涵養機能の機構論的解明」(22J12319、22KJ0853)、JST「次世代研究者挑戦的研究プログラム」(JPMJSP2108)などの支援のもと実施されました。
問い合わせ先
東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻
森林生物地球科学研究室 教授 熊谷 朝臣(くまがい ともおみ)
Tel: 03-5841-8226
E-mail: kumag<アット>g.ecc.u-tokyo.ac.jp
※<アット>を@に変えてください。



