イヌが好きなものを見たときに示す表情の同定
発表のポイント
◆イヌが好きなものを見たときに示す表情を、簡便かつ客観性高く解析できる行動試験系を開発しました。
◆雌雄ともに示す4つの動きを同定するとともに、雄の方がより多様で持続的な動きを示すことを世界で初めて明らかにしました。
◆汎用性が高い試験系であるため、獣医療をはじめとして様々な分野への応用が期待されます。
概要
東京大学大学院農学生命科学研究科の清川准教授と、アニマルアイケア・東京動物眼科醫院の小林院長らによる研究グループは、犬が好きなものを見たときに示す表情を観察するための、飼い主が自宅で実施できる行動試験系を開発しました。
その結果、雌雄とも、好きなものを見たときには「唇の分離」「顎の下落」「舌出し」「耳の内転」という4つの動きを示すことが判明しました。さらに2つの性差があることも明らかになりました。1つ目は動きの種類で、オスはこれらに加えて「上唇の挙上と鼻のしわ寄せ」「下唇の下落」「唇なめ」「鼻なめ」という4つの動きを示しました。2つ目は動きの持続時間で、メスの動きが試験期間の前半に限られていたのに対し、オスでは全ての動きが試験期間を通じて現れました。
本試験系は、簡便な手法と客観性の高い解析方法を組み合わせていることから、獣医療など、様々な分野への応用が期待されます。
発表内容
犬は表情が豊かな動物であり、世界中でペットとして広く飼育されていることから、社会的にも獣医学的にも重要な存在です。そこで東京大学大学院農学生命科学研究科の清川准教授と、アニマルアイケア・東京動物眼科醫院の小林院長らの研究グループは、犬が好きなものを見たときに示す表情を客観性高く評価するため、飼い主が自宅で実施できる行動試験系を開発しました。
この試験では、飼い主が犬に「おすわり」「待て」を指示した後、好きな食べ物を見せる条件、食べ物以外の好きなもの(おもちゃ等)を見せる条件、何も見せない対照条件を設定しました。各条件で犬の表情をスマートフォンで1分間撮影し、DogFACS(注1)を用いて顔の各部位の動きを解析しました。
その結果、雌雄ともに、いずれの条件でも「唇の分離」「顎の下落」「舌出し」「耳の内転」という4つの動きが増加することがわかりました。これらの動きは、非常に限られているものの文献上の知見とも一致しているため、本試験系が有効であることを示しています。さらに2つの性差も確認されました。1つ目は動きの種類です。オスでは上述の4つに加えて、「上唇の挙上と鼻のしわ寄せ」「下唇の下落」「唇なめ」「鼻なめ」といった動きも増加しました。2つ目は動きの持続時間です。オスでは試験時間である1分間を通して増加が続いたのに対し、メスでの増加は試験時間の前半に限られていました。
本試験系は、簡便な手法と客観性の高い解析方法を組み合わせていることから、様々な分野への応用が期待されます。獣医療はその代表例です。たとえば治療効果が外から分かりにくい慢性疾患では、その治療の重要性が見落とされがちです。また、薬剤の副作用による気分の変調やめまいがあっても、明らかな身体症状が出なければ見過ごされることが少なくありません。動物は慢性的にストレスを受けると、好きなものへの反応が低下する無快感症を示すことが知られています。したがって、慢性疾患の治療や薬剤の切り替えによって上述の動きが増加すれば、無快感症が緩和しQOL(注2)が改善したと考えることができます。こうした知見を積み重ねていくことで、様々な慢性疾患において治療の重要性が認識されたり、より適切な薬剤選択に繋がったりすることが期待されます。その結果、獣医療の質の向上に貢献すると考えられます。
ただし同時に、本手法の適用には注意も必要です。現時点では、表情変化がQOL変化の最初の指標となるかは不明です。したがって、表情変化をQOL低下の検出手段として使うべきではありません。あくまで表情はQOLを評価することができる様々な指標のうちの1つとして考えることが望ましいです。
なお、本研究はヒトを対象とする研究倫理審査委員会および動物実験委員会の承認のもとに実施されました。
発表者・研究者等情報
東京大学大学院農学生命科学研究科
清川 泰志 准教授
川北 健人 研究当時:獣医学専修学生
山田 良子 助教
アニマルアイケア・東京動物眼科醫院
小林 義崇 院長
三輪 幸裕 研究当時:獣医師(現:あいち動物眼科 院長)
論文情報
雑誌名:Applied Animal Behaviour Science
題 名:Identification of facial expressions in response to rewarding stimuli in dogs
著者名:Yasushi Kiyokawa, Kento Kawakita, Yukihiro Miwa, Ryoko Yamada, Yoshitaka Kobayashi
DOI: https://doi.org/10.1016/j.applanim.2026.106921
用語解説
(注1)DogFACS
Dog Facial Action Coding Systemの略。 犬の顔面筋の動きを「アクションユニット」という最小単位に分解し、その動きを記録することで、表情を客観的に記述するための計測システム。
(注2)QOL
Quality of Life(生活の質)の略。単に生きているかどうかではなく、その動物がどれだけ快適に、満足して、自分らしく生活できているかを示す概念。
問合せ先
<研究内容について>
東京大学大学院農学生命科学研究科
准教授 清川 泰志 (きよかわ やすし)
E-mail:akiyo@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp
<機関窓口>
東京大学 大学院農学生命科学研究科・農学部
事務部総務課広報情報担当
E-mail:koho.a@gs.mail.u-tokyo.ac.jp TEL:03-5841-5484


