東南アジア熱帯林をプランテーションに変えたら水と炭素の動きはどう変わる?
研究の背景
土地利用変化は、地球~局地規模の景観における生物物理学的および生物地球化学的特性に大きな影響を及ぼします。特に、東南アジア熱帯においては土地利用変化の影響が極めて強い上に、さらにこの地域では森林から集約管理されたプランテーションへの置き換えがますます進んでいます。こうした転換があるにもかかわらず、この地域において異なる土地利用形態が生態系における水・炭素・エネルギー循環をどのように調節しているかについての包括的な研究は、いまだ限られています。
そこで、ゲッチンゲン大学のBayu Budi Hanggara氏、Alexander Knohl教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の羽田泰彬研究員、熊谷朝臣教授ら、ドイツ、日本、マレーシア、インドネシアの国際研究グループは、東南アジアの16カ所の渦相関フラックス観測(注1)タワーのデータ(112サイト数×年数分の観測値)を解析しました。これにより、土地利用変化の強さが低い(原生林)、中程度(二次林)、高い(プランテーション)のそれぞれの場合(図1)の熱・水・二酸化炭素フラックス(注2)を整理し、土地利用変化が光利用効率・水利用効率(注3)をどう変えるのかを検討・評価しました。
図1 研究対象地の位置と気候条件(気温と降水量の月平均値)・森林生産力(地上部バイオマス)。土地利用変化の強さは、原生林(Low)、二次林(Medium)、プランテーション(High)の3種類で区別されている(凡例参照)。LHP_Low:ランビルヒルズ国立公園、SBW_High:シブ、BKS_Medium:ブキットスハルト、Palangkaraya_Sites:パランカラヤ(3サイト)、DFR_Medium:ラッチャブリ、MKL_Low:メクロン、SKR_Low:サケラート、RFC_High:チャチャオエングサオ、RFN_High:タマラート、PSO_Low:パソ保護林、Kampar_Sites:カンパール(3サイト)、JOP_High:ジャンビ。
研究の成果
(1)炭素吸収能力:鉱質土壌上の成熟したプランテーションは炭素吸収源として機能しており、その年間平均炭素吸収量(1.19~0.74 kg炭素/m²/年)は、原生林(0.85~0.02 kg炭素/m²/年)を上回りました(図2)。
(2)水ストレスの懸念:一方で、プランテーションは蒸散量・水利用量が大きく、しばしば現地の降水量を上回るため、水ストレスを受けやすい傾向にあります。
(3)例外条件:プランテーションであっても、泥炭地上で管理されている造成初期段階では、炭素の放出(0.98 kg炭素/m²/年(「吸収」とは符号が違うことに注意))が見られました。
(4)水利用効率のトレードオフ: 年間平均水利用効率は、プランテーション(2.08~3.53 g炭素/kg水)に比べ、原生林(2.63 ~ 6.50 g炭素/kg水)の方が高く、土地利用変化による「炭素吸収」と「水利用」の間のトレードオフ、つまり、多くの生産を上げるためには多くの水を消費することが示されました。
(5)光利用効率:プランテーションは、より少ない光で最大総一次生産量に達するものの、日平均光利用効率については原生林と比較して高いわけではありませんでした。
図2 土地利用変化の強さによる生産力と水利用の変化。土地利用変化を強めると、鉱質土壌における成長の早い樹種の純炭素吸収量を増加させる可能性がある一方で、同時に蒸散量の増加による水不足のリスクも高めます。よって、プランテーションにおける純炭素吸収量は、原生林と比較して降水などの水供給量に、より強く影響されることになります。
結論
本研究の結果は、原生林にしろ二次林にしろ、森林からプランテーションへの転換を図る際、炭素固定・生産力向上の目標と、水資源への配慮や干ばつ耐性とのバランスを慎重に考慮することの重要性を強調しています。これに対し、森林保全は、気候変動に直面する中での水資源の安全保障や生態系の回復力(レジリエンス)において優位性があることを示しています。
〈関連プレスリリース〉
「静止気象衛星「ひまわり」で熱帯雨林での“健康診断”—新手法で精度の高い観測が可能に—」(2026/01/15)
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20260115-1.html
「生態水文学は水危機から世界を救うために何ができるか? :単作農林業から生じる水循環均質化の危険性」(2020/09/29)
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20200929-1.html
発表者
ゲッチンゲン大学生物気候学分野
Bayu Budi Hanggara 修士課程(現マックス・プランク研究所 博士課程)
Christian Stiegler 研究員
Alexander Knohl 教授
東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻
羽田泰彬 研究員
熊谷朝臣 教授
サラワク熱帯泥炭地研究所
Lulie Melling 研究ディレクター
IPB大学地球物理学・気象学科
Tania June 教授
北海道大学大学院農学院
平野高司 教授
発表雑誌
雑誌: Global Change Biology
題名: Trade-offs between carbon and water fluxes along a land use intensity gradient in Southeast Asian forests and plantations.
著者: Bayu Budi Hanggara*, Christian Stiegler, Yoshiaki Hata, Lulie Melling, Tania June, Tomo'omi Kumagai, Takashi Hirano, Alexander Knohl *責任著者
DOI: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/gcb.70753
用語解説
(注1)渦相関フラックス観測
森林上空を流れる風は3次元的に様々なサイズの渦を含む。これらの渦の内、熱・水・二酸化炭素を含む空気の垂直方向成分の動きを捉え、大気-森林間でやり取りされる熱・水・二酸化炭素フラックス(注2)を計測する。
(注2)熱・水・二酸化炭素フラックス
一般に、フラックスは単位面積当たり・単位時間当たりの物質移動量を意味する。例えば、面積m2当たり・毎秒sの二酸化炭素物質量µmolの移動速度µmol / m2 / sは最も一般的な二酸化炭素フラックスの表現である。
(注3)光利用効率・水利用効率
単位光利用料もしくは単位水利用量当たりの二酸化炭素吸収量。大きい値は、高い効率性を意味する。
問い合わせ先
東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻
森林生物地球科学研究室 教授 熊谷 朝臣(くまがい ともおみ)
Tel: 03-5841-8226
E-mail: tomoomikumagai<アット>gmail.com
<アット>を@に変えてください。

