日本生態学会誌Japanese Journal of Ecologyの74巻第1号の特集に、2022年12月に生物多様性条約第15回締約国会議(CBD COP15)で採択された新たな世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)」の背景と詳細を解説する和文論文が、本研究科の香坂玲教授(森林科学専攻)が共著論文・オープンアクセスの形で掲載されている:

ポイント

  • 昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)は、生物多様性条約第15回締約国会議(CBD COP15)で採択された生物多様性に関する新たな世界目標
  • このたび、日本生態学会誌Japanese Journal of Ecologyの74巻第1号の特集(計4編の和文論文で構成)に、2編の論文を発表
  • とくに、KMGBF及びその議論過程に加え、同枠組の目標・ターゲット・指標の内容と有用性について理解を深め、国内での目標実施に貢献が期待される

昆明・モントリオール生物多様性枠組(以下:KMGBF)には、2030年までに世界の陸と海の30%を保全する「30by30」目標など、生態系保全と資源の持続可能な利用に関する具体的な目標が含まれている。目標には、モニタリングや資金(資源)動員、民間部門との協働、遺伝情報の利用から得られる利益の配分といった様々な項目があり、カバーする範囲は広く、その内容も複雑である。そのため、目標の全容を把握することは容易ではない。これらを和文で整理・分析する目的で、KMGBF合意に至るまでの議論経緯、合意された枠組みの総評、KMGBFの根幹をなす4つのゴールと23の目標の解説等を、森林科学専攻の香坂玲教授らが行った。とくに、近年国際的な目標設定について注目されるSMART(Specific/Measurable/Ambitious/Realistic/Time-bound)の観点から、2010年に合意された「生物多様性戦略計画2011-2020 及び愛知目標」と、その後継目標となる「KMGBF」を比較し、KMGBFの特徴を明らかにし、また、このKMGBFと資源動員や、遺伝情報の利用から得られる利益配分に係る議論の経緯や関係性を整理した。この特集を通じて、日本でも枠組への理解が広がり、具体的な保全活動に関する議論が活発化することが期待される。

なお、香坂玲教授は、KMGBFを運用するためのアドホック技術専門家会合(AHTEG:Ad Hoc Technical Expert Group)に、日本政府の推薦枠に選出され、議論に参画してきた。

図1. 特集 表紙 日本生態学会誌 第74巻1号

表1.愛知目標及び昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)の構成比較(大澤・香坂[2024]より)

表1.愛知目標及び昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)の構成比較

生物多様性戦略計画2011-2020及び愛知目標

昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)

前文

セクションA:背景

セクションⅠ:当該計画の根拠

セクションB:目的

セクションⅡ:ビジョン

セクションC:枠組の実施についての考慮事項

セクションⅢ:ミッション

セクションD:持続可能な開発のための2030アジェンダとの関係

セクションⅣ:戦略目標及び目標

セクションE:変化の理論

例)目標3:生物多様性に有害な奨励措置等を改廃

セクションF:2050年ビジョン及び2030年ミッション

例)目標4:持続可能な生産・消費のために行動

セクションG:2050年昆明・モントリオールゴール

例)目標5:自然生息地の損失速度を半減させ、ゼロに近づける

例)ゴールA:種の絶滅率及びリスクを1/10に削減

例)目標8:過剰栄養等による汚染を有害とならない水準まで抑制

例)ゴールD:年7,000億ドルの資金ギャップを徐々に縮小

例)目標9:侵略的外来種のうち優先度の高い種を制御、根絶

セクションH:2030年昆明・モントリオールターゲット

例)目標10:(2015年までに)気候変動等に脆弱な生態系について人為的圧力を最小化

例)ターゲット2:劣化した生態系の30%を再生

例)目標11:陸地の17%、海洋の10%を保護地域等で保全

例)ターゲット3:陸地及び海洋の30%を保護地域等で保全管理

例)目標12:絶滅危惧種の絶滅及び減少を防止

例)ターゲット6:侵略的外来種の導入・定着率を50%削減

例)目標15:劣化した生態系の15%を回復させ、気候変動対策等に貢献

例)ターゲット7:過剰な栄養素の環境中への流出や、農薬及び有害な化学物質によるリスクを半減

例)目標16:遺伝資源のABSに係る名古屋議定書を国内実施

例)ターゲット8:自然を活用した解決策等を用いた緩和、適応、防災・減災

例)目標20:資源(資金)動員を顕著に増加*

例)ターゲット13:遺伝資源やDSI等の利用から生じる利益の配分を促進

セクションⅤ:実施、モニタリング、点検及び評価

例)ターゲット15:生物多様性に係るリスクや影響等を評価・開示するよう、大企業等に求める

セクションⅥ:支援メカニズム

例)ターゲット17:バイオセーフティ措置やバイオテクノロジーによる利益配分等の強化

例)ターゲット18:生物多様性に有害な補助金等を特定し、年5,000億ドルを段階的に削減

*途上国向けの生物多様性関連の国際資金フローを世界全体で2006-2010の年間資金の平均から2015年までに倍増させ、その水準を2020年まで維持することや、資源のギャップを埋めるために国内においても資源動員すること等が、COP12で決定された(環境省 2014)

例)ターゲット19:生物多様性のための資源(資金)を増やし、年2,000億ドルを動員

セクションI:実施及び支援のメカニズムと実現条件

セクションJ:責任と透明性

セクションK:広報、教育、啓発及び理解

科研費(気候変動・縮小期における観光と保全の両立:境界オブジェクトとしての土地利用マップJP22H03852, JP21K18456[代表 香坂玲])及びJSTRISTEX 科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム 「農林業生産と環境保全を両立する政策の推進に向けた合意形成手法の開発と実践」(https://www.jst.go.jp/ristex/stipolicy/project/project40.html) (代表 香坂玲)の一環として実施された

発表雑誌

雑誌名
日本生態学会誌
論文タイトル
昆明・モントリオール生物多様性枠組及びその議論過程
著者
大澤 隆文, 香坂 玲*  (*責任著者)
論文URL
https://doi.org/10.18960/seitai.74.1_71
論文タイトル
昆明・モントリオール生物多様性枠組の目標・ターゲット・指標:その内容と有用性の解説
著者
池上 真木彦*, 角 真耶, 石田 孝英, 山野 博哉, 香坂 玲, 石濱 史子, 亀山 哲, 小出 大, 小林 邦彦, 富田 基史, 角谷 拓(*責任著者)
論文URL
https://doi.org/10.18960/seitai.74.1_85

関連リリース

香坂玲教授(森林科学専攻)が生物多様性条約の技術会合専門家に選出(継続)
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/news/news_20230517-1.html

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 森林風致計画学研究室
教授 香坂 玲(こうさか りょう)
Tel:03-5841-5218
E-mail:kohsaka.lab<アット>gmail.com
    kohsaka<アット>hotmail.com <アット>を@に変えてください。
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