尿検査で食物アレルギー反応を客観的に評価する新手法を開発
―痛みのない非侵襲的な検査で、より安全なアレルギー診断への貢献に期待―
発表のポイント
◆肥満細胞から放出される物質の尿中代謝物(tetranor-PGDM)を、簡便に測定できる酵素免疫測定法(EIA)を開発しました。
◆本手法により、食物アレルギー患者と健康な人を、尿検査のみで高い精度(感度93%、特異度82%)で識別することに成功しました。
◆採血などの痛みを伴わない「非侵襲的」な検査であるため、子供の負担を軽減し、医療現場での客観的な診断補助ツールとしての活用が期待されます。
概要
東京大学大学院農学生命科学研究科の村田幸久准教授、石井健大学院生、永田奈々恵特任講師らと、国立成育医療研究センターなどによる共同研究グループは、尿中のプロスタグランジンD2(PGD2)代謝物(※注1 tetranor-PGDM)を測定することで、食物アレルギーの反応を客観的に評価できる新たな検査法(※注2 EIA:酵素免疫測定法)を確立しました(図1)。
食物アレルギーの診断において、実際にアレルゲンを摂取する「経口食物負荷試験(OFC)」は不可欠ですが、症状の判断は医師の目視などに依存しており、客観的な数値指標が求められていました。研究グループは、これまで高度な分析装置(LC-MS/MS)が必要だった代謝物測定を、病院等で実施可能なEIA法で実現し、臨床における有用性を証明しました。本成果は、3月15日(英国時間)にアレルギー分野の主要な国際学術誌『Clinical & Experimental Allergy』に掲載されました。
図1 尿を用いた食物アレルギー検査法を開発
発表内容
【背景】
食物アレルギーの患者数は世界的に増加傾向にあり、特に子供のQOL(生活の質)に重大な影響を及ぼしています。アレルギー反応が生じると、体内の肥満細胞からプロスタグランジンD2(PGD2)が放出され、その代謝物である「tetranor-PGDM」が尿中に排出されます。研究グループによる先行研究では、この物質がアレルギー症状の客観的な指標となることや、経口免疫療法における反応性の予測指標として有用であることが示されてきました。しかし、その測定には高価で特殊な分析装置(LC-MS/MS)が必要であり、一般的な臨床現場への普及には至っていないという課題がありました。
【手法と結果】
研究グループは、tetranor-PGDMを検出するための特異的なモノクローナル抗体を開発し、尿中の濃度を簡便に測定できるEIA法を構築しました。4歳から14歳の子供(健康な子供28名、経口抗原負荷試験で陽性反応を示した食物アレルギー患者14名)を対象に調査を行ったところ、以下の結果が得られました。
●精度の確認: 開発したEIA法による測定値は、精密分析法(LC-MS/MS)の結果と高い相関を示しました。
●患者の識別: OFC陽性群の尿中代謝物濃度は、健康群と比較して有意に高いことが判明しました(図2A)。
●診断能力: ROC解析(※注3)の結果、AUC 0.91という高い数値を示しました。カットオフ値を4.07 ng/mg creatinineと設定することで、感度93%、特異度82%という高い精度でアレルギー反応を識別できました(図2B)。
(A)アレルギー反応が起きた際の数値の変化
健康な子供たちと比較して、食物アレルギーの症状が出た(負荷試験で陽性だった)子供たちでは、尿中の代謝物濃度が明らかに高くなっていることが分かります。これにより、尿を調べることで体内のアレルギー反応を数値として捉えることが可能になりました。
(B)この検査法がどれくらい正確に診断できるかを示すグラフ
このグラフの線が左上に寄っているほど、検査の精度が高いことを示します。今回の解析では「0.91」という極めて高い数値(AUC)を記録し、感度93%・特異度82%という高精度で「アレルギー反応が起きているかどうか」を正しく見分けることができました。
【社会的意義と今後の展開】
本手法は、尿を採取するだけで済むため、採血などの痛みを伴う処置が困難な子供にとって大きなメリットがあります。将来的にこのEIA法が実用化されれば、経口食物負荷試験における安全な終了判断の補助や、自宅での体調管理、さらには免疫療法の効果判定など、アレルギー医療をより客観的かつ安全にするための強力なツールとなることが期待されます。
研究グループは、自宅でも使用可能な尿検査キット(イムノクロマトグラム)の開発も進めています。
〇関連情報:
1.「食物アレルギー患者の尿中脂質プロファイルの解析」
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20250307-1.html
2.「食物アレルギーの病型鑑別に有用な尿中脂質代謝物排泄パターンの発見 ~非侵襲的バイオマーカーによる診断の可能性~」
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20250516-1.html
3.「新しい検査法を発見 食物アレルギーの診断、経口免疫療法の効果判定に有用~患者の身体への負担がなく、軽微なアレルギー症状を判別できる尿を用いた検査法に期待~」
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20210908-1.html
4.東京大学大学院農学生命科学研究科 放射線動物科学研究室・獣医薬理学研究室
https://www.vm.a.u-tokyo.ac.jp/houshasen/
5.東京大学大学院農学生命科学研究科 食と動物のシステム科学研究室
https://square.umin.ac.jp/food-animal/index.html
発表者・研究者等情報
東京大学 大学院農学生命科学研究科
石井 健 博士課程
永田 奈々恵 特任講師
益子 櫻 博士課程(当時)
井上 理香子 修士課程(当時)
藤城 正樹 学部学生(当時)
中村 達朗 特任講師(当時)
村田 幸久 准教授
論文情報
雑誌名:Clinical & Experimental Allergy
題 名:Development of Enzyme Immunoassay Detecting Urinary tetranor-PGDM of Food Allergy Patients
著者名:Takeru Ishii, Nanae Nagata, Sakura Masuko, Rikako Inoue, Masaki Fujishiro, Tatsuro Nakamura, Kosuke Aritake, Shinya Ogawa, Hisako Ogasawara, Mami Shimada, Yusuke Inuzuka, Kotaro Umezawa, Sayaka Hamaguchi, Tatsuki Fukuie, Yukihiro Ohya, Kiwako Yamamoto-Hanada, Takahisa Murata†
DOI: 10.1111/cea.70281
研究助成
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(25H00430, 20H05678)の支援により実施されました。
用語解説
(注1)tetranor-PGDM: 体内で放出されたプロスタグランジンD2が代謝され、尿中に排出されたもの。
(注2)酵素免疫測定法(EIA): 抗体を用いて特定の物質を検出・定量する手法。広く臨床検査で用いられる。
(注3)ROC解析: 検査法の性能を評価するための手法。AUC(曲線下の面積)が1に近いほど精度の高い検査であることを示す。
問合せ先
(研究内容については発表者にお問合せください)
東京大学 大学院農学生命科学研究科
獣医薬理学研究室/放射線動物科学研究室/食と動物のシステム科学研究室
准教授 村田 幸久(むらた たかひさ)
Tel:03-5841-7247 E-mail:amurata@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp
東京大学 大学院農学生命科学研究科・農学部
総務課総務チーム広報情報担当
Tel:03-5841-5484 E-mail:koho.a@gs.mail.u-tokyo.ac.jp



