発表のポイント

◆フェロトーシス誘導剤に長期間曝露されることによりフェロトーシス耐性細胞を樹立し、フェロトーシス耐性獲得機構を探索しました。
◆2種類の耐性細胞を樹立し、一方はACSL4の大幅な発現低下、他方はACSL4のT237A変異による活性低下であることが明らかになりました。
◆T237はE429とともにMg2+に配位していることが予想され、E429Aもフェロトーシス耐性をもたらすことが明らかになりました。
◆結晶構造が解明されていないACSL4の構造について示唆を与え、フェロトーシス耐性機構の一端を解明しました。

発表内容

 フェロトーシスは脂質過酸化を特徴とする細胞死として2012年にStockwellらによって定義されました。フェロトーシスは様々な疾患の亢進に寄与していることが報告されており、腎疾患もそのうちの一つです。疾患の亢進メカニズムの解明には非常に重要な細胞死機構ではありますが、近年様々な分子がフェロトーシス制御機構に関与することが報告されており、その全貌は未だ明らかになっていません。
 そこで、フェロトーシスによる近位尿細管細胞の傷害機構を明らかにするため、ラット近位尿細管上皮細胞株 (NRK-52E) に対しフェロトーシス誘導剤 (RSL3) を曝露させたところ24時間後にはほとんどの細胞が死滅しましたが、予想に反してその後約2週間程度培養を続けたところ細胞が増殖していることを発見しました。増殖した細胞をクローニングし、Clone AおよびClone Bという2種類の耐性細胞を得たところ、フェロトーシスに特徴的に耐性をもっていることが明らかになりました。
 次にこれら耐性細胞のフェロトーシス耐性獲得機構を解明するため、フェロトーシス関連遺伝子の発現量をリアルタイムqPCRを使用して比較しました。その結果、Clone AでAcsl4の発現量が大幅に減少していることが明らかになりました。ウェスタンブロッティングでもACSL4は検出限界以下まで発現が減少していました。ACSL4タンパク質はフェロトーシスを促進するタンパク質として知られていますので、Clone Aのフェロトーシス耐性はACSL4の大幅な発現低下によるものであることがわかりました。
 一方で、Clone BではACSL4は発現しており、他のフェロトーシス耐性獲得機構が寄与していることが考えられました。そのため、まずSystem xc-/GPX4を介した無毒化経路とFSP1を介した無毒化経路が関与しているかを検討しました。それぞれの経路に属するタンパク質の阻害剤を用いた検討を行なうことで、この2つの無毒化経路はClone Bのフェロトーシス耐性獲得に寄与している可能性が低いことが示唆されました。
 次にリン脂質の構成に関わる経路に着目しました。ACSL4の基質でもあるアラキドン酸はリン脂質に組み込まれることで脂質過酸化の感受性を増加させ、フェロトーシスに対する感受性の増加を引き起こすことがわかっています。そのため、細胞内の遊離のアラキドン酸量を細胞間で比較したところ、Clone Aでは親株と比較してアラキドン酸の有意な蓄積が見られました。Clone AではACSL4が大幅に発現低下していますので、その基質であるアラキドン酸が蓄積することは予想通りでしたが、Clone BではACSL4が発現しているにもかかわらず、Clone Aと同程度にアラキドン酸が蓄積していることがわかりました。この結果から、Clone BではACSL4の活性が低下しているのではないかと考え、ACSL4活性を定量したところ、Clone AのみならずClone BでもACSL4の活性が有意に低下していることがわかりました。
 そこで、Clone BではACSL4に変異が入っているために活性が低下したのではないかと仮説を立て、親株とClone BのACSL4 mRNA配列の比較を行ないました。その結果、Clone BではACSL4がT237A変異を持っていることが明らかになりました。
 これまでにACSL4のT237A変異のフェロトーシスに関連した報告はありませんでした。そのため、T237A変異のフェロトーシス感受性に及ぼす影響を評価するため、ACSL4をほぼ欠損している細胞であるClone Aに対して野生型またはT237A変異型ACSL4を導入したところ、野生型に対して変異型で有意なフェロトーシス耐性が認められました。これにより、ACSL4のT237A変異はフェロトーシス耐性をもたらすことがわかりました。
 また、ACSLタンパク質の中で唯一結晶構造が解かれているタンパク質である、Thermus thermophilus由来Long-chain fatty acyl-CoA synthetaseの配列を用いてアライメント解析をしたところ、T237はMg2+と配位し間接的にアラキドノイル-AMPの結合に関与していることが示唆されました。T237とともに同一のMg2+に配位していると考えられたE429も変異体発現細胞を作製し、フェロトーシス感受性の評価を行なったところ、E429A変異体導入細胞にもフェロトーシス耐性が認められました。
 Mg2+は強いLewis酸としてはたらき高エネルギーな中間体においてリン酸基の求電子性を上げることが知られています。そのためACSL4ではMg2+はアラキドノイル-AMPのCoAによるチオエステル化反応の促進に寄与していると考えられます。したがって、T237やE429は活性中心でMg2+の正しい配位を助け、チオエステル化反応の進行に関与している可能性が示唆されます。この結果は結晶構造が解明されていないACSL4の構造に示唆を与えるほか、ACSL4を標的とした遺伝子検査などに有用な情報を提供するものと期待されます。

発表者・研究者等情報

清 日香(名古屋大学大学院生命農学研究科 応用生命科学専攻 博士後期課程)
内田 浩二(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 特任教授)
柴田 貴広(名古屋大学大学院生命農学研究科 応用生命科学専攻 教授)

論文情報

雑誌名: Journal of Biological Chemistry
題名: A missense mutation in acyl-CoA synthetase ACSL4 reveals essential residues for catalytic activity in ferroptosis
著者名: Haruka Sei, Harumi Ando, Fumie Nakashima, Terunao Takahara, Masaki Kita, Ken-ichi Yamada, Koji Uchida, Takahiro Shibata
DOI: https://doi.org/10.1016/j.jbc.2026.111232

用語解説

・ACSL4:
Long-chain fatty-acid CoA ligase 4とも呼ばれる酵素。脂肪酸をCoA化する反応を触媒する酵素であり、特に炭素鎖20以上の不飽和脂肪酸を良い基質とする。細胞膜中の多価不飽和脂肪酸の割合を変化させることでフェロトーシス感受性に関与することが知られている。
・アラキドン酸:
20個の炭素鎖からなる長鎖脂肪酸。二重結合を4つもつ多価不飽和脂肪酸の一つ。
・Lewis酸:
非共有電子対を受け取ることができる物質の総称。

問合せ先

名古屋大学大学院生命農学研究科
教授 柴田 貴広 (しばた たかひろ)
E-mail: shibatat@agr.nagoya-u.ac.jp

東京大学大学院農学生命科学研究科
特任教授 内田 浩二 (うちだ こうじ)
E-mail: a-uchida@g.ecc.u-tokyo.ac.jp

関連教員

内田 浩二