発表のポイント

◆固定資産税評価のための航空写真を活用するなど、多くの自治体で経済的制約を緩和するための工夫が見られる。
◆緑被率調査には航空写真、衛星画像、および税務調査用航空写真の3種類のデータが用いられている
◆衛星画像の取得コストは解像度に依存しており、人口規模や経済力の違いを反映している。
◆自治体のデータ選択はコスト・精度・データ継続性という三要素のバランスが地理的・社会経済的条件によって強く影響を受ける

発表概要

 日本の自治体では、「公園・緑地整備マスタープラン」に基づき、都市の緑地環境を把握・評価するために緑被率(緑が地表を覆う割合)が重要な指標として活用されている。緑被率は、都市の環境品質や生態系の健全性を評価するうえで不可欠であり、持続可能なまちづくりの指標として世界的にも注目されている。しかし、日本では調査に用いる画像データの種類や「緑」「緑地」の定義、解析手法は自治体によって異なりことから、都市間での比較や時系列的な整合性の確保が難しいのが現状である。
 本研究では、全国20の政令指定都市を対象に、緑被率の算出に用いられている調査手法の分類、採用理由、そして異なる手法間の移行に伴う課題を明らかにすることを目的とした。アンケートおよび担当職員へのインタビューに基づく分析の結果、自治体における緑被率調査には以下の3つの主要なデータソースが確認された。
 1.緑被率調査専用の航空写真
 2.固定資産税評価のために撮影された航空写真
 3.購入した衛星画像

 これらの手法は、コスト・解像度・データ継続性の間のトレードオフを反映し、都市の特性や財政状況に応じた多様な選択が行われていることが明らかになった。特に、税務調査用の航空写真を活用することで調査コストを大幅に削減できることが示される一方で、季節性(緑地の調査に冬季の写真を使用)や過去の航空写真との比較可能性と一貫性の課題が担当者からは提示された。今後は精度と費用のバランスがとれた、費用対効果の実践的な戦略となるのか注目されている。
 アンケートおよびインタビュー結果の分析を行った結果、航空写真を用いる都市では調査コストが対象面積に比例する一方、衛星画像を用いる都市では人口規模と関連してコストが変動する傾向が確認された。また、多くの自治体が緑被率調査を単なる数量的評価としてではなく、都市の長期的な変化を記録する手段として位置づけており、過去調査との整合性を保つために調査仕様の一貫性を維持することを重視していた。
 さらに、調査手法は標準化されたものではなく、各自治体の行政能力、財政資源、過去の実践経験に大きく依存していることが明らかになった。したがって、今後の政策的支援や指針の策定にあたっては、コスト効率性と精度の両立を図りつつ、地域ごとの事情を踏まえた柔軟な対応が求められている。
 また、近年では衛星画像を用いたモニタリングへの関心が高まりつつあり、その背景には解像度の向上やWebベースの解析環境の普及があると考えられる。しかし、航空写真から衛星画像へ移行する際には、過去データとの整合性の確保や衛星データを扱う専門知識の不足といった課題がしばしば指摘された。こうした課題に対しては、自治体間の連携や知見共有の促進が有効な対策となる可能性が示唆される。
 今回の調査対象である20の政令指定都市は、比較的人口規模が大きく、行政能力の高い自治体であった。市街地面積の大きい都市圏ではデータの継続性や高解像度でのモニタリングが重視される一方、森林面積の大きい都市では航空写真における季節変動への対応が課題となっていた。対照的に、比較的小規模な自治体ではコスト面の考慮が優先される傾向があった。このような地域的差異は、コスト・精度・データ継続性という三要素のバランスが地理的・社会経済的条件によって強く影響を受けることを示している。
 本研究は、このような多様な実態を明らかにすることで、日本の都市における緑被率調査の方法論的背景を整理し、より効果的で持続的な緑地モニタリングの実現に向けた方向性を示すものである。今後は、中小規模の自治体を含むより広範な分析の拡充や、標準化された検証手法による精度評価、新たなリモートセンシング技術の導入が期待される。また、複数自治体間での共同調査やデータ共有基盤の構築も、限られた人的・財政的資源を補完する有効な方策となり得ると考えられる。
 本研究の成果は、自治体がコスト、精度、データ継続性のバランスを取る際の実践的な指針を提供するとともに、将来的な都市緑地政策の策定や全国的なモニタリング体制の標準化に向けた貴重な知見を与えることが期待される。

図 1 都市ごとの緑被調査におけるデータ選択の変遷

 本研究は、科研費(JP22H03852JP23H01584JP23H0360525K15570)JST共創の場形成支援プログラム(JPMJPF2110)、環境省による環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20241M03)の一環として実施された。


◆関連リンク:自治体による航空写真と衛星画像の使い分けの現状と課題:過渡期にある植被率調査手法

発表者

奈良女子大学 人間文化総合科学研究科
 祖父江侑紀 助教

東京大学大学院農学生命科学研究科 森林風致計画学研究室
 島津凜太朗 博士前期課程
 香坂玲 教授

発表雑誌

雑誌名:Environmental and Sustainability Indicators
形式:Original Research Article
タイトル:Comparison of Methods for Green Cover Assessment: Options of Aerial Photography and Satellite Imagery in Japanese Municipalities
著者:Yuki Sofue, Rintaro Shimazu, Ryo Kohsaka* (*責任著者)

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 森林風致計画学研究室
Tel:03-5841-5218
E-mail:kohsaka.lab[@]gmail.com
※[@]を@に変えてください。

関連教員

香坂 玲