発表のポイント

◆酸化チタン型光触媒技術により、高病原性鳥インフルエンザウイルスを不活化できることを世界で初めて証明しました。
◆光触媒により、ウイルス膜の損傷やウイルスRNAの損傷、およびウイルス粒子表面のHAタンパク質等の分解が不活化の一因であることを初めて示しました。
◆酸化チタン型光触媒技術を用いたデバイスにより、エアロゾル中の季節性インフルエンザウイルスを不活化できることを世界で初めて証明しました。

光触媒によるインフルエンザウイルスの不活化

発表概要

 間特任教授を研究代表とする東京大学、カルテック株式会社、宮崎大学の3者からなる研究グループは、酸化チタン型光触媒が液体中の高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV) (注1)を不活化できること、および、エアロゾル中の季節性インフルエンザウイルスを不活化できることを「Catalysts」に発表しました。
 近年、高病原性鳥インフルエンザウイルスは非常に大きな被害がもたらしています。その感染経路は、主に野鳥や野生生物等の接触によるものであると考えられているが、飲用水の汚染や、粉塵およびエアロゾル等の空間中のウイルスを介した感染も疑われています。さらに、が人や牛にも感染することが報告されるなど、公衆衛生上の大きな問題となっています。このため、環境からのウイルスの除去が必要です。
 東京大学大学院農学生命科学研究科の間特任教授らは、光触媒技術(注2)の農学分野へ応用し、社会問題を解決するために、3cm角の酸化チタン型光触媒ガラスシートに高病原性鳥インフルエンザウイルスおよび季節性インフルエンザウイルスを滴下し、405nmの可視光で励起して反応させることで、液体中の高病原性鳥インフルエンザウイルスおよび季節性インフルエンザウイルスを1時間でそれぞれ、90.7%94.4%不活化できることを明らかとしました。また、その不活化メカニズムがウイルス膜の損傷やウイルスRNAの損傷、およびウイルス粒子表面のHAタンパク質等の分解であることを明らかとしました。さらに、実空間に応用するために、酸化チタン型光触媒技術を用いたデバイスにより、エアロゾル中の季節性インフルエンザウイルスを処理することで、5分間で80%の季節性インフルエンザウイルスが不活化されることが明らかとなりました。
 本研究において、世界で初めて、光触媒技術により、HPAIを不活化可能であることが実証された。また、同様に不活化されるWSNがエアロゾル中で不活化されたことから、光触媒がHPAIの空気を介した蔓延の防止に有効な可能性が示唆されました。

発表内容

 高病原性鳥インフルエンザウイルスは、1996年にH5N1型のウイルスに端を発しています。2005年から2019年にかけては、76か国の18,620戸の農家での発生が報告されています。また、2020年および2021年には世界中で3000件以上の発生が報告され、その結果として、1500万羽に及ぶ家禽が殺処分されています。我が国においても、2022年には、84事例が発生し、1771万羽が殺処分になるなど、大きな被害が出ています。加えて、近年では、H5N1型のウイルスが家禽だけでなく、ヒトや牛に感染をしたことが報告されるなど、公衆衛生上の大きな課題となっています。
 高病原性鳥インフルエンザウイルスの家禽への感染は、感染個体との直接的な接触や、感染個体から排泄された糞や羽を経口摂取することによって、起こると考えられています。そのため、鶏舎の中にウイルスを入れないことが重要です。我が国におけるHPAIに対する対策として、特に人・物・車両によるウイルスの持ち込み防止や野生動物対策が行われています。一方で粉塵等を介した空気中のウイルスからの感染の可能性を示唆する報告も複数あることから、これらの対策に加えて、空気中のウイルスの対策も今後重要になると考えらます。そのため、空気中の高病原性鳥インフルエンザウイルを不活化するための新しい対策方法が求められています。
 間特任教授らは、光触媒による高病原性鳥インフルエンザウイルスの不活化を明らかとするために、JIS規格に則り、10cmシャーレに湿らせたろ紙を置き、その上にプラスチックチューブで上げ底をし、その上にカバーガラスを乗せ、カバーガラスの上に3 cm各の酸化チタン型光触媒ガラスシートを乗せ、そこに1.0 × 106 TCID50 / mlの高病原性鳥インフルエンザウイルス(A/white-tailed eagle/Hokkaido/22-RU-WTE-2/2022 (H5N1 clade 2.3.4.4b))(北海道大学、磯田准教授および迫田教授より分与いただいた)と季節性インフルエンザウイルス(A/Wilson-Smith Neurotropic/1933 (H1N1, A/WSN/33))を1 ml滴下し、405nmの可視光で光触媒を1時間励起しました(図1①)。光触媒処理後、プラーク法を用いて、ウイルス力価を測定しました。その結果、高病原性鳥インフルエンザウイルスを90.7%、季節性インフルエンザウイルスを94.4%不活化できることを明らかとしました(図1②、③)。これらの結果から、高病原性鳥インフルエンザウイルスが確かに光触媒で、不活化されることを世界で初めて証明し、また、その不活化効率は、季節性インフルエンザウイルスと同様であることを明らかとしました。

1 酸化チタン型光触媒による溶液中のウイルスの不活化

10cmシャーレに湿らせたろ紙を置き、その上にプラスチックチューブで上げ底をし、その上にカバーガラスを乗せ、カバーガラスの上に酸化チタン型光触媒ガラスシートを乗せ、そこにウイルス液を1 ml滴下し、405nmの可視光で光触媒を励起し、溶液中のウイルスの不活化試験を行いました。②高病原性鳥インフルエンザウイルス、③季節性インフルエンザウイルスの各群の感染性はプラーク法によって測定し、結果を棒グラフに示しています。各群の間の有意性は、テューキー法を使用して決定しました。 アスタリスクは有意差を示します (*p < 0.05; ** p < 0.01; *** p < 0.001)

 さらに、光触媒による高病原性鳥インフルエンザウイルスの不活化メカニズムを明らかとするために、透過型電子顕微鏡によりウイルス粒子構造を観察し、RT-qPCR法によりウイルスRNA量を定量し、ウェスタンブロット法によりウイルスタンパク質(HA)を検出しました。その結果、透過型電子顕微鏡写真像から、光触媒未処理群では、ウイルス粒子表面上に、突起状のウイルスタンパク質(HAおよびNA)が観察されました(図2①)。一方で、光触媒処理群では、突起状構造は確認されず、またウイルスの粒子径が小さくなっていました(図2①)。このことから、光触媒によるウイルス粒子の形態変化が確認されました。特に、ウイルスの粒子径の変化は、脂質二重膜の損傷による浸透圧の変化が原因と考えられます。また、RT-qPCR法によりウイルスRNAのすべての分節(PB2,PB1,PA,HA,NP,NA,M,NEP)を検出した結果、NPを除くすべての分節で39%から65%のウイルスRNA量の減少が確認されました(図2②)。加えて、ウェスタンブロット法によって、HAタンパク質を検出した結果、透過型電子顕微鏡写真像において、光触媒処理群において、ウイルス表面上のウイルスタンパク質が失われていたように、光触媒処理群において、HAタンパク質のバンドが薄くなる傾向が確認されました(図2③)。これは、光触媒処理によって、ウイルスタンパク質が分解されている可能性を示唆します。これらの結果から、光触媒による高病原性鳥インフルエンザウイルスの不活化メカニズムが、ウイルス膜の損傷やウイルスRNAの損傷、およびウイルス粒子表面のHAタンパク質等の分解によるものであることが示されました。

2 光触媒による高病原性鳥インフルエンザウイルスの不活化メカニズム

①光触媒による高病原性鳥インフルエンザウイルスの不活化メカニズムを検証するために、光触媒で処理をした高病原性鳥インフルエンザウイルスの粒子構造を透過型電子顕微鏡で観察しました。スケールバーは100 nmを示します。②同様に、光触媒で処理をした高病原性鳥インフルエンザウイルスのウイルスRNAのすべての分節をRT-qPCRで測定しました。光触媒処理群と光触媒未処理群の間の有意性は、スチューデントのt検定を使用して決定しました。 アスタリスクは有意差を示します (*p < 0.05; ** p < 0.01; *** p < 0.001)。③光触媒で処理をした高病原性鳥インフルエンザウイルスのウイルスタンパク質(HA)は抗HA抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法で検出しました。ウェスタンブロットのバンドの強度はImageJソフトウェアを使用して分析し、結果を棒グラフに示しています。

 光触媒による溶液中の高病原性鳥インフルエンザウイルスの不活化は実証されましたが、実際の空間での使用に応用するために、エアロゾル中のウイルスの不活化を、代替ウイルスとして、季節性インフルエンザウイルスを用いて、検証しました。60Lのアクリルボックス中に、ネブライザーを用いて、2 × 108 PFU/mLの季節性インフルエンザウイルスを2ml噴霧し、光触媒を搭載したスポット型空気清浄機(KL-S01;カルテック社製)(図3①)を用いて、5分間処理し、その後、エアーサンプラーを用いて、ウイルスを回収しました(図3②)。回収したウイルスはプラーク法によって、力価を決定しました。その結果、光触媒処理群において、未処理群と比較して、80.1%の力価の減少が認められました(図3③)。この結果から、酸化チタン型光触媒技術を用いたデバイスにより、エアロゾル中の季節性インフルエンザウイルスを不活化できることを世界で初めて証明されました。また、光触媒は高病原性鳥インフルエンザウイルスを季節性インフルエンザウイルスと同様に不活化することから、光触媒によって、エアロゾル中の高病原性鳥インフルエンザウイルスも不活化されることが期待されます。

3 光触媒によるエアロゾル中の季節性インフルエンザウイルスの不活化

①本研究で使用した光触媒を搭載したスポット型空気清浄機(KL-S01;カルテック社製)の模式図を示します。②60Lのアクリルボックスにネブライザーを用いて、季節性インフルエンザウイルスを噴霧し、KL-S01を用いて処理し、エアーサンプラーで回収することで、エアロゾル中のウイルスの不活化試験を行いました。③季節性インフルエンザウイルスの各群の感染性はプラーク法によって測定し、結果を棒グラフに示しています。各群の間の有意性は、テューキー法を使用して決定しました。 アスタリスクは有意差を示します (*p < 0.05; ** p < 0.01; *** p < 0.001)

 光触媒反応は次亜塩素酸などの消毒薬のように人の生体への有害な作用がないことが知られています。加えて、空気清浄機に搭載することで、空気中のSARS-CoV-2をはじめとするウイルスを不活化できることが知られています(2021年5月21日に東京大学よりプレスリリース)。さらに、ウイルスだけでなく、細菌やアレルゲンにも有効であることが示されています(2022年8月30日に東京大学よりプレスリリース2023年8月28日に東京大学よりプレスリリース)。現在、ワンヘルスのコンセプトのもと、人と動物の間の人獣共通感染症の予防はますます重要になってきており、光触媒は生活環境の安全性を向上させる貴重なツールとなる可能性があります。

発表者

東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻
 松浦 遼介(特任准教授)
 永田 文宏(特任助教)
 福士 法子(特任研究員)
 松本 安喜(教授)
 間 陽子(特任教授)

宮崎大学農学部獣医学領域
 齊藤 暁(准教授)

カルテック株式会社
 福島 隆史(第1開発部 部長)
 藤本 和広(第2開発部 担当部長)
 幸崎 正登(要素技術開発統括部 統括部長)
 染井 潤一(代表取締役社長)

論文情報

雑誌 :Catalysts
題名:TiO2 photocatalyst inactivates Highly Pathogenic Avian Influenza Virus and H1N1 Seasonal Influenza Virus via Multi-antiviral effects
著者:Ryosuke Matsuura, Akatsuki Saito, Fumihiro Nagata, Noriko Fukushi, Yasunobu Matsumoto, Takashi Fukushima, Kazuhiro Fujimoto, Masato Kozaki, Junichi Somei, Yoko Aida*  *責任著者

用語解説

(注1)高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)
主に鳥類に感染するA型インフルエンザウイルスである鳥インフルエンザウイルスの中でも、特に病原性が強いウイルスが高病原性鳥インフルエンザウイルスです。人への感染事例も報告されており、人においても、重症化しやすいため、公衆衛生の点からも非常に重視されているウイルスです。

(注2)光触媒技術
光触媒とは光を照射することにより、触媒作用を示す物質の総称であり、特に代表的な光触媒活性物質として、本研究でも用いた酸化チタンが知られています。酸化チタンは光を吸収することで、強い酸化還元反応を示すことが知られており、本研究では、この酸化還元反応を利用して、インフルエンザウイルスを不活化しています。

問合せ先

〈研究に関する問合せ〉
東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻
特任教授 間 陽子(あいだ ようこ)
Tel:090-2314-5229
E-mail:yoko-aida[アット]g.ecc.u-tokyo.ac.jp

宮崎大学農学部獣医学領域
准教授 齊藤 暁(さいとう あかつき)
E-mail: sakatsuki[アット]miyazaki-u.ac.jp

〈報道に関する問合せ〉
東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
事務部 総務課総務チーム広報情報担当
Tel: 03-5841-5484
  Fax: 03-5841-5028
E-mail: koho.a[
アット]gs.mail.u-tokyo.ac.jp
※[アット]@に変えてください。

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