透明断熱材を凍結乾燥により製造
―セルロースナノファイバーの新たな活用―
発表のポイント
◆食品・医薬品・化粧品等の分野で実用されている凍結乾燥プロセスにより、透明断熱材を製造できることを実証しました。
◆透明断熱材を複層ガラスの中間層に組み込めば、住環境や車両の冷暖房効率を高められるため、社会の低炭素化に貢献します。
◆本研究の透明断熱材には、木材由来のセルロースナノファイバーが活用されており、資源循環の観点からも有益です。
発表内容
低炭素社会の実現に向けて、住環境や車内の冷暖房効率を高めることは重要です。これらの環境下では、開口部である窓を経由した熱の出入りが最も大きく、窓用の断熱材に対する要求は年々高まっています。窓に求められる採光性を維持しつつ、断熱性を高められるのが、透明断熱材です。従来、透明性と断熱性を両立した材料としてシリカエアロゲルが注目されていましたが、超臨界乾燥と呼ばれる特殊なプロセスが製造に必要であり、実用化の障壁となっていました。
本研究では、木材由来のセルロースナノファイバー(CNF)を活用すれば、凍結乾燥により透明断熱材を製造できることを実証しました。凍結乾燥は、食品・医薬品・化粧品等の製造分野で実用されており、メートル幅の板状乾燥体も生産できる工程です。CNFは水分散液として生産されますが、酸を加えるとゲル化する性質があります。本研究では、このゲル中の水を、常温付近で固まるアルコール類で置換したのち、凍結乾燥することで透明断熱材を製造しました。ゲル中でCNFが靭性の高い網目構造を形成するため、ゲルは凍結時に破損することなく、乾燥体は一体性を保っています(図1a)。
CNFの凍結乾燥体は、光透過率が高く(80~90%)、反射光はうっすらと青く見え(図1b)、透過光は夕焼けのように橙色になります(図1c)。この特性は、従来の透明断熱材候補であったシリカエアロゲルにも見られる特徴です。また、CNFの凍結乾燥体を2枚のガラスで挟んだ複層ガラスモデル(図1d)を作製し、ホットプレートの上に置いて赤外線サーモグラフィ測定を実施した結果、150 秒(約90秒時点で熱平衡)経っても、凍結乾燥体が挟まれた中央部は常温付近のままであり、周囲の空気層のみが温まっている様子が確認されました(図1e)。この結果は、CNFの凍結乾燥体が空気よりも低い熱伝導率を有することを示しています。
(a) 透明断熱材を構成するCNFの網目状骨格
(b) 反射光では、うっすらと青く見える透明断熱材
(c) 透過光では、夕焼けのように橙色の透明断熱材
(d) 透明断熱材を2枚のガラスで挟み、側面をポリエチレン(PE)発泡体で密閉した複層ガラスモデル
(e) 複層ガラスモデルを50℃のホットプレート上に設置した際の赤外線サーモグラフィ画像: 150秒経っても、透明断熱材が挟まれた中央部のみ、低温のままであり、周囲の空気層が温まっている様子が分かる
すなわち、本研究で開発したCNFの凍結乾燥体は、透明断熱材に求められる光の透過性と熱の遮蔽性を兼ね備えた構造体であるといえます。今後の社会実装に向けては、透明性のさらなる向上や、溶媒置換の省略などが重要と考えられますが、従来の超臨界乾燥ではなく、実用的な凍結乾燥で製造できた意義は大きく、当該分野の研究が加速することが期待されます。
本論文は、アメリカ化学会が発行する学術誌ACS Nanoに掲載されており、どなたも無料で閲覧いただけます。
発表者
侯 欣怡(東京大学 大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 博士課程)
小塚 純樹(東京大学 大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 修士課程:研究当時)
佐久間 渉(東京大学 大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 博士課程:研究当時)
伊藤 智樹(東京大学 大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 博士課程:研究当時)
加来 悠人(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 JSPS特別研究員PD)
小林 ゆり(東京大学 大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 修士課程:研究当時)
孫 志方(湘潭大学 准教授)
藤澤 秀次(東京大学 大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 准教授)
齋藤 継之(東京大学 大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 教授)
発表雑誌
雑誌名:ACS Nano
論文タイトル:Transparent Insulators with a Tough Nanocellulose Skeleton Formed via Freeze-Drying
著者:Xinyi Hou, Junki Kotsuka, Wataru Sakuma, Tomoki Ito, Yuto Kaku, Yuri Kobayashi, Zhifang Sun, Shuji Fujisawa, and Tsuguyuki Saito* (*責任著者)
論文URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsnano.5c19203
研究助成
本研究は、JST CREST(JPMJCR22L3)、JST ASPIRE(JPMJAP2310)、JSPS科研費 (23KJ0691, JP23K26963)の助成を受けて行われた研究です。
問い合わせ先
東京大学大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻
教授 齋藤 継之(さいとう つぐゆき)
E-mail: saitot@g.ecc.u-tokyo.ac.jp
研究室URL: https://psl.fp.a.u-tokyo.ac.jp


