発表のポイント

◆マウスの臓器(骨格筋、心臓、肝臓、脂肪組織)に存在するエクソソームのプロテオミクス解析より臓器特異的なエクソソームマーカータンパク質を同定しました。
◆各臓器および血液に存在するエクソソームタンパク質のプロファイル解析より、血中エクソソームの由来組織を明らかにしました。
◆本研究によって同定された臓器特異的なエクソソームマーカータンパク質は、各臓器の状態を非侵襲的にモニターする新規バイオマーカーとして利用されることが期待されます。

1:本研究の概要

概要

 エクソソーム(注1)は、臓器間の情報伝達ツールとして利用されています。また、エクソソームは血液や尿、唾液などにも存在することから、エクソソームに内包されている分子は侵襲性の低いバイオマーカーとしての利用も期待されています。このようなエクソソームですが、血液中には様々な細胞や臓器に由来するエクソソームが混在しており、血液中のエクソソームの主要な供給源は分かっていません。
 東京大学大学院農学生命科学研究科の山内祥生教授らの研究グループは、各種臓器からエクソソームを単離する方法を開発するとともに、臓器および血中エクソソームのプロテオミクス解析を行い、臓器特異的なエクソソームマーカータンパク質を同定し、比較解析することで、血中エクソソームが主にどの臓器に由来するか明らかにしました(図1)。今後、本研究で明らかにされた臓器特異的なエクソソームマーカーは、各臓器の状態をモニターするバイオマーカーとして利用されることも期待されます。

発表内容

 生体内において、細胞から分泌されたエクソソームは血液等の体液を介して他の臓器や細胞に運ばれ、それを受容した臓器や細胞の機能を調節しています。このような性質から、エクソソームは臓器間および細胞間コミュニケーションのメディエーターとして機能していると考えられています。また、エクソソームは血液や尿などの体液に存在することから、がんをはじめとする疾患の低侵襲性バイオマーカーとしての応用が期待されています。一方、全ての細胞や臓器がエクソソームを分泌するため、一旦血液中に放出されたエクソソームがどの臓器に由来するかを識別することはほぼ不可能です。そのため、臓器特異的なエクソソームマーカーを同定することは世界的に重要な課題となっています。
 各臓器が分泌するエクソソームは、臓器の間質中に高度に濃縮されていると考えられます。そこで、本研究では、マウスの各臓器(骨格筋、心臓、肝臓、脂肪組織)に含まれるエクソソームを高純度に単離する方法を確立するとともに、骨格筋、心臓、肝臓、脂肪組織および血液から単離したエクソソームの定量プロテオミクス解析を行い、これらのエクソソームに含まれるタンパク質を網羅的に明らかにしました。バイオインフォマティクスを駆使した比較解析の結果、各臓器のエクソソームに特異的に濃縮されるタンパク質群を同定することに成功しました。また、各臓器のエクソソームと血中エクソソームのタンパク質プロファイルを網羅的かつ統合的に解析したところ、上記4種類の臓器の中で、脂肪細胞由来エクソソームが最も血中に豊富に存在することが明らかになりました。一方、体の中で最大の臓器である骨格筋に由来するエクソソームの血中存在量は、解析した臓器の中で最も少ないと推測されました。
 これらの結果は、各臓器から分泌されたエクソソームは血中へ移行するものの、血中エクソソーム全体への量的な寄与は臓器毎に大きく異なることを示しています。また、本研究で確立した、臓器から直接エクソソームを単離する方法を使って単離された各臓器エクソソームのタンパク質プロファイルは、従来の各種培養細胞由来エクソソームのそれよりも臓器由来エクソソームの実態を反映していると考えられます。したがって、本研究で明らかにされた各臓器エクソソームのマーカータンパク質は、臓器の状態をモニターするバイオマーカーとして利用されることが期待できるほか、未知の臓器間ネットワークの解明にも寄与すると考えられます。さらに、本研究で開発された臓器エクソソームの単離方法を様々な病態や環境条件にある臓器へ応用することで、新規の疾患バイオマーカーの発見に寄与することも期待されます。

発表者・研究者等情報

東京大学
 大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻
  渡辺 祥 博士課程(研究当時)
  牧野 巧 博士課程
  廣 佳穂里 博士課程
  佐々木 崇 特任講師
  高橋 裕 助教
  二川 慶 博士課程
  鈴木 道生 教授
  佐藤 隆一郎 特任教授
  山内 祥生 教授

論文情報

雑誌名: Extracellular Vesicle
題名: Proteomic profiling of tissue extracellular vesicles (EVs) identifies tissue EV markers and estimates the abundance of tissue EVs in the circulation
著者名: Sho Watanabe, Takumi Makino, Takashi Sasaki, Yu Takahashi, Kei Futagawa, Michio Suzuki, Ryuichiro Sato, Yoshio Yamauchi
DOI: 10.1016/j.vesic.2025.100097
URL: https://doi.org/10.1016/j.vesic.2025.100097

研究助成

本研究は、科研費(課題番号:20J2241520H0040822H0228123K1844625H01449)、および公益社団法人日本栄養・食糧学会栄養・食糧学基金、飯島藤十郎記念食品科学振興財団学術研究助成の支援により実施されました。

用語解説

(注1)エクソソーム
細胞外小胞とも呼ばれる、ほぼすべての細胞が分泌する直径50150ナノメートル程度の脂質二重膜から成る小胞。内部にマイクロRNAやタンパク質など様々な生理活性分子を含んでいる。

問合せ先

<研究内容について>
東京大学大学院農学生命科学研究科
教授 山内 祥生(やまうち よしお)
E-mail: yoshio-yamauchi@g.ecc.u-tokyo.ac.jp

<機関窓口>
東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
事務部総務課総務チーム広報情報担当
Tel: 03-5841-5484 E-mail: koho.a@gs.mail.u-tokyo.ac.jp

関連教員

高橋 裕
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佐藤 隆一郎
山内 祥生