発表のポイント

◆大型鯨類であるザトウクジラの息継ぎ(ブロー)をドローンで回収することに成功しました。
◆Virome(注1)解析により、1839種のウイルス遺伝子を検出しました。
◆その中に、新規のヘルペスウイルスの遺伝子を発見しました。
◆ドローン検体採取法は、鯨類の感染症サーベイランスに貢献します。

発表概要

 大型鯨類のウイルス感染症の調査を目的に、無人航空機(UAV、ドローン)を活用して、八丈島近海のザトウクジラの息継ぎ(ブロー)を回収し、ウイルス遺伝子を探索しました。ブローからは、鯨類に感染するアルファヘルペスウイルス(注2)に類似する新規のウイルス遺伝子が検出されました。国内で初めてクジラのブローからウイルス遺伝子の検出に成功しました。ドローンを用いた非侵襲的な検体採取法は、鯨類のウイルスサーベイランスに貢献することが期待されます。

発表内容

 海洋の生態系維持において重要な大型鯨類は、人の立ち入りが困難な海域に生息するため、採材の難易度が高く、大型鯨類の生態調査の隘路になっています。本研究では、東京都の八丈島近海で観察された5群のザトウクジラから、無人航空機(UAV、ドローン)を用いて息継ぎ(ブロー)を非侵襲的に採取し(図1)、そのブローに含まれるVirome解析を実施しました。その結果、ブロー中に検出された遺伝子配列の11.7%が真核生物に感染するウイルス遺伝子と同定されました(図2)。検出された1839種の既知ウイルスに関連する塩基配列のうち、9種は哺乳類感染性のウイルスでした(図3)。特に、シロイルカ由来アルファヘルペスウイルスに類似する遺伝子配列が、ザトウクジラのブローから初めて検出されました(図4)。この新規のヘルペスウイルスはブローから他の個体に感染する可能性があります。本研究で実施したUAVを活用した非侵襲的な採材方法は、鯨類の感染症の検出やサーベイランスに活用でき、鯨類の保全や健康状態のモニタリングに貢献できると期待されます。今回の発見は海洋哺乳類におけるウイルスの多様性に関する理解に貢献します。


図1使用したUAVとクジラブローの採取


図2 ブローから検出されたウイルス遺伝子
11.7%の真核生物感染性ウイルスが検出された。


図3ブローから検出された哺乳類ウイルス遺伝子
左が遺伝子の長さ, 右が遺伝子発現量を示す。


図4 検出されたアルファヘルペスウイルスUL20遺伝子の系統樹
鯨偶蹄目シロイルカやウシ, ブタ由来のヘルペスウイルスと近縁である。


 

本研究は、東京大学エッジキャピタル(若手研究者支援事業、農学創発基金)、日本医療研究開発機構(UTOPIA, JP223fa627001)の助成により実施されました。本研究にご協力いただいたKURIKURICRAFTの藤井雅巳様、八丈島観光協会の山越整様、小野電機製作所の小野真徳様に深く感謝申し上げます。

用語解説

・注1 Virome
ウイルスの総体(ウイルス叢)。近年、細菌叢だけでなく、ウイルス叢も生体における疾患、生態や食生活に関与することが報告されています。

2 アルファヘルペスウイルス
オルトヘルペスウイルス科アルファヘルペスウイルス亜科に属するウイルス。多くのウイルスが人や動物に感染し、病気を起こします。鯨類では呼吸器や体表からの検出や分離が報告されています。

発表者

関根 渉 (東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 助教)
川崎 純菜 (千葉大学大学院医学研究院 助教)
大平 浩輔 (東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 博士課程院生:当時)
黎  凱欣 (東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 博士課程院生:当時)
片山 美沙 (東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 博士課程院生)
市川 綾乃 (東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 博士課程院生)
若林 勇太 (東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 博士課程院生)
上間 亜希子(東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 学振RPD研究員)
村上 晋  (東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 准教授)
堀本 泰介 (東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 教授)

発表雑誌

雑誌:Viruses
題名:First Detection of an Alphaherpesvirus Gene in Humpback Whale Blow Samples Collected Noninvasively Using Unmanned Aerial Vehicles
著者:Wataru Sekine, Junna Kawasaki, Kosuke Ohira, Kaixin Li, Misa Katayama, Ayano Ichikawa, Yuta Wakabayashi, Akiko Takenaka-Uema, Shin Murakami, Taisuke Horimoto
DOI:10.3390/v17111411
URL:https://doi.org/10.3390/v17111411

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 獣医微生物学研究室
助教 関根 渉(せきね わたる)
Email: w-sekine[アット]g.ecc.u-tokyo.ac.jp
Tel: 03-5841-5398
Fax: 03-5841-8184

教授 堀本 泰介(ほりもと たいすけ)
Email: taihorimoto[アット]g.ecc.u-tokyo.ac.jp

[アット]@に変えてください。

関連教員

関根 渉
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堀本 泰介