国立大学法人東京大学は、〝酒の博士〟坂口 謹一郎 東京大学名誉教授が、戦中までに収集した麹菌株を使用し、当研究科附属生態調和農学機構で収穫したお米で作った
「博士の昔こうじ甘酒」を発売しました。

 

 

 

 


図1 麹菌の電子顕微鏡による写真



図2 坂口謹一郎名誉教授と戦中にかけて収集した麹菌の論文(1944年発表)



図3 坂口謹一郎名誉教授が戦中までに収集した麹菌株の写真



図4 坂口謹一郎名誉教授の自筆「麹を究めて」とその色紙(日本醸造協会所蔵)

麹菌は、日本の伝統的醸造産業に使用されている微生物であり、日本酒・醤油・味噌などの製造を通じて和食の味を支えてきました。このような日本人との深い関わりにより、麹菌は日本を代表する微生物「国菌」として認定されています(注1)(図1)。

東京大学大学院農学生命科学研究科では、100年以上にわたる伝統を脈々と受け継ぎながら、醸造微生物について最先端の研究に取り組んでいます。2011年には本研究科 丸山潤一 特任准教授(当時助教)らが、ビタミンの一種ビオチンをつくる仕組みの一端について、麹菌を用いた研究により世界で初めて発見しました(注2)。

甘酒は、麹菌によってお米のデンプンが糖に分解された日本の伝統的な甘味飲料です。麹菌が作りだすビタミンなどの機能性成分を豊富に含んでおり、江戸時代には暑い夏を乗り切るために飲まれていた昔ながらの栄養ドリンクです。

そこで、丸山特任准教授らは、麹菌による甘酒の良さを広めたいとの思いを込めて、〝酒の博士〟と称される坂口謹一郎東京大学名誉教授(当時 農学部教授)(注3)が戦中までに収集した麹菌株(注4)(図2)を使用した甘酒を開発することにしました。独立行政法人 酒類総合研究所に現在も保存されていた株を取り寄せ(図3)、株式会社 樋口松之助商店のご協力により甘酒を試作しました。当研究科で麹菌研究に携わった北本勝ひこ名誉教授のご協力を得て甘酒に適した麹菌株を選定し、「博士の昔こうじ甘酒」を開発しました。

お米は、本研究科附属生態調和農学機構の農場で収穫したものを使用しました。甘酒は、株式会社 宝来屋本店にて製造を行いました。

容器のデザインには、麹菌への思いを込め、坂口名誉教授の色紙(麹菌に関する学術書「麹学」(注5)の出版へのお祝いに贈られたもの)より「麹を究めて」の自筆文字を採りました。(図4)

 

和食が2013年12月にユネスコ無形文化遺産に登録されたのを機に、日本の伝統的な醸造・発酵への関心が国内外で高まっています。日本の先人によって育まれた麹菌の長い歴史に秘められた深い味わいとともに、日本人の健康を支え続けてきた伝統的な発酵の力で元気になりますように、春夏秋冬季節を問わずご賞味ください。

 

 

<製品概要>

「博士の昔こうじ甘酒」、内容量:350 ml PETボトル入り、価格:580円(税込)

<購入方法>

(1)店舗での購入

・東京大学コミュニケーションセンター(UTCC)(東京都文京区本郷 7-3-1 東京大学本郷キャンパス内 赤門北隣)

・IMTブティック(東京都千代田区丸の内 2-7-2 KITTE3階インターメディアテク内)

 http://www.intermediatheque.jp/ja/boutique/

(2)オンラインショップでの購入

・UTCC オンラインストア https://utcc.u-tokyo.ac.jp/

 

 

問い合わせ先

丸山潤一

東京大学大学院農学生命科学研究科 醸造微生物学(キッコーマン)寄付講座 特任准教授

Tel: 03-5841-5164  E-mail: amarujun<アット>g.ecc.u-tokyo.ac.jp    <アット>を@に変えてください。

 

 

用語解説

注1 麹菌は国菌である

一島英治 東北大学・東京農工大学名誉教授が提唱し、2006年10月12日に日本醸造学会大会で認定されました。

 

注2 東京大学 農学生命科学研究科 プレスリリース

「麹菌がビタミンをつくるメカニズムを解明~ペルオキシソームのビオチン生合成への関与を世界で初めて発見~」https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2011/20110829-1.html

ビタミンは生物の生存・生育に必要な必須栄養素であり、動物はその多くを合成することができず、主に食料から摂取します。初めて認められたビタミンは、オリザニン(ビタミンB1)であり、日本農芸化学会の創設者で初代会長の鈴木梅太郎(東京帝国大学名誉教授)が1910年、脚気予防の有効成分として米の糠から抽出したものです。ビオチンはビタミンの一種で、ビタミンB7とも呼ばれます。補酵素としてカルボキシル基転移反応に関与することで、脂肪酸合成・糖新生・アミノ酸代謝で重要な役割を果たします。

 

注3 坂口 謹一郎 (1897 – 1994):

東京大学名誉教授。代表的な研究として、カビによる有機酸発酵と、我が国の醸造産業に利用される麹菌の収集・分類が知られています。酒に関する多くの著書があり、〝酒の博士〟と称されています。1935年に沖縄で収集した黒麹菌がその後の沖縄戦を逃れ、1998年東京大学に保存されているのがわかりました。1999年にその黒麹菌を使用した泡盛「御酒(うさき)」として復刻され、東京大学コミュニケーションセンターで販売中です。

 

注4 本甘酒に使用した麹菌の文献:

坂口謹一郎、山田浩一「麹菌の形態と其の分類に就て(其の1)」日本農芸化学会誌Vol. 20, 65-73 (1944)

 

注5 麹学(日本醸造協会 (1985)):

当時の麹菌研究者の知を結集して、村上英也(当時、醸造試験所所長)が編集した麹菌の古典的な教科書。