発表のポイント

◆過剰なTh2型環境で消化管アレルギーを起こすOVA23-3マウスは、骨量減少を併発する。本研究ではその発症と維持のin vivoレベルでのメカニズムを解明した。
◆本研究のマウスモデルでは、食餌摂取に伴い消化管アレルギーに伴う腸炎は炎症から寛解に至る。しかし骨量減少は腸炎の寛解に連動せず、メカニズムを変えて維持されることを明らかにした。
◆近年重篤なアレルギー症状を示す患者で骨量減少を発症することが報告された。本研究はアレルギー続発性の骨粗鬆症の発症メカニズムの解析に寄与し、新たな治療戦略の基盤となる可能性がある。

概要

東京大学農学生命科学研究科免疫生体機能研究社会連携講座足立はるよ特任准教授を責任者とする研究グループは、樹立した消化管アレルギーモデル(J. Allergy Clin. Immunol (2006)(注1, 2)を用い、Th2 型の過剰IL-4(3)環境下で起こる骨量減少の発症機構を、骨代謝と炎症性細胞および制御性T細胞の役割からin vivoレベルで明らかにしました。この消化管アレルギーモデルマウスは、卵白中のタンパク質であるオボアルブミンをアレルゲンとして過剰IL-4 産生を原因とした小腸炎を発症し、骨量減少を併発します。本研究はこのモデルで食餌摂取に伴い腸炎の病態が炎症から寛解へと変化する際に、骨量減少は逆にメカニズムを変えて維持されることを明らかにしました。また、IL-4の作用点が破骨細胞数の増減にあることも示しました。従来、過剰なTh2型免疫応答下では骨量減少はむしろ抑制されると考えられてきました。しかし、近年重篤なアレルギー患者の骨量減少の併発が報告されており、本研究はその背景にあるメカニズムの解析に寄与すると考えられます。

発表内容

Th2型のアレルギー炎症を伴う疾患では、続発性の骨粗鬆症(4)を引き起こす可能性が指摘されています。一方で、アレルギーを起こす主要サイトカインであるインターロイキン(IL)-4は骨量減少を抑制すると報告されており、詳細な骨粗鬆症発症機構は不明でした。既に我々は消化管アレルギーモデルマウスであるRAG2遺伝子欠損/OVA23-3BALB/cAF1マウスは、餌中のタンパク質画分全てが卵白からなる餌(卵白食)を与えることで過剰なIL-4環境下、小腸炎を発症すると共に[(Nakajima-Adachi H., et al. J. Allergy Clin. Immunol (2006) ]骨量減少を併発することを報告しました[Ono-Ohmachi A., et al. Mucosal Immunol. (2021) ](図1)。このマウスの腸炎は、卵白食の継続摂取により、過剰なIL-4環境にある炎症期から転じ、制御性T細胞(Treg)(5)の誘導に伴って寛解に向かうこと(寛解期)を特徴としています。一方、骨量減少はこの炎症から改善への腸炎の変化とは相関せず、その間維持されます。そこで、本研究はこの消化管アレルギーのモデルマウスを用い、骨量減少の進行と維持機構の解明を目的に実施されました。

図1 消化管アレルギーモデルマウスが示す炎症と寛解

まず、筆者らは骨形態計測により骨代謝の解析を行いました。その結果、炎症期では、破骨細胞数の増加が骨量減少を引き起こしていたのに対し、寛解期では破骨細胞の増加ではなく、骨代謝が骨の形成と吸収が共に過剰に亢進した高代謝回転骨(6)へと変化し、骨量減少が維持されることを明らかにしました。

さらに筆者らは、炎症期・寛解期各々について、主に炎症性の免疫細胞に着目しメカニズム解析を進めました。その結果、炎症期では腸間膜リンパ節(MLN)と骨髄(BM)の双方でIL-4が過剰な環境となりc-kit+FcεRI+細胞(マスト細胞)CD11b+SiglecF+Ly6G-細胞(好酸球)の増加が認められました。このIL-4CD11b+細胞とT細胞により産生されていました。ここで抗IL-4抗体を投与しIL-4の働きを抑制すると、骨量減少と小腸炎が抑制され、BMで増加した破骨細胞数が減少し、BMと腸管組織のマスト細胞数の増加も同時に抑制されました。以上より、炎症期ではIL-4の過剰環境が、特定の免疫細胞と協調し破骨細胞の分化と破骨機能を促進し、骨量減少を起こすことが示されました。寛解期では、炎症期で認められた炎症性の免疫細胞の増加はマクロファージ系細胞に限られた一方、MLNBMTregが増加しました。加えて、MLNで誘導されBMへ移動するTregIL-10mRNAを高いレベルで発現しており、IL-10(7)を産生し破骨細胞数の増加抑制に寄与する可能性が考えられました。しかし、このモデルの骨量減少は、このTregだけでは回復に至らないことも示唆されました。

本研究の結果は、消化管アレルギーに伴う骨量減少の病態進行を理解する上で重要な知見を提供するとともに、重症アレルギー患者における骨の健康管理の重要性を示唆しています。

論文情報

雑誌名:Allergology International
題 名:Excessive IL-4 Environment Enhances Osteoclastogenesis and Modulates Inflammatory Cell Differentiation in Bone Loss Associated with Food Allergic Enteropathy
DOI:10.1016/j.alit.2025.11.007. Online ahead of print.
著者名:
曽我 皓平 東京大学大学院農学生命科学研究科 当時博士課程
星野 友宏 東京大学大学院農学生命科学研究科 修士課程
玉井 雅人 東京大学大学院農学生命科学研究科 当時修士課程
伊藤 明美 (株)伊藤骨形態計測研究所 所長 
宇野 智  東京大学大学院農学生命科学研究科 当時修士課程
西辻 幸介 東京大学大学院農学生命科学研究科 博士課程
橋口 昌章  東京大学大学院農学生命科学研究科 農学支援員
中村 翔太朗 東京大学大学院農学生命科学研究科 当時修士課程
礒垣 遼   東京大学大学院農学生命科学研究科 当時修士課程
高根 康太朗 東京大学大学院農学生命科学研究科 修士課程
山崎 風夏  東京大学大学院農学生命科学研究科 共同研究員
古旗 淳   順天堂大学大学院 形態解析イメージング研究室 技術員
角田 茂  東京大学大学院農学生命科学研究科 准教授
松岡 周二  順天堂大学 順天堂大学大学院 医学研究科
アトピー疾患研究センター 特任准教授
戸村 道夫  大阪大谷大学 薬学部・免疫学講座 教授
下条 直樹  千葉大学附属病院アレルギーセンター 客員教授 
八村 敏志  東京大学大学院農学生命科学研究科 教授
足立(中嶋) はるよ 東京大学大学院農学生命科学研究科 特任准教授

研究助成

本研究は、科研費基盤研究(C) (HNA. No. 18K05502)、 JST SPRING (曽我皓平・西辻幸介 JPMJSP2108)、一般財団法人旗影会研究助成 (HNA. No. 2018T019)、一般財団法人糧食研究会研究支援(HNA. No. 2019A01)、明治ホールディングス(株)(図3D~F, S8, S13部分) の支援により実施されました。

用語解説

(注1)消化管アレルギー;消化管アレルギーは、1990年代の終わり頃から世界的に発症が増加している、食品中の主にタンパク質をアレルゲンとし、食事後嘔吐や血便、下痢などの消化器症状、また体重が適切に増えないと言った症状を示す疾患である。メカニズムは一般的な食物アレルギーとは異なりIgE抗体に非依存的に発症すると考えられている。主に新生児から乳児がかかる場合が多いが、成人での報告もある。

(注2)消化管アレルギーモデル OVA23-3マウス;卵白アルブミン(OVA)特異的T細胞受容体遺伝子の組換えマウス。OVAを含む卵白食を摂食させると、骨量減少を伴う小腸炎を発症する。

(注3)Th2型;主にアレルギー反応等で認められる、免疫応答型の1つ。CD4+ヘルパーT細胞によるIL-4などのサイトカインの産生を特徴とし、マスト細胞や好酸球などの免疫細胞の活性化を通し、炎症を引き起こす。IL-4は骨代謝においては、骨吸収を抑制するサイトカインとしての報告もある。

(注4)続発性骨粗鬆症;骨粗鬆症のうち、炎症性疾患や内分泌疾患、ステロイド治療等、病気や治療を原因として引き起こされるものを指す。炎症性疾患で続発性骨粗鬆症が指摘されているものとしては、炎症性腸疾患や今回取り上げた重度のアレルギー疾患等が挙げられる。

(注5)制御性T細胞(Treg);Foxp3を発現するヘルパーT細胞であり、免疫細胞群において過剰になった免疫反応を抑えるブレーキ役を担う細胞。アレルギーにおいては過剰になった免疫反応を抑制し、炎症抑制方向にはたらく。骨代謝においても骨吸収に対して抑制的にはたらくことが報告されている。

(注6)髙代謝回転骨;骨芽細胞による骨の形成と、破骨細胞による骨の吸収のサイクルが、通常よりも早い状態にある骨代謝状態であり、結果として骨量減少に至りやすい。閉経後骨粗鬆症の典型的なパターンともされている。

(注7)IL-10;抗炎症性のサイトカインであり、Tregや一部のB細胞・マクロファージなどから産生される。免疫応答においては過剰な炎症反応を抑制することで、恒常性を保つ重要な役割を担う。また、骨代謝においても抑制的にはたらくサイトカインとして報告されている。

問合せ先

<研究内容について>
東京大学大学院農学生命科学研究科免疫生体機能研究社会連携講座
特任准教授 足立(中嶋) はるよ(あだち(なかじま) はるよ)
Tel:03-5841-5230 E-mail:haruyona@g.ecc.u-tokyo.ac.jp

<機関窓口>
東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部 総務課広報情報担当
Tel:03-5841-5484  E-mail:koho.a@gs.mail.u-tokyo.ac.jp

関連リンク

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