プロフィール

前田 真吾

前田 真吾

MAEDA Shingo

専攻 獣医学専攻 Department of Veterinary Medical Sciences
研究室 獣医臨床病理学研究室 Depertment of Veterinary Clinical Pathobiology
職名 准教授 / Associate Professor

一般の方へ向けた研究紹介

Beyond species:生物種を超えた病態解析

研究の目的
 

私の研究の目的は、動物の病気を介して生命現象を解明することです。さらに研究から得られた知見を社会に還元したいと考えています。


研究の内容
 

難治性疾患(腫瘍、腎臓病、アレルギー、慢性腸炎)を対象として、マウス・イヌ・ネコ・ヒトの観点から多角的に調べることで、生物種を超えた共通の発症メカニズムを解明し、病気の「理」を理解することに挑戦しています。この「Beyond species」のアプローチにより生命現象の一端を紐解いていくことを目指しています。

これまでの成果
 

犬の膀胱がんと前立腺がんの進行メカニズムを調べた結果、制御性T細胞(Treg)という免疫を抑制する細胞がこれらの腫瘍組織の中に多数存在していることがわかりました。Tregが腫瘍組織内に入り込むメカニズムを詳しく調べたところ、腫瘍細胞がCCL17というケモカインを産生し、その受容体CCR4を発現しているTregを呼び寄せていることがわかりました。次に犬の腫瘍細胞をマウスに移植したモデルを使ってCCR4阻害剤の治療効果を検証したところ、Tregの腫瘍内浸潤の抑制と腫瘤の縮小効果を確認することができました。そこで膀胱がんと前立腺がんを発症した犬に対してCCR4阻害剤の臨床試験を実施しました。その結果、CCR4阻害剤がTregを抑制することで治療効果を発揮することを実際の症例で証明することができました。


今後の展望
 

上記のCCR4は犬だけでなくヒトのがん患者さんでもTregの腫瘍内浸潤に重要であることを確認しています。そのため、今後は医学研究者とコラボレーションして獣医療だけでなくヒト医療にも貢献したいと考えています。

教育内容

Play to Leran、 Learn to Play:楽しみながら学び、学びながら楽しむ

教育活動内容
 

主に小動物臨床(イヌ・ネコ)、特に内科系の講義や実習を担当しています。講義や実習では、「病気」を通して生命現象を捉えたり、逆に生理機能からどのようにステップで「病気」という状態に至るのかを考えてもらうような内容にしようと努力しています。学外では、日本獣医学会や日本獣医内科学アカデミー、日本獣医臨床病理学会、日本獣医腎泌尿器学会、獣医アトピー・アレルギー・免疫学会などの団体が主催する学術集会にて講演活動を行ったり、個人でも「Vet Talks」という獣医学研究者の交流会を主催したりしています。

人材育成の目標
 

研究と臨床を通して、問題や課題を発見し、仮説を立ててそれを検証し、問題・課題を解決していくという思考法を是非一緒に学んでいけたらと考えています。

人材輩出の実績
 

これまでに学部学生(獣医学専修)21名(うち6名は応募者の研究テーマで直接指導)、大学院生(獣医学専攻)16名(うち6名は応募者の研究テーマで直接指導)を担当しました。卒業生の進路は、大学教員、ポスドク、製薬企業、食品系企業、小動物臨床の獣医師、動物園獣医師、国家公務員、地方公務員、外資系コンサルティング企業など多岐にわたります。

共同研究や産学連携への展望

For Science、 For Animals、 For Humans:科学のため、動物のため、人のため、三方よしの研究を目指しています

取り組んでいる課題
 

これまでの創薬ではマウスを中心とした実験動物モデルを主軸に研究が進められてきました。しかし、マウスモデルからヒトの臨床試験への外挿成功率は10%以下であったということが近年報告されるようになり、基礎研究と臨床研究の間には「死の谷」とよばれるギャップが存在することが知られるようになりました。この創薬における死の谷を克服するために、私はヒトと類似した病気を発症した伴侶動物であるイヌやネコを研究対象としています。東京大学附属動物医療センターにてイヌ・ネコの診察や治療をしておりますが、これらの伴侶動物をヒトの各種疾患の「自然発症動物モデル」として捉えなおし、病態解析や新規治療法の確立を目指して研究しています。これまでに膀胱がんと前立腺がんにおいてイヌとヒトで共通のメカニズムを発見し、その阻害剤が治療効果を発揮することを獣医師主導臨床試験により証明することができました。


現時点での課題に対する成果物や進捗
 

上記の膀胱がんや前立腺がんの獣医師主導臨床試験の結果は、Cancer Immunology Research誌やJournal of ImmunoTherapy of Cancer誌といったがん免疫分野のトップジャーナルに論文発表している。


今後の進展に適用可能な技術や研究、展望
 

マウスモデルを用いた基礎研究だけでなく、イヌ・ネコの臨床症例を自然発症動物モデルとして扱うことができます。基礎研究と臨床研究の両方の視点で事象を捉えることができるのが私の強みです。マウスの前臨床研究で得られたデータをヒトの臨床試験にいきなり持っていくのではなく、その間にイヌ・ネコの臨床症例を用いた獣医師主導臨床試験を実施することで、創薬における死の谷を乗り越える橋渡しができればと考えています。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  臨床研究、基礎研究、橋渡し研究、トランスレーショナル・リサーチ、臨床試験、イヌ、ネコ、マウス、がん、腫瘍、腎臓病、アレルギー、炎症
キーワード2  :  難治性疾患、慢性疾患、がん、腫瘍、腎臓病、アレルギー、死の谷