プロフィール

木内 隆史

木内 隆史

KIUCHI Takashi

専攻 生産・環境生物学専攻 Department of Agricultural and Environmental Biology
研究室 昆虫遺伝研究室 Laboratory of Insect Genetics and Bioscience
職名 准教授 / Associate Professor

一般の方へ向けた研究紹介

蚕を学ぶ

 カイコはイヌやブタのようにヒトの手により家畜化された昆虫です。野生の昆虫と比較すると格段に育てやすく、1 km以上の糸を作り出せるように、類い稀なタンパク質生産能力を持ちます。その特徴を利用して、人々は紀元前からカイコを飼育して絹織物を作り、最近では遺伝子組換えカイコやバキュロウイルス発現系を利用して有用タンパク質の生産を行なっています。しかし、カイコにはまだ改良の余地があります。私たちは養蚕業の発展に貢献できるカイコの育成を目指しています。
 私たちは科学的にインパクトのある基礎研究を展開しています。その成果をもとに、より能力に優れかつ便利で、飼育しやすいカイコを作り出したいと考えています。たとえば、カイコの性、休眠性、食性を思い通りに操作したいと考えています。そのために、カイコのゲノム配列を任意に改変する技術開発も行なっています。
 カイコは人々の生活に利益をもたらす益虫です。一方、チョウ目昆虫のなかには、農作物に甚大な被害をもたらす害虫がいます。私たちの研究は、カイコをモデルにして、チョウ目昆虫を分子レベルで理解することにつながります。すなわち、私たちの研究成果により、害虫防除の新しい標的分子や方法を提案できると考えています。

教育内容

蚕を究める

 養蚕が盛んであった日本では、古くからカイコの研究(養蚕学)が精力的に行われてきました。飼育や交配が容易でボディサイズも大きいカイコは研究材料として優れており、遺伝学あるいは生理学の分野において大きく貢献してきた昆虫です。
この優れた研究材料であるカイコを利用して、これまでに学術的に価値の高い成果が生み出されています。古くは外山亀太郎によるメンデルの法則の動物における実証、最近では私たちの研究成果である性決定因子の同定があります。学生のみなさんにも、カイコの研究材料としての強みを生かし、基礎科学としてインパクトのある成果を挙げてほしいと思っています。
 私の現在の主な研究テーマは「性決定機構の解明」、「食性決定機構の解明」、「休眠制御機構の解明」になります。また、カイコでより高度な遺伝学・分子生物学・遺伝子工学を展開するために、そして、研究で得られた成果を社会へ実装するために「ゲノム編集技術の改良」も行っています。一方で、自分で研究テーマを模索して決定し、取り組んでいる学生もいます。
 いずれにしても、学生には自分の研究テーマに興味をもち、自分で考えて試行錯誤し、楽しんで研究してもらいたいと思っています。その手助けができればいいなと思いながら、指導しています。

共同研究や産学連携への展望

蚕を生かす

 かつて日本の近代化を支えた養蚕業は、これまで衰退の一途を辿ってきました。しかし近年、遺伝子組換えカイコやバキュロウイルス発現系を利用して有用タンパク質を作る次世代の養蚕業が発展してきています。バイオ医薬品を筆頭に、組換えタンパク質の需要は年々高まっています。今後、国内において組換えタンパク質を安定して供給できる体制を整える必要があります。私たちはカイコがその役割の一端を担えるのではないかと期待しています。カイコを用いた有用タンパク質生産には、ほ乳類の培養細胞や微生物などを用いた有用タンパク質生産にはないメリットがあります。たとえば、カイコの飼育規模を調整するだけで、ニーズに対応して有用タンパク質の生産スケールを容易に変更することができます。まだまだ発展途上の産業ではありますが、カイコの潜在能力に期待し、ともに技術開発・利用に挑戦してくれる企業からのご相談をお待ちしています。
 カイコは研究のみならず教育材料としても秀逸です。小学生から高校生に至るまで、幅広いレベルの生物学実験を実施することができます。私はカイコの魅力を多くの子供たちに知ってもらいたいと思っています。そのため、教育機関からの「カイコを学びたい」という声には、喜んで協力いたします。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  カイコ、昆虫、チョウ目、クワ、性決定、休眠、食性、ゲノム編集、家畜化、分子生物学、遺伝学、生理学、病理学、昆虫利用学、養蚕学
キーワード2  :  組換えタンパク質、タンパク質危機、気候変動、食糧問題、害虫防除、養蚕復興