プロフィール

高橋 一生

高橋 一生

TAKAHASHI Kazutaka

専攻 水圏生物科学専攻 Department of Aquatic Bioscience
研究室 水圏生物環境学研究室 Laboratory of Aquatic Biology and Environmental Science
職名 教授 / Professor

一般の方へ向けた研究紹介

海洋環境の変動は水産資源生産や物質循環にどのような影響を与えるのか?
〜プランクトンを研究する理由

 地球表面の約7割を占める海洋は地球上最大の生命圏です。密度、粘性、比熱容量等が空気とは大きく異なる水という媒質で満たされたこの環境は常に流動し、これに適応して進化した生物達が陸上生態系とは全く異なる生態系を形成しています。水に漂いながら生活する多様なプランクトン(浮遊生物)はその代表であり、その高い更新性によって一年間で陸上植物全体とほぼ等しい量の有機物を生産しています。また殆どの魚類はその初期生活史においてプランクトンを餌料として成長し、水産資源変動に大きな影響を与えることも知られています。さらに海洋はこれまでに人間活動によって大気中に放出された二酸化炭素の約3割を吸収しており、プランクトン群集はこの二酸化炭素吸収過程に大きな働きを担っています。このような重要な役割を担うプランクトン群集を構成する生物群は一般に微小かつ短命であり、常に環境の変動に対応して遷移を繰り返します。このような変化はやがて上述した水産資源や温暖化ガス濃度の変動など、私たちの生存環境に大きな影響を与える形で顕在化します。すなわちプランクトン群集の遷移機構の理解は海洋生態系動態予測のカギであると言えます。しかし広大な時空間スケールの中で絶えず変化する海洋環境中の微小なプランクトンの生態を理解することは容易ではなく、その詳細は十分に理解されていません。当研究室では、人為的影響を含む環境変動に対してプランクトン群集がどのように応答し、その結果生態系にどのような影響を与えるのかという点を明らかにすることで、「海の豊かさ」を守るための海洋利用のあるべき姿を考えます。
当研究室で実施した研究の一部は以下から参照可能です。
・ハワイのキハダは空気から-亜熱帯外洋域魚類生産における窒素固定生物の寄与を解明
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2018/20181012-1.html
・国内沿岸域の海水温上昇が動物プランクトンの死亡率を高める
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20190304-1.html
・北太平洋外洋移行域表層のマイクロプラスチック分布実態を解明
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20210713-1.html

教育内容

海という学校で学ぶ:フィールド研究を通して人材を育てる

 人類は海から大きな恩恵を受けているにも関わらず、海とそこに生息する生物のことを十分に理解できていません。その最大の要因は、水で満たされた海水中の調査が、陸上生物である人間にとって極めて困難であることが大きく影響しています。海洋環境は広大であり常に動的に変動しているため、そこに生息するプランクトンの生態を明らかにするためには、フィールド研究の実施が不可欠です。当研究室では、様々な研究機関と連携し、研究調査船や臨海研究施設を利用することで、現場におけるプランクトン群集および海洋生態系の動態を明らかにすることを目指しています。フィールド研究は総合的な人間力が試される場です。常に変化する状況下で目的とする試料やデータを取得するためには迅速で的確な状況判断力と行動力が必要です。そのためには正確な知識に基づく事前の十分な準備と適切な計画立案が欠かせません。さらに海洋でのフィールド研究では時化や夜間の観測など厳しい条件下で活動することも多く、充実した気力と体力、加えて仲間と協働できるコミュニケーション能力が求められます。このようにして現場から得られる試料やデータは唯一無二のものであることは言うまでもありませんが、その価値は適切な解析を経て論文化されることで初めて確かなものとなります。当研究室ではこのプロセスを通して海洋学だけでなく様々な分野において能動的に課題解決に取り組み、確実に成果を挙げることのできる人材を育成することを念頭におき教育研究を推進しています。

現在、太平洋外洋域を主なフィールドとして以下のような研究に取り組んでいます。
・温暖化や人為起源汚染物質がプランクトン生態系に与える影響の解明
・現場画像解析手法を用いたプランクトン行動生態の解明
・複合的アプローチによるプランクトン食物連鎖構造の再構築

共同研究や産学連携への展望

適切な海洋環境評価手法を考える

 当研究室では環境変動に対するプランクトン群集の遷移機構および生理的応答の解明を通して、「海の豊かさ」を守るための海洋利用のあるべき姿を考えています。常に変動する海洋生態系の変化を正確に評価する為には、適切なモニタリングの実施が不可欠です。当研究室では観測計画立案への助言や、分析技術指導や分析支援などを行うことで適切な海洋環境モニタリング推進に貢献することができます。また企業と協働することで新規海洋観測機器開発・改良に対する助言や、産学共同プロジェクトを通した予算獲得などについても経験を有しており、連携することが可能です。また研究室において120を超える多様な植物プランクトン単離培養株を維持管理しており、これらを用いた環境評価実験や新規実験立案・実施面からの連携も視野に入れています。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  海洋、生態系、環境変動、プランクトン、水産資源、地球温暖化
キーワード2  :  気候変動、食糧問題、地球温暖化、生物多様性喪失、水産資源変動