ナノセルロースが乳化する仕組みを分子レベルで解明
発表のポイント
◆ナノセルロースは表面電荷密度が小さいほど乳化能(注1)が高いことを明らかにしました。
◆分子動力学シミュレーション(注2)により、ナノセルロースが水と油の界面に吸着する熱力学的メカニズムを明らかにしました。
◆本研究で得られた知見は、持続可能な乳化剤であるナノセルロースの設計方針を提供します。
発表内容
木質バイオマス由来のナノセルロースは、持続可能なバイオマスとして注目されています。特に、環境負荷の低い乳化剤として、食品、化粧品、医薬品など幅広い分野への応用が期待されています。しかし、ナノセルロースの表面電荷密度が乳化能に与える影響やそのメカニズムについては、これまで十分に理解されていませんでした。
本研究では、実験と分子動力学シミュレーションを組み合わせて、ナノセルロースの乳化メカニズムの解明に取り組みました。具体的には、形状や分散性が同等で、表面電荷密度のみが異なるナノセルロースを用いて、乳化能を比較しました。その結果、表面電荷密度が小さいナノセルロースほど、小さい油滴を形成する、すなわち高い乳化能を示すことが明らかになりました。この傾向は、表面電荷が高いナノセルロースの場合、溶媒和によって水と油の界面への吸着が妨げられるためであることが示されました。さらに、ナノセルロースは水と油の界面でねじれた構造をとり、特定の結晶面のみが界面に吸着していることが明らかになりました。
今回得られた知見を活かし、ナノセルロースの表面化学構造を設計することで、より高機能で持続可能な乳化剤の開発が期待できます。
図 水と油の界面に吸着したナノセルロースの構造
(a) 水と油の界面に吸着したナノセルロースの構造。 (b)系の底から見たナノセルロースと水の構造。橙色で示した結晶面は油相に吸着している一方で、灰色で示した結晶面と油相の間には水分子が入り込んでいる。
本研究は、JST-CREST (JPMJCR22L3)、JST-ASPIRE (JPMJAP2310)、科研費(21H04733; 23H02270)の助成を受けて行われた研究です。
論文情報
雑誌名: Small Structures
題名: Thermodynamic Insights into the Surface Charge-Regulated Adsorption of Nanocellulose at Liquid–Liquid Interfaces
著者名: Yuka Tomita,Tomohito Yagita, Jakob Wohlert, Takayuki Toyomasu, Takayuki Hirano, Tsuguyuki Saito, and *Shuji Fujisawa (*責任著者),
DOI: sstr.202500318
URL: https://doi.org/10.1002/sstr.202500318
発表者
富田 有香(東京大学大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻 修士課程)
八木田 兼仁(東京大学大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻 博士課程: 研究当時)
Jakob Wohlert(スウェーデン王立工科大学 講師)
豊増 孝之(株式会社東レリサーチセンター)
平野 孝行(株式会社東レリサーチセンター)
齋藤 継之(東京大学大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻 教授)
藤澤 秀次(東京大学大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻 准教授)
用語解説
(注1)乳化能
乳化は、水相に油滴が分散する、あるいは油相に水滴が分散することで、水と油が混ざる現象。乳化能は、水と油の界面に吸着して界面張力を低下させ、水と油を混ぜる能力を指す。
(注2)分子動力学シミュレーション
原子や分子運動の時間発展を計算によって解析する手法。原子間に働く相互作用を考慮しつつ、ニュートンの運動方程式に基づいて解析を行う。
問い合わせ先
東京大学大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻
准教授 藤澤 秀次(ふじさわ しゅうじ)
Tel:03-5841-5270
E-mail:afujisawa<アット>g.ecc.u-tokyo.ac.jp <アット>を@に変えてください。


