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東京大学

東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部

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研究成果 一覧

植物が干ばつに打ち勝つ力を引き出すしくみを発見 ――根と葉の機能を高めることで植物の乾燥ストレスを軽減――

発表のポイント

  • 気候変動により世界的な水不足が深刻化し、農地の干ばつリスクが高まり、農作物の収穫や人々の暮らしに影響を及ぼしています。
  • PATROL1遺伝子の機能を強化すると、水が限られた環境下でも根の成長と葉の光合成能力が向上し、植物の乾燥ストレスが軽減されることがわかりました。
  • この遺伝子はイネ、ダイズ、トマト、キャッサバ、バナナなど多くの作物にも存在しているので、PATROL1遺伝子を育種に活用することで、幅広い作物の乾燥ストレス耐性の向上が期待されます。

概要

 東京大学大学院農学生命科学研究科の勝濵直椰大学院生と矢守航准教授らは、水が限られた環境(乾燥ストレス)下でも植物の成長を維持するためには、根からの水や養分の吸収と葉での光合成活性を同時に高めることが重要であることを明らかにしました。
 これまで、葉における光合成の制御機構の一つとして、気孔を取りまく孔辺細胞に存在するタンパク質「H⁺-ATPase(注1)」のはたらきが知られており、その活性を制御する「PATROL1(注2)」というタンパク質が注目されてきました。PATROL1は根においても大量に存在していることが知られていたものの、その役割は不明でした。本研究グループは、PATROL1が根でもH⁺-ATPaseと結びつき、そのはたらきや位置を制御していることを明らかにしました。その結果、乾燥ストレス下では、PATROL1遺伝子の発現量を高めた植物は根の本数や長さが増加し、葉での光合成活性も高まり、地上部の乾燥重量や窒素含量が大きく向上しました。
 さらに、PATROL1遺伝子は実験で用いたシロイヌナズナ(注3)以外にも、イネ、ダイズ、トマト、キャッサバ、バナナなど多くの作物にも存在していることから、さまざまな作物の育種に応用できる可能性があります。今後、PATROL1を介して根と葉の機能を同時に高めることで、気候変動による異常気象下でも安定した作物生産が可能となる新たな育種戦略が期待されます。

発表内容:植物が干ばつに打ち勝つ力を引き出すしくみを発見

 気候変動の進行により、干ばつなどの異常気象が頻発するようになり、農業生産への影響が世界的に深刻化しています。特に、乾燥ストレスは作物の成長や収量を大きく制限する要因の一つであるため、将来の食料供給を安定させるためには、干ばつに強い植物の開発が急務となっています。
 植物が乾燥ストレスに適応するためには、土壌中の限られた水分や養分を効率よく吸収する「根」のはたらきと、植物の成長のための光合成を行う「葉」のはたらきの両方が重要です。これまでの研究では、葉における光合成活性の制御メカニズムに注目した成果が多く報告されてきましたが、根における乾燥応答の詳細な仕組みや、根と葉が連携して植物全体の耐性を高めるアプローチについては、十分に明らかにされていませんでした。
 東京大学大学院農学生命科学研究科の勝濵直椰大学院生と矢守航准教授らの研究グループは、植物の根と葉の両方に共通して働く「PATROL1(パトロールワン)」というタンパク質に注目し、このタンパク質が乾燥ストレス下で植物の成長を支える新たな仕組みを発見しました(図1)。
 この研究成果は、2025年5月21日付で国際学術誌『PNAS Nexus』に掲載されました。

 

■ 動物の神経細胞を制御するタンパク質に似た構造を持つPATROL1
 PATROL1はこれまで、植物の葉において気孔の開閉を調節し、光合成活性を制御していることが知られていましたが、根での機能については不明でした。人工知能AlphaFold2(注4)を用いてPATROL1の立体構造を予測すると、PATROL1は、動物の神経細胞でシナプス伝達に関わる「Munc13-1」というタンパク質とよく似た構造を持つことがわかります(図2)。Munc13-1は、神経伝達物質の放出に関わる器官を運搬することで知られており、これに似た構造を持つPATROL1も、植物細胞内で他のタンパク質の位置を調節している可能性が指摘されていました。

 

■ PATROL1は根に多く存在し、H⁺-ATPaseと結合する
 そこで、PATROL1遺伝子が実際に機能している箇所を詳細に調べたところ、根の細胞で特に高い活性が見られることが判明しました(図3a)。さらに、蛍光タンパク質で可視化すると、PATROL1タンパク質が根の細胞膜近くに存在している様子が観察されました(図3b)。このことから、PATROL1は根においても重要な機能を果たしていることが示唆されました。
 根では、H⁺-ATPase(プロトンポンプ)というタンパク質が水や養分の吸収に重要な役割を果たしています。そこで、研究グループは「共免疫沈降法(注5)」を用いて、PATROL1とH⁺-ATPaseとの結合能を調べたところ、実際に両者が結合していることが確認されました(図4)。つまり、PATROL1はH⁺-ATPaseの細胞膜への配置を制御し、その活性を間接的に調節している可能性が高いことが分かりました。

 

■ PATROL1の量が植物の乾燥ストレス耐性を左右する
 次に、PATROL1の機能が植物の乾燥耐性に与える影響を調べるため、研究グループはPATROL1遺伝子の活性を抑えたpatrol1欠損体(patrol1)と、過剰に発現させた株(PATROL1-OX)を作出し、オリジナルの野生型(WT)と比較しました(図5a)。乾燥ストレスを与えると、PATROL1-OXは根の長さや数が増加し、地中深くの水分を効率よく吸収していると考えられました。一方、patrol1欠損体では根の成長が著しく阻害されていました。
 さらに、乾燥ストレス下でのPATROL1タンパク質の動きを観察したところ、細胞膜上に集まる様子が見られ(図5b)、乾燥に応じてその位置が変化することがわかりました。共免疫沈降法によりPATORL1がH+-ATPaseとの結合能を有していることが明らかになっているため、ストレス処理に応じてPATROL1がH+-ATPaseの位置を制御している可能性が考えられます。
 乾燥ストレスを3週間与えた後の植物の様子を比較すると、PATROL1-OXは緑色の健康な葉を保っていたのに対し、patrol1では葉がしおれ、成長も大きく抑制されていました(図5c)。また、光合成の活性(Y(II))を調べたところ、PATROL1-OXは乾燥ストレス下でも高い値を維持しており(図5d)、最終的な乾燥重量も最も重くなっていました(図5e)。
 これらの結果から、PATROL1は乾燥ストレス下で植物の根と葉の両方でH⁺-ATPaseの位置やはたらきを調節し、それによって水分や栄養の吸収、気孔の開閉、光合成活性などを支えていると考えられます。すなわち、PATROL1は根と葉のはたらきを協調的に制御するタンパク質として、植物全体の乾燥ストレス耐性を高める上で中心的な役割を担っていることが明らかになりました(図6)。

■ 作物生産への応用と持続可能な農業への貢献
 PATROL1はモデル植物であるシロイヌナズナでの研究を通じて明らかになったタンパク質ですが、類似した遺伝子(オーソログ)がイネやダイズ、トマト、キャッサバ、バナナなどの幅広い作物にも存在していることが明らかになっています。今後、このタンパク質のはたらきを作物に応用することで、干ばつに強い品種の開発を通じて、水資源の少ない地域での食料の安定生産につながる可能性があります。
 気候変動により農業が直面する課題が増す中で、根と葉の両方に着目し、それらを制御する「鍵」となるタンパク質を見出した本研究は、持続可能な農業と食料安全保障の実現に向けた、重要な一歩となることが期待されます。


図1:PATROL1遺伝子の発現量を高めることで、乾燥ストレス下の植物の成長が強化される


図2:PATROL1タンパク質の構造と、動物の類似したタンパク質Munc13-1との構造の比較

(a) AlphaFold2を使って予測したPATROL1の構造。(b) PATROL1と動物の神経細胞に存在する「Munc13-1」タンパク質の構造の比較。PATROL1がMunc13-1タンパク質と、Munc13-1タンパク質の機能をつかさどる重要な部位(MUNドメイン)を共有していることがわかります。

 


図3:PATROL1の遺伝子とタンパク質の植物体内での発現と局在の可視化

(a) シロイヌナズナにおけるGUS染色の結果を示しています。PATROL1遺伝子が働いている部位が青色で示されています。(b) 根においてPATROL1タンパク質が存在している部位を示しています。緑色は蛍光タンパク質「GFP」で標識したPATROL1タンパク質、マゼンタは細胞壁をプロピジウムヨウ化物(PI)で染色したものです。


図4:根のPATROL1タンパク質とH+-ATPaseが結合している様子

「共免疫沈降法」を用いて、根のPATROL1タンパク質がH+-ATPaseと実際に結合することを明らかにしました。アスタリスク(**)はt検定によりP < 0.01の水準で有意差が認められたことを示しています。データは平均値 ± 標準誤差(SEM)で、n = 5です。


図5:乾燥ストレス下における野生型シロイヌナズナ(WT)、patrol1欠損体(patrol1)とPATROL1過剰発現体(PATROL1-OX)の成長量の比較

(a) patrol1はWTと比較してPATROL1遺伝子の機能が低下しており、PATROL1-OXではその機能が強化されています。乾燥ストレス下で、根の長さや本数がpatrol1, WT, PATROL1-OXの順に増加していることがわかります。(b) 細胞内のPATROL1タンパク質の位置を示しています。ストレス処理に応答して、PATROL1が上下の細胞膜上に集合していることがわかります。(c) 乾燥ストレス3週間後の生育の様子です。patrol1, WT, PATROL1-OXの順に植物の成長量が増加していることがわかります。(d) 「PAM蛍光法」という特殊なカメラを用いて光合成活性を可視化した画像です。乾燥ストレス下で、PATROL1-OXの光合成活性がpatrol1よりも高いことを示しています。(e) 乾燥ストレス3週間後の生育の地上部の乾燥重量が、PATROL1-OXにおいて大きく増加したことがわかります。異なるアルファベットはTukey-HSD検定によりP < 0.05の水準で有意差が認められたことを示しています。データは平均値 ± 標準誤差(SEM)で、n = 4–6です。


図6:PATROL1が乾燥ストレス下の植物の成長を支えるメカニズムの概要

PATROL1が根と葉それぞれにおいてH+-ATPaseの配置やはたらきを制御することでエネルギー(プロトン駆動力)を生み出し、根では栄養や水分の吸収を促進し、葉では光合成活性が高まっていることが明らかになりました。

発表者・研究者等情報

東京大学
大学院農学生命科学研究科
勝濵 直椰 博士課程
迫田 和馬 研究当時:博士研究員
矢守 航 准教授

大学院理学系研究科
木村 遼希 研究当時:博士課程
清水 優太朗 研究当時:博士研究員
寺島 一郎 東京大学名誉教授(現:国立中興大学(台湾))

大学院総合文化研究科
永田 賢司 助教
阿部 光知 教授

神戸大学 理学研究科
酒井 友希 特命講師

論文情報

雑誌名:PNAS Nexus
題 名:PATROL1-mediated H+-ATPase translocation boosts plant growth under drought by optimizing root and leaf functions
著者名:Naoya Katsuhama, Kazuma Sakoda, Haruki Kimura, Yutaro Shimizu, Yuuki Sakai, Kenji Nagata, Mitsutomo Abe, Ichiro Terashima, and Wataru Yamori*
DOI: https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgaf151

研究助成

 本研究は、科研費「国際共同研究強化(B)(課題番号:18KK0170)」、「基盤研究(B)(課題番号:21H02171)」、「学術変革領域研究(A)(課題番号:24H02277)」および「JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(課題番号:JPMJSP2108)」の支援により実施されました。

用語解説

(注1) H⁺-ATPase
 細胞膜に存在し、生命のエネルギー通貨であるATPを使ってH+(プロトン)を輸送するため、プロトンポンプとも呼ばれています。光合成に必要な気孔を開くためのエネルギー(プロトン駆動力)を作り出しています。他にも、プロトン駆動力を用いて様々な養分の輸送や細胞内外のpHの調整などを通じて植物の成長を促進する、オールラウンダーなタンパク質です。
(注2) PATROL1
 動物の神経細胞の機能を調整するタンパク質「Munc13-1」の仲間であるため、神経を持たない植物における役割は長らく不明でした。植物の葉においては、H⁺-ATPaseを細胞膜上に効果的に配置することでその機能を調整していることが、近年の研究から明らかになっていました。
(注3) シロイヌナズナ
 小型で成長が早く、全ゲノムが解読されているため、基礎生物学から農業応用まで幅広い研究に使われているモデル植物です。
(注4) AlphaFold2
 タンパク質のアミノ酸配列から立体構造を高精度で予測するAIシステムで、2024年にはこの功績により開発者がノーベル化学賞を受賞しました。
(注5) 共免疫沈降法
 細胞内で特定のタンパク質同士が結合しているかを調べる実験手法です。目的のタンパク質を抗体で捕まえることで、それと一緒に結合している他のタンパク質も検出できます。

問合せ先

(研究内容については発表者にお問合せください)
東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構
准教授 矢守 航(やもり わたる)
TEL: 070-6442-9511 E-mail: yamori[at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp

東京大学大学院総合文化研究科
教授 阿部 光知(あべ みつとも)
TEL: 03-5454-4337 E-mail: mabe[at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp

東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
事務部 総務課総務チーム 総務・広報情報担当(広報情報担当)
TEL: 03-5841-8179, 5484 FAX:03-5841-5028 E-mail: koho.a[at]gs.mail.u-tokyo.ac.jp

東京大学大学院総合文化研究科・教養学部
総務課広報・情報企画チーム
TEL: 03-5454-6306 E-mail: pro-www.c[at]gs.mail.u-tokyo.ac.jp

※上記の[at]は@に置き換えてください。

関連教員

矢守 航

森と川の季節的なつながりがアマゴの多様な生き方を育む

概要

 京都大学生態学研究センター 上田るい 研究員と、同センター 佐藤拓哉 准教授、三重大学大学院生物資源学研究科 金岩稔 准教授、ノースカロライナ⼤学グリーンズボロー校 照井慧 助教、東京大学大学院農学生命科学研究科 瀧本岳 准教授からなる研究グループは、初夏に森林から河川に昆虫などの陸生無脊椎動物が流入することによって、それらを川で餌として利用しているアマゴの生き方が多様になることを明らかにしました。本研究は、森や川といった生態系の季節的なつながりが、生物多様性の一つである種内の多様性維持に貢献することを実証する成果であると同時に、気候変動や人間活動が野生生物に及ぼす影響についても重要な知見をもたらすものです。
 本成果は、2025年5月18日に米国の国際学術誌「Ecology」にオンライン掲載されました。

写真:自動給餌機を用いた野外操作実験の様子、アマゴとその胃内容から得られた陸生昆虫

1.背景

 ある生物個体が生まれてから死ぬまでに経験する一連の過程を生活史と言います。野生生物の生活史は、一般的に成長・繁殖・生存などに特徴づけられ、生物種によって高成長・早熟・短命なものから、低成長・晩熟・長寿命なものまで、実に多様な生活史が見られます。こうした生活史の多様性は、しばしば同種の生物集団内でも見られ、集団の存続可能性や環境変動への適応可能性、さらには他種との関わり合いの強さにまで影響します。したがって、生活史の多様性が創出・維持される仕組みを明らかにすることは、野外で起こっている様々な生物現象を理解することにつながります。さらに、気候変動や人間活動によって世界規模で生物種内の多様性が失われている昨今においては、生物保全や自然管理にも重要な知見となるはずです。しかし、自然生態系のどのような要因が、生物集団内の生活史多様性の創出や維持に関連しているのかは明らかになっていませんでした。
 自然界では、森林-河川、海洋-島嶼など、様々な生態系が隣接しあっています。こうした生態系では、生物や生物遺骸、栄養塩類などが、生態系間の境界をまたいで季節的に流入することで(系外資源流)、受け手側の生態系の生物の重要な餌等になり、それらの生き方を変化させることが知られています。では、系外資源流は、生物集団内の生活史の多様性を高める要因になり得るのでしょうか?

 森林-河川生態系は、この疑問を解決する優れたモデル系と言えます。日本などの温帯地域では、森林から河川に流入する陸生無脊椎動物(以下、陸生動物)が、受け手となるサケ科魚類の重要な餌となり、それらの成長や繁殖開始年齢を変化させます。陸生動物が流入する季節は、河畔林の植生によって変化し、例えば落葉広葉樹に囲まれた河川では、春の展葉に伴って陸生動物の流入が増え、サケ科魚類の季節的な成長期間の初期(初夏)にそれらの成長を後押しします。一方で、針葉樹に覆われた河川では、サケ科魚類の成長期間の後半(初秋)に、展葉の影響を受けにくい地表徘徊性の陸生動物の流入量が増えます。また、伐採や植林など、過度な森林利用が見られる河川では、系外資源の流入量そのものが大きく減少することも知られています。では、陸生動物が初夏や初秋に流入したり、そもそも流入量が減ったりすると、サケ科魚類の生活史の多様性はどのように変化するのでしょうか?
 本研究では、サケ科魚類アマゴ(Oncorhynchus masou ishikawae)を対象に、森林から河川への陸生動物供給の季節性と量を人為的に操作する大規模な野外操作実験を実施し、以下の予測を検証しました(図1)。すなわち、初夏に系外資源を供給すると、初秋に供給される場合や、供給がない場合と比較して、より多くの個体が高成長になると予想されます(予測I)。また、これまで多くの生物種で見られたパターンから、高成長な個体ほど繁殖開始年齢が早くなる(早熟)と考えられます(予測II)。もし他生物では一般的な成長-生存のトレードオフ(高成長をとる個体ほど死亡率が高い)がアマゴにも働くなら、初夏の系外資源供給によって高成長を果たした個体は繁殖期まで生き残りにくく、1歳時の繁殖期における成熟個体の集団全体に占める割合は、他の供給条件の場合と比べて大きく増えないと予想されます(予測III-1・IV-1)。一方で、成長-生存のトレードオフが働かない場合、高成長かつ早熟な個体は繁殖期まで生き残り、1歳時の成熟個体が増えることから、集団全体での成熟・未成熟個体の割合は、初夏に系外資源が供給される場合に最も多様になると考えられます(予測III-2・IV-2)。

 

2.研究手法・成果

 野外操作実験は、2016-2017年にかけて、京都大学フィールド科学教育研究センター和歌山研究林内の自然河川において実施しました。実験処理として、陸生無脊椎動物を模したミールワームを6-8月に供給する「Early区間」、8-10月に供給する「Late区間」、供給を行わない「Control区間」の3処理区を3繰り返しずつ、計9区間(1区間当たり約120m)設けました。ミールワームの供給量は、天然林で自然にみられる陸生動物の河川への流入量を再現しました。実験開始時点で0歳にあたるアマゴ幼魚を対象に、個体識別用の蛍光標識をつけた個体を定期的に捕獲する調査を2年間継続し、個体の成長履歴と1歳時の繁殖期における成熟の有無によって、生活史を評価しました。
 データ解析においては、まず、個体差を明示的に扱う混合分布モデルという統計モデルを用いて、集団全体としていくつの成長パターンが含まれているのかを推定しました。その結果、高成長、低成長、およびそれらの中間的な成長軌跡をもつ3つの成長パターン(図2a)を含むモデルが最適モデルとして選択されました。Early区間では高成長をとる個体が優占していた一方で、Late区間やControl区間では中間的な成長をとる個体が優占していました(図2b)。この成長パターンは1歳時の成熟と強く関連しており、高成長パターンをとる個体は1歳で成熟する確率が非常に高くなっていました(図2c)。続いて、再捕獲率や調査区からの移出率を考慮して推定した、1歳繁殖期に至るまでの生存確率と、成長パターンとの関連性を評価しました。その結果、Control区間では高成長パターンの個体ほど死亡しやすいという、成長-生存のトレードオフ関係が見出されました(図3a)。その結果として、もともとそれほど多くはなかった高成長な個体は1歳繁殖期まで生存しにくく、中成長・低成長をとり晩熟な個体の方が生存しやすいことから、大部分の個体が1歳繁殖期に未成熟、すなわち、2歳以降に成熟するという生活史をもっていました(図3b)。これに対してEarly区間では、成長-生存トレードオフが不明瞭であり、高成長な個体が1歳繁殖期まで生存して成熟する割合が他の実験処理区よりも高くなることから、最終的に1歳成熟個体と2歳以降成熟個体の割合が集団内でおおよそ均等になっていました。これは、Early区間では生活史の多様性が最も高くなったことを意味しています。Late区間では、高成長な個体ほど死亡しにくいという関係が見られましたが、そもそもLate区間では高成長の個体が出現しにくく、多くの個体が中間的な成長をしたことから、Control区間同様、大部分の個体が2歳以降に成熟する生活史をもっていました。
 本研究は、「春の展葉とともに森で育った陸生動物が川に流入し、川に暮らす魚の季節的な成長を促進する」という、自然本来の森と川のつながりが、魚の多様な生き方の維持に貢献していることを大規模な野外操作実験で初めて実証したものです。自然生態系の多くは、本来、季節的に生じる系外資源流を介して他の生態系とつながっていることを考えると、本研究の成果は、野生生物の生き方の多様性が維持される仕組みの一つを紐解いたと言えます。

 

 

3.波及効果、今後の予定

 現在地球規模で進行している気候変動や人為的な環境改変は、系外資源流の季節性や量を変化させることで、それらを利用する生物の生活史多様性の喪失を引き起こす可能性があります。その場合、各生活史の個体数の減少を補い合う効果が働きにくくなるため、集団全体としての個体数の変動幅が大きくなり、極端な個体数減少に陥るリスクがあります。これはさらに、他の生物種との捕食-被食関係や競争関係を変化させることで、生物群集や生態系全体にも予期せぬ影響をもたらすかもしれません。森林-河川生態系においては、従来見られた落葉広葉樹林から針葉樹林への転換により、サケ科魚類をはじめとした生物集団内の多様な生活史が人知れず失われているかもしれず、本研究はそのような可能性に警鐘を鳴らすものです。今後の課題として、系外資源を介した生活史多様性の維持が、生物集団の長期的な存続や生物群集に及ぼす波及効果を評価したり、生活史多様性を維持し得る森林・河川管理の在り方を模索したりするなど、基礎、および応用研究の両方の枠組みにおける研究展開が期待されます。

4.研究プロジェクトについて

 本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 15H04422(研究代表:佐藤拓哉)の助成を受けて実施されました。

<研究者のコメント>

「野外操作実験にはじまりデータ解析に至るまで、到底一人では達成できない課題でしたが、所属研究室のメンバーや研究林の職員・共著者の方々のたゆまぬサポートのお陰で、生き物の多様な生き方が維持される仕組みの一端に迫ることができました。長い進化の歴史の中で、自然生態系がもつ季節の移ろいに応じて、多くの生き物は実に巧みに生き方を変化・多様化させてきました。急速に進む環境変動によって、本来あったはずの自然やそこに暮らす生き物の多様性が失われつつあることを、皆様の心にも留めておいて頂けると幸いです。」(上田るい)

「春の展葉が始まると、アマゴが森の虫を食べるようになる。毎年繰り返されるこの季節性を実感できる川では、アマゴの生き方の多様性が育まれやすいのだろうと思います。ライフイベントで戦線離脱することの多かった時期に、大規模な野外実験を継続してくださった大学院生や研究林スタッフの皆さんに感謝しています。」(佐藤拓哉)

論文タイトルと著者

タイトル:Seasonal timing of ecosystem linkage mediates life-history variation in a salmonid fish population
    (生態系の季節的なつながりがサケ科魚類個体群内の生活史変異を規定する)
著  者:Rui Ueda, Minoru Kanaiwa, Akira Terui, Gaku Takimoto, Takuya Sato
掲 載 誌:Ecology  
DOI:10.1002/ecy.70114

研究に関するお問い合わせ先

上田 るい(うえだ るい)
京都大学生態学研究センター 研究員
TEL:077-549-8200
E-mail:r.ueda[at]ecology.kyoto-u.ac.jp

報道に関するお問い合わせ先

京都大学広報室国際広報班
TEL:075-753-5729 FAX:075-753-2094
E-mail:comms[at]mail2.adm.kyoto-u.ac.jp

三重大学企画総務部総務チーム広報・渉外室
TEL:059-231-9794 FAX:059-231-9000
E-mail:koho[at]ab.mie-u.ac.jp

東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
事務部 総務課 広報情報担当
TEL: 03-5841-8179, 5484 FAX:03-5841-5028
E-mail:koho.a[at]gs.mail.u-tokyo.ac.jp

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関連教員

瀧本 岳

「レーザーの光で育てる未来の野菜」 ――赤色レーザーダイオードが拓く次世代植物工場の光戦略――

発表のポイント

◆ 植物の室内栽培においては、これまで主に発光ダイオード(以下、LED)が人工光源として利用されてきましたが、本研究ではその代替光源として赤色レーザーダイオード(以下、LD)に着目しました。
◆ LDは、葉の光合成効率、バイオマス量、葉面積といった複数の成長指標においてLEDを上回る効果を示し、タバコ、シロイヌナズナ、レタスの3種すべてで顕著な成長促進が確認されました。
◆ LDは極めて狭い波長域で照射可能であり、クロロフィルの吸収ピークと高い一致性をもつ光を供給できることから、光エネルギーの変換効率を最大化する高精度な栽培用光源として、植物工場や宇宙農業への応用が強く期待されます。

概要

 東京大学大学院農学生命科学研究科の矢守航准教授らの研究グループは、赤色レーザーダイオード(以下、LD)を光源とすることで、植物の光合成と成長を飛躍的に促進できることを、世界で初めて明確に示しました(図1)。
 これまでの植物栽培では、発光ダイオード(以下、LED)が人工光源として主流でしたが、LEDは広い波長帯域(半値幅: 20〜50 nm)で発光する一方、LDは波長帯が極めて狭く発光するという特性があります(半値幅: 1〜5 nm以下)。本研究では、LDの狭波長帯光を植物の主な光合成色素であるクロロフィルの吸収ピークに一致させることで、光合成における光エネルギー変換効率を最大化できることを実証しました。
 タバコ、シロイヌナズナ、レタスの3種を対象に行った比較実験では、いずれの植物においてもLD照射によって光合成効率および成長指標が大幅に向上しました。さらに、LED照射では24時間×12日間の連続照射により葉の黄化や光阻害が生じたのに対し、LD照射ではそれらのストレス症状はほとんど見られないことも明らかになりました。
 本研究成果は、植物工場や閉鎖型環境、さらには宇宙農業といった先端的な栽培システムにおける次世代型の光戦略に革新をもたらす可能性を示しています。今後は、青色など他波長のLDとの組み合わせや、より多様な作物への応用展開に向けた検証が期待されます。

発表内容:LEDを超える「次世代の光源」を世界で初めて実証

 近年、世界的に人口増加や都市化が急速に進んでおり、それに伴って都市部での食料生産のニーズも高まっています。加えて、気候変動による異常気象や自然災害の頻発が、従来型の農業にとって大きなリスクとなっています。
 こうした中、天候に左右されず、都市部でも省スペースで作物を栽培できる植物工場が注目を集めています。これらのシステムでは、太陽光の代わりに人工光によって植物を育てるため、「光の質と量の最適化」が植物の成長と生産性を大きく左右します。
 これまで、人工光源としてはLEDが主流でしたが、本研究では、より波長帯の狭いLDの可能性に注目しました(図2)。LEDとLDを比較することで、植物の光合成能力や成長にどのような違いが生まれるのかを検証しました。

 

■ 波長と光合成効率の関係:波長の「幅」が結果を左右する
 植物は、葉の中にあるクロロフィルという色素を使って、光のエネルギーを吸収し、光合成を行っています。光合成は二つの光化学系(光化学系IとII)によって駆動されます。赤色光(波長640〜680 nm前後)は、これらの二つの光化学系を活性化し、光合成を促進する重要な波長帯です。LEDとLDの違いは、「波長の中心(= 波長ピーク)」は似ていても、どの程度の幅の光が出ているか(= 波長幅)にあります(図2)。LEDはおおよそ50 nm程度の幅広い光を出すのに対し、LDは10 nm未満という非常に狭い帯域で光を出すことができます。
 実験では、さまざまな赤色LEDおよびLDをタバコの葉に照射し、光合成速度・気孔の開き方・水の利用効率などを測定しました(図3)。その結果、LD 660 nm光を当てた場合が最も光合成が活発で、同じ波長域のLED 664 nm光よりも約19%高い光合成速度が観察されました。
 これは、LD 660 nm光が、二つの光化学系をバランスよく活性化していたことが関係しています。

 

■ 同じピーク波長でも、LEDとLDで葉の反応はどう違う?
 見た目には同じような赤色の光でも、LD 660 nmとLED 664 nmとでは、光化学系IとIIの活性化バランスが異なり、植物はこの差を敏感に「感じる」ようです。次に、光合成の効率をクロロフィル蛍光法に基づいて詳細に解析しました。これは、植物の光合成システム(光化学系II)がどれくらいうまく働いているかを調べる方法です。
 その結果、LD 660 nm光で照射したタバコの葉は、LED 664 nm光で照射した葉に比べて、Y(Ⅱ)(光化学系IIの実効量子収率)が7.2%、qL(光化学反応が可能な光化学系II反応中心の割合)が18.3%高いことがわかりました(図4)。これは、LD 660 nm光の方が二つの光化学系をバランスよく活性化する「無駄のない光」であり、エネルギーを効率よく活用できることを意味しています。

 

■ 成長のスピードと質にも差が!LEDを超えるLDの力
 次に、植物全体の成長にどのような違いがあるかを確かめるため、タバコ、シロイヌナズナ、レタスの3種類の植物を12日間、24時間連続でLED 664 nm光またはLD 660 nm光で照射しました。結果として、LD 660 nm光で育てた植物の方が、乾燥重量・葉面積のいずれもLED 664 nm光より高い数値を示しました(図5)。たとえば、植物体の乾燥重量はタバコで1.75倍、シロイヌナズナで1.57倍、レタスで1.28倍、高い値を示しました。また、葉面積はそれぞれ2.10倍、2.28倍、1.70倍と大きくなっていました。また、葉の厚みを示すLMA(葉重量比)はLD 660 nm光の方が低く、より薄く、光を効率よく受け取る葉が形成されていました。さらに、LD 660 nm光照射では光によるダメージ(光阻害や黄化)が少なかったことから、LD 660 nm光照射ではストレス症状がほとんど見られないことも明らかになりました。これらの結果から、LD 660 nm光の方が二つの光化学系をバランスよく活性化することで、光合成を促進し、植物成長の促進につながると考えられます。

 

■ LDが切り拓く、持続可能な農業と宇宙での栽培
 LDは、農業用の光源や植物生理学実験の光源として、以下のような大きなメリットを持っています。

  • クロロフィルの吸収に最適な波長を高精度で出力できる
  • 光合成活性を最適化することで植物の生育を促進できる
  • 二つの光化学系をバランスよく活性化できる
  • 小型・軽量でエネルギー効率に優れる
  • 光ファイバーを用いた柔軟な照射配置が可能
  • 発熱が少なく、植物への熱ストレスが軽減される
  • 宇宙空間や閉鎖環境における植物の精密な栽培制御に応用できる

 

これらにより、LDは従来のLEDや高圧ナトリウム灯とは異なるレベルで、空間効率や栽培環境の自由度を高める「次世代型光源」として機能します。今後は、限られたスペースでの多段式植物工場、再生可能エネルギーと連動した自律型農業システム、さらには宇宙空間での栽培にも応用できると期待されています。特に、国際宇宙ステーション(ISS)や月面基地では、軽量で省電力、かつ波長を自在に制御できる光源が不可欠であり、LDはその最有力候補です。

 本研究は、これまで注目されてこなかったLDを植物栽培に本格的に応用し、その効果を初めて体系的に実証した研究です。今後は、青色など他波長のLDを組み合わせたマルチスペクトル照射や、トマトなど多様な作物への展開、長期間栽培における植物の応答などを調べながら、レーザーを活用した持続可能な農業の実現を目指していきます。


図1:植物成長を加速する赤色レーザー光源による新たな栽培技術


図2:発光ダイオード(LED)およびレーザーダイオード(LD)光源のスペクトル比較

植物の光合成性能を評価するために使用した、6種類の光源(LEDおよびLD)のスペクトルを示しています。破線はLED光源、実線はLD光源を表しています。LDは波長幅が狭く、クロロフィルの吸収特性により近いスペクトルであることがわかります。


図3:光源の違いによるタバコ葉の光合成性能への影響

タバコ葉において、異なる発光ダイオード(LED)およびレーザーダイオード(LD)を照射した際の光合成速度(A)、気孔コンダクタンス(B)、および水利用効率(C)の変化を示しています。各棒グラフ内の異なるアルファベットは、Tukey-KramerのHSD検定によりP < 0.05で有意差があることを示しています。データは平均値 ± 標準誤差(SE)で、n = 4です。


図4:発光ダイオード(LED)とレーザーダイオード(LD)の光合成機能比較

光量子束密度(PPFD)150 μmol m⁻² s⁻¹の条件下で、同一ピーク波長を持つLED(664 nm)およびLD(660 nm)を照射したタバコ葉における光合成の指標を示しています。光化学系IIの実効量子収率(Y(Ⅱ))(A)、非光化学消光(NPQ)(B)、および光化学反応が可能な光化学系II反応中心の割合(qL)(C)について測定しました。アスタリスク(*)はt検定によりP < 0.05の水準で有意差が認められたことを示しています。データは平均値 ± 標準誤差(SE)で、n = 4です。

 

図5:発光ダイオード(LED)とレーザーダイオード(LD)が植物成長に与える影響の比較

光量子束密度(PPFD)150 μmol m⁻² s⁻¹の条件下で、赤色LED(664 nm)および赤色LD(660 nm)を12日間連続照射した後の、タバコ・シロイヌナズナ・レタスの成長の違いを示しています。Aは、各植物の代表的な生育の様子を示した写真です。Bは、地上部乾燥重量、葉面積、および葉面積あたり乾燥重量(LMA)の比較結果を示しています。***はP < 0.001、**は0.001 < P < 0.01、*は0.01 < P < 0.05の水準で有意差があることを表しており、いずれもt検定に基づいています。データは平均値 ± 標準誤差(SE)で、n = 4です。

発表者・研究者等情報

東京大学
 大学院農学生命科学研究科
  Lie Li 博士課程
  矢守 航 准教授

 大学院理学系研究科
  寺島 一郎 東京大学名誉教授(現、国立中興大学(台湾))

論文情報

雑誌名:Frontiers in Plant Science
題 名:High-Precision Lighting for Plants: Monochromatic Red Laser Diodes Outperform LEDs in Photosynthesis and Plant Growth
著者名:Lie Li, Ryusei Sugita, Kampei Yamaguchi, Hiroyuki Togawa, Ichiro Terashima, Wataru Yamori*
DOI: 10.3389/fpls.2025.1589279
URL: https://www.frontiersin.org/journals/plant-science/articles/10.3389/fpls.2025.1589279/abstract

研究助成

本研究は、日本学術振興会科研費「基盤研究(B)(課題番号:21H02171)」、学術変革領域研究(A)「細胞質ゲノム制御(課題番号:24H02277)」の支援により実施されました。

問合せ先

(研究内容については発表者にお問合せください)

東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構
准教授 矢守 航(やもり わたる)
TEL:070-6442-9511
E-mail:yamori[at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp

東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
事務部 総務課総務チーム 総務・広報情報担当(広報情報担当)
TEL:03-5841-8179, 5484       FAX:03-5841-5028
E-mail:koho.a[at]gs.mail.u-tokyo.ac.jp

※上記の[at]は@に置き換えてください。

関連教員

矢守 航

食物アレルギーの病型鑑別に有用な尿中脂質代謝物排泄パターンの発見 ~非侵襲的バイオマーカーによる診断の可能性~

発表のポイント

  • 食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)は、IgE抗体を介さない特殊な腸管型アレルギーであり、診断のためのバイオマーカーが存在しない。
  • IgE依存性食物アレルギー(IgE-FA)では、肥満細胞由来のプロスタグランジンD₂(PGD₂)代謝物であるPGDMが尿中に有意に増加することが明らかになっている。
  • 本研究では、尿中プロスタグランジン代謝物濃度の比較が、IgE-FAとFPIESの鑑別診断に応用できることを明らかにした。

発表内容

 食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES: Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome)(注1)は、主に乳児期に発症するIgE非依存性の食物アレルギーであり、原因食物の摂取数時間後に激しい嘔吐を呈する。典型的な蕁麻疹や即時型反応を伴わないため、診断が困難であり、症状がIgE依存性アレルギー(注2)と類似していても、根本的な病態が異なる点が臨床上の課題となっている。現在、FPIESに特異的な診断マーカーは存在せず、正確な診断には食物経口負荷試験(OFC)(注3)に依存しているのが現状である。

 一方で、IgE依存性食物アレルギー(IgE-FA)では、肥満細胞の活性化によりプロスタグランジンD₂(PGD₂)が大量に産生され、その尿中代謝物PGDMが有意に上昇することを我々は報告してきた。本研究では、PGDMとPGE₂代謝物であるPGEM、PGF₂α代謝物であるPGFMの排泄比率が、FPIES とIgE-FAの病態の違いを反映する指標となる可能性について検討した。

 OFC前後に採取した尿をLC-MS/MSで解析した結果、IgE-FA群ではPGDMが著明に上昇し、PGDM/PGEMおよびPGDM/PGFM比も高値を示した。一方、FPIES群ではPGDMの顕著な上昇は認められず、むしろPGE₂およびPGF₂α代謝物の増加が観察された。これらの知見は、FPIESの病態における肥満細胞の関与が乏しく、IgE-FAとは異なる脂質代謝経路が関与していることを示唆している。

 FPIES群で濃度上昇したPGEMの基質、PGE₂は、IL-17サイトカイン群と関連する炎症反応に関与しており、FPIESの症状である嘔吐や浮腫、血圧低下の機序に関連する可能性が考えられる。実際に、PGE₂は、FPIESの発症に関与が示唆されているセロトニンとは異なる経路で嘔吐を引き起こすことが報告されており、本研究結果はFPIESの病態解明に新たな視点を提供するものである。

 本研究は、小児にも適用可能な尿検査による非侵襲的な鑑別診断の実現に向けた第一歩となる成果であり、将来的には臨床応用や病型分類に貢献することが期待される。

発表者

永田 奈々恵(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用動物科学専攻・放射線動物科学研究室・特任講師)
村田 幸久(東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻・獣医薬理学研究室 准教授)

共同研究者

梅沢 洸太郎(国立成育医療研究センター アレルギーセンター)
樺島 重憲(国立成育医療研究センター アレルギーセンター)
犬塚 祐介(浜松医科大学医学部付属病院 小児科)
小笠原 久子(国立成育医療研究センター アレルギーセンター)
島田 真実(国立成育医療研究センター アレルギーセンター)
濱口 冴香(国立成育医療研究センター アレルギーセンター)
夏目 統(浜松医科大学医学部付属病院 小児科)
福家 辰樹(国立成育医療研究センター アレルギーセンター)
下澤 達雄(国際医療福祉大学 医科学研究科)
大矢 幸弘(名古屋市立大学 医薬学総合研究院・国立成育医療研究センター アレルギーセンター)
山本 貴和子(国立成育医療研究センター アレルギーセンター)

発表雑誌

掲載誌: Allergy
論文題名: Urinary Prostaglandin Metabolites as Potential Biomarkers for Differentiating IgE-Mediated Food Allergy and Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome
著者: Kotaro Umesawa, Nanae Nagata, Shigenori Kabashima, Yusuke Inuzuka, Hisako Ogasawara, Mami Shimada, Sayaka Hamaguchi, Osamu Natsume, Tatsuki Fukuie, Tatsuo Shimosawa, Yukihiro Ohya, Takahisa Murata, Kiwako Yamamoto-Hanada
DOI: [後日付与予定]

用語解説

注1)食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)
 原因食物摂取の数時間後に、繰り返す嘔吐や下痢などを引き起こす食物アレルギー。
注2)IgE依存性食物アレルギー
 原因食物に対する特異的 IgE が関与して、じんましんなどの症状を起こす食物アレルギー。
注3) 食物経口負荷試験(OFC)
 食物アレルギーの診断のために行われる検査。少量から段階的に原因食物を摂取し、アレルギー反応の有無を医師が観察する。

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医薬理学研究室/放射線動物科学研究室/食と動物のシステム科学研究室

准教授 村田 幸久
Tel: 03-5841-7247 / 03-5841-5394
Fax: 03-5841-8183
E-mail: amurata<アット>g.ecc.u-tokyo.ac.jp(<アット>を@に変えてください)


関連教員

村田 幸久

種子でのタンパク質の大量輸送の仕組みはどのようにして誕生したのか ――膜交通タンパク質の段階的な機能変化が示す進化の足跡――

 ダイズに代表されるように、種子植物は細胞内の液胞と呼ばれる細胞小器官に大量のタンパク質を貯蔵し、それがヒトや家畜の主要なタンパク源になっています。このような液胞の機能は植物以外にはありません。植物は大量のタンパク質を液胞に輸送する仕組みを、進化の過程で独自に獲得してきたのです。では、他の生物にはないこの独自の物質輸送経路は、どのようにして誕生したのでしょうか。
 東京大学大学院 農学生命科学研究科の藤本優准教授、基礎生物学研究所 細胞動態研究部門の海老根一生助教(研究当時/現 埼玉大学)、金澤建彦助教、南野尚紀特任助教(研究当時/現 福岡大学)、上田貴志教授(責任著者)、理化学研究所 光量子工学研究センターの清水優太朗大学院リサーチ・アソシエイト(研究当時/現 ボルドー大学)と中野明彦副センター長(研究当時/現 東京科学大学)、お茶の水女子大学 ヒューマンライフサイエンス研究所の伊藤容子特任助教と基幹研究院の植村知博教授、立命館大学 生命科学部の深尾陽一朗教授による共同研究グループは、植物独自の液胞への物質輸送経路が、VAMP7という膜どうしの融合を司るタンパク質に生じた段階的な機能変化によって開拓された過程を明らかにしました。
 具体的には、植物の進化の過程でVAMP7に起きたアミノ酸挿入配列の出現とその配列の酸性化、さらに、それに伴う積み荷選別タンパク質複合体AP-4との結合能の獲得とその強化が、種子植物に特有の液胞輸送経路の成立を導く鍵となったことを突き止めました。
 本研究は、細胞内の物質輸送システムを例として、植物が独自の細胞機能を発達させてきた過程を分子レベルで示したもので、その成果は2025年5月13日付けで米国の国際学術誌「Current Biology」に掲載されました。

研究の背景

 真核細胞では、小胞や小管を介した物質輸送システム「膜交通(メンブレントラフィック)」により、様々な細胞小器官の間で物質のやり取りを行っています。このシステムを機能させるための基本要素はすべての真核生物に共通して備わっていますが、そこから派生する輸送経路やその調節のしくみは、植物や動物、酵母といった、それぞれの生物の系統で独自の進化を遂げてきました。
 「液胞」は植物細胞を特徴付ける細胞小器官であり、物質の貯蔵や分解、空間充填、細胞の恒常性維持などの植物の生存や成長に不可欠な役割を果たしています。膜交通システムに関する植物の特徴として、液胞への輸送経路が多様化し、複雑なネットワークを形成していることが挙げられます。このネットワーク中を行き来する小胞には、VAMP7と呼ばれる膜交通タンパク質が積み込まれており、これが小胞とその輸送先の細胞小器官との間の膜融合を実行しています。
 植物のVAMP7にはVAMP71とVAMP72という二種類のタイプがあり、基本的に、VAMP71は液胞での膜融合で、VAMP72は細胞膜への輸送経路(以下、分泌経路)でそれぞれ機能することが分かっています。上田教授らの研究グループではこれらに加え、シロイヌナズナをはじめとした種子植物にVAMP727という液胞への輸送経路(以下、液胞輸送経路)で機能する特殊なVAMP72が存在していることを突き止めていました。このVAMP727は、N末端側のロンジンドメインという領域に、他のVAMP72にはない、約20アミノ酸からなる酸性アミノ酸に富んだ配列が挿入されているという特徴を持ちます(図1)。
 このVAMP727が機能する輸送経路については、種子貯蔵タンパク質の液胞への大量輸送に極めて重要であることが判明しています。しかし、VAMP727やそれに依存する液胞輸送経路が、植物の進化の過程で、いつどのようにして生まれたのか、そしてその背後にどのような分子メカニズムの変化があったのか、という点は不明でした。


図1 植物におけるVAMP72の構造変化と液胞輸送経路の進化モデル

 

研究の成果

 研究グループは本研究において、VAMP727に特有の酸性アミノ酸に富んだ挿入配列(以下、酸性挿入配列)が、液胞輸送経路において積み荷の選別を担うAP-4複合体との結合に必要であることを明らかにしました。さらに、この配列の起源が、陸上植物とそれに最も近縁な生物とされる接合藻類との共通祖先においてVAMP72遺伝子に生じた選択的スプライシングにあることを明らかにしました。AP-4複合体との結合を通じて、もともと分泌経路で機能していたVAMP72が、液胞輸送経路でも機能するようになり、この変化こそが、種子植物におけるVAMP727の誕生と、新たな液胞輸送経路の成立を導いた決定的な要因であったと考えられます。本研究の詳しい内容は以下の通りです。

VAMP727に特有の酸性挿入配列の機能
 VAMP727はロンジンドメインの酸性挿入配列の有無以外は、分泌経路で働く通常のVAMP72と極めて似通った構造を持ちます。このことから、酸性挿入配列が入ることにより、VAMP727の機能が分泌経路から液胞輸送経路へと転換したのではないかと考えました。そこで、この酸性挿入配列の機能を検証するために、その有無や酸性度の違いがVAMP727の局在や機能に与える影響を解析しました。その結果、配列を欠失もしくは酸性度を低下させると、VAMP727はエンドソーム(液胞輸送経路の中継点)からトランスゴルジネットワーク(液胞輸送経路と分泌経路の分岐点)へと局在を変え、さらに液胞膜における膜融合活性が弱まる一方、細胞膜における膜融合活性が強まることが分かりました(図2)。これにより、酸性挿入配列はVAMP727が液胞輸送経路で機能するために不可欠であり、この配列の欠失は通常のVAMP72への機能の先祖返りを引き起こすことが示されました。


図2 酸性挿入配列の変化がVAMP727の局在や機能に与える影響

左図は、シロイヌナズナの根の細胞において、酸性挿入配列を改変したVAMP727の細胞内局在を、エンドソームやトランスゴルジネットワークの蛍光マーカーと比較した結果を示しています。右図は、各改変型VAMP727の膜融合活性、すなわち、液胞膜の膜融合因子SYP22および細胞膜の膜融合因子SYP121との結合量を比較した結果で、バンドの濃さがそれぞれの結合量を示しています。酸性挿入配列の酸性度を低下させたり、配列自体を欠失させたりすると、VAMP727のエンドソームへの局在や液胞膜での膜融合活性は低下する一方で、トランスゴルジネットワークへの局在や細胞膜での膜融合活性は上昇しました。各スケールバーは5 µmを示しています。

 

酸性挿入配列を介したAP-4複合体との結合とその機能的意義
 次に、VAMP727の酸性挿入配列の機能をより詳しく解明するため、シロイヌナズナを用いてVAMP727と結合するタンパク質を探索し、その結合と酸性挿入配列との関連を調べました。その結果、トランスゴルジネットワークにおいて液胞方向へ向かう輸送小胞への積み荷の積み込みを担うAP-4複合体がVAMP727と結合することが分かりました。この結合は、酸性挿入配列の酸性度を低下させると弱まり、配列を欠失させると消失することから、VAMP727の酸性挿入配列がAP-4複合体との結合に不可欠であることが示されました。さらに、AP-4の機能を失ったシロイヌナズナ変異体では、VAMP727が通常のVAMP72と同様にトランスゴルジネットワークに局在するようになり、液胞膜での膜融合活性が低下する一方で、細胞膜での活性が増加することが明らかとなりました。さらに、トランスゴルジネットワークでのVAMP727の輸送過程を超解像ライブイメージング顕微鏡(SCLIM)を用いて観察した結果、AP-4複合体がトランスゴルジネットワークにおいてVAMP727をエンドソームへと輸送するのに必要であることが確認されました(図3)。これらの結果から、VAMP727が液胞輸送経路で適切に機能するためにはAP-4の働きが必須であり、進化の過程で酸性挿入配列を獲得したことで、VAMP727が液胞輸送経路における新たな機能を獲得したことが明らかになりました。


図3 AP-4複合体の機能が失われることによって生じるVAMP727の細胞内局在の変化

超解像ライブイメージング顕微鏡(SCLIM)を用いて、VAMP727の細胞内局在をエンドソームおよびトランスゴルジネットワークの蛍光マーカーと、詳しく比較した画像を示しています。上段は野生型シロイヌナズナ、下段はAP-4複合体の機能が失われた変異体の根の細胞の画像です。AP-4の機能が失われることにより、VAMP727の局在がエンドソームからトランスゴルジネットワークへと変化することが分かりました。各スケールバーは1 µmを示しています。

 

酸性挿入配列はどこから来たのか?
 酸性挿入配列がどのように生じたのかを解明するために、様々な植物からVAMP727と類似したVAMP72の配列を収集し、それらを比較しました。その結果、酸性度の高い挿入配列を持つVAMP727とよく似た分子は被子植物のみに認められました。一方で、意外なことに酸性度が低く短めの配列が挿入されたタイプのものが、裸子植物やコケ植物のゼニゴケ、さらに陸上植物の姉妹系統である接合藻の一部に見つかりました(図4)。そこでゼニゴケのVAMP72をさらに詳しく調べたところ、挿入配列の有無だけが異なる二つのVAMP72が存在しており、これらがひとつの遺伝子からの選択的スプライシングにより生じることが判明しました。このことにより、酸性挿入配列の起源が、陸上植物と接合藻の共通祖先で初めておこった選択的スプライシングにあることが示されました。


図4 VAMP72に生じた挿入配列の進化とその特徴

図の左側には、緑藻類から被子植物までの主要な植物系統を示した系統樹を、右側には、それぞれの系統に存在するVAMP727やそれに近縁のVAMP72の挿入配列付近のアミノ酸配列を示しています。

 

VAMP72の段階的な新機能化とその分子メカニズム
 もともと分泌経路で機能していたVAMP72が、液胞輸送経路で機能するようになった過程を推定するため、緑藻から被子植物にいたる様々な植物のVAMP727やVAMP72の配列や機能を詳細に比較しました。その結果、挿入配列を持たない祖先型なタイプは分泌経路で、酸性度の高い挿入配列を持つタイプは液胞輸送経路で機能していることが分かりました。一方、酸性度が低くやや短めの配列を持つ中間型(ゼニゴケやシトカトウヒのスプライシングバリアントなど)は、両者の中間的な性質を示しました。
 シロイヌナズナVAMP727を始めとする酸性挿入配列には、AP-4複合体などのクラスリンアダプターと直接結合する「チロシンモチーフ」や「酸性ジロイシンモチーフ」が含まれており、VAMP72の機能転換において重要な役割を果たしたと考えられます。一方、短めの挿入配列を持つ中間型VAMP72には「チロシンモチーフ」は含まれますが、「酸性ジロイシンモチーフ」はありませんでした(図4)。これらの結果から、VAMP72はまずチロシンモチーフを含む挿入配列を獲得することで部分的な機能転換がおこり、それが酸性化するとともに酸性ジロイシンモチーフが生じることでAP-4複合体との結合が強化され、液胞輸送経路で機能するVAMP727へと進化した可能性が示唆されます。このVAMP727の二段階の機能転換を経て、植物に新たな液胞輸送経路が誕生し、これにより液胞へのタンパク質の大量輸送が可能になったと考えられるのです。

今後の展望

 今回の研究では、種子植物のVAMP727に特有の酸性挿入配列の機能と進化的起源を解明することを通じ、既存の膜交通タンパク質VAMP72に生じた段階的な機能転換が、新たな液胞輸送経路を開拓する原動力となったことが示されました。
 本研究で得られた知見は、将来的には有用物質の貯蔵や効率的生産、植物のストレス耐性の向上などを可能にする、膜交通経路の制御技術の確立に向けた基盤となるものと期待されます。

発表雑誌

雑誌名 Current Biology
掲載日 2025年5月13日
論文タイトル: Neofunctionalization of VAMP7 opened up a plant-unique vacuolar transport pathway
著者: Masaru Fujimoto, Yutaro Shimizu, Yoko Ito, Kazuo Ebine, Naoki Minamino, Takehiko Kanazawa, Yoichiro Fukao, Akihiko Nakano, Tomohiro Uemura, Takashi Ueda
DOI:https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.04.062

研究グループ

 本研究は、基礎生物学研究所 細胞動態研究部門、東京大学大学院 農学生命科学研究科、理化学研究所 光量子工学研究センター、お茶の水女子大学 基幹研究院及びヒューマンライフサイエンス研究所、立命館大学 生命科学部が参加した共同研究チームにより実施されました。

研究サポート

 本研究は、科学研究費助成事業(19H05670, 19H05675, 21H02515, 24K02050, 23KF0078, 21K06222, 17H05019, 24H00509, 22K19327, 22H02643, 10J08869, JP21J00910)、生命創成探究センター(ExCELLS)特別共同研究プログラム(No. 23-S3 and 24-S2)、三菱財団、山田科学振興財団、および、旭硝子財団の支援を受けて行われました。

本研究に関するお問い合わせ先

基礎生物学研究所 細胞動態研究部門
教授 上田貴志
TEL: 0564-55-7530
E-mail: tueda[at]nibb.ac.jp

報道担当

基礎生物学研究所 広報室
TEL: 0564-55-7628
FAX: 0564-55-7597
E-mail: press[at]nibb.ac.jp

東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
総務課総務チーム 総務・広報情報担当(広報情報担当)
TEL: 03-5841-8179、5484
E-mail: koho.a[at]gs.mail.u-tokyo.ac.jp

お茶の水女子大学 広報・ダイバーシティ推進課
TEL: 03-5978-5105
FAX: 03-5978-5545
E-mail: info[at]cc.ocha.ac.jp

立命館大学 総合企画部広報課
TEL: 075-813-8300
FAX: 075-813-8147
E-mail: r-koho[at]st.ritsumei.ac.jp

※上記の[at]は@に置き換えてください。

関連教員

藤本 優

犬の膀胱がんの診断に役立つ新たな手がかり ― 尿に含まれる脂質からがんの状態を見分ける ―

発表のポイント

  • 犬の膀胱がん(正式には尿路上皮がん)は進行が早く、転移もしやすいため、早期に見つけて経過を追える新しい検査方法が求められています。
  • 私たちは、犬の尿に含まれる脂質の種類や量を詳しく調べることで、がんの特徴を明らかにできることを示しました。
  • 特にBRAF遺伝子の変異や一般的に使用される治療薬(NSAIDs)の服用が脂質の産生パターンに大きく関わっていることを突き止めました。

発表内容

 犬の膀胱がん(尿路上皮がん:canine urothelial carcinoma)は、転移性が高く、手術適応が限られる悪性腫瘍である。犬の膀胱がんでは抗炎症薬として用いられるシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害薬(NSAIDs)が有効であることや、BRAF遺伝子の変異(BRAFV595E)が高頻度に認められるという特徴があるが、その病態メカニズムの多くは未解明であった。

 本研究では、尿路上皮がんと診断された犬38例(うちNSAIDs未投与26例)および健常犬12例の尿を対象に、質量分析装置(LC-MS/MS)を用いて網羅的に生理活性脂質の濃度を測定した。その結果、尿路上皮がんに罹患した犬の尿中ではPGE₂やTXB₂、LTE₄、HETEをはじめとする多数の生理活性脂質の濃度が有意に増加し、15-keto-PGE₂などの一部の生理活性脂質の濃度は減少していた。これは、過去に報告されている腫瘍組織中の脂質代謝酵素の発現パターンであるCOX-2の発現上昇や15-PGDHの発現低下と一致しており、犬の膀胱がんでPGE₂などの腫瘍促進性の生理活性脂質が蓄積していることが示唆された。

 さらに、BRAFV595E変異を有する犬では、COXだけでなく、リポキシゲナーゼ(LOX)やシトクロムP450(CYP)といった様々な代謝経路で産生される生理活性脂質の量が増加傾向を示した。また、NSAIDsを服用している犬では、意外にもPGE₂等の産生は抑制されていなかったが、LOX経路やCYP経路の生理活性脂質の産生量が増加しており、これらの経路への代謝のシフト(シャント)**が示唆された。

 以上の結果から、犬の膀胱がんにおける尿中脂質プロファイルは診断マーカーや治療応答のモニタリング指標となり得るとともに、BRAF変異をもつがんに対する脂質代謝標的治療の可能性が示された。犬を用いた自然発症モデルは、ヒトのBRAF変異を有するがん研究にも応用可能性が高い。

発表者

林 亜佳音(東京大学大学院農学生命科学研究科・応用動物科学専攻・放射線動物科学研究室・特任研究員)
前田 真吾(東京大学大学院農学生命科学研究科・獣医学専攻・臨床病理学研究室・准教授)
山﨑 愛理沙(東京大学大学院農学生命科学研究科・応用動物科学専攻・放射線動物科学研究室・大学院生:研究当時)
中村 達朗(東京大学大学院農学生命科学研究科・応用動物科学専攻・放射線動物科学研究室・特任講師:研究当時)
後藤 裕子(東京大学附属動物医療センター・特任准教授)
米澤 智洋(東京大学大学院農学生命科学研究科・獣医学専攻・臨床病理学研究室・准教授)
小林 幸司(東京大学大学院農学生命科学研究科・食と動物のシステム科学研究室・特任講師)
村田 幸久(東京大学大学院農学生命科学研究科・獣医学専攻・獣医薬理学研究室・准教授)

発表雑誌

掲載誌: The Veterinary Journal
論文題名: Urinary lipid production in dogs with urothelial carcinoma
DOI:10.1016/j.tvjl.2025.106373
HP:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1090023325000772

用語解説

  • cUC(犬の尿路上皮がん): 犬の膀胱にできる悪性腫瘍で、ヒトの膀胱がんにも似た性質を持つ。
  • 生理活性脂質: 体内の炎症やがんの進行に深く関わる、脂肪酸(アラキドン酸など)由来の化学物質。プロスタグランジンなどが含まれる。
  • BRAFV595E変異: がんの進行を早める遺伝子変異の一つで、ヒトのがんで見られる遺伝子変異BRAFV600Eと非常によく似た特徴を持つ。
  • NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬): 解熱鎮痛剤としても広く使われている薬。炎症や腫瘍の進行に関わる酵素COXの働きを抑えることで効果を発揮する。
  • COX(シクロオキシゲナーゼ): 炎症やがんの進行に関わるプロスタグランジンを作り出す酵素。NSAIDsはこのCOXの働きを抑えることで作用する。
  • LOX(リポキシゲナーゼ): 白血球などの免疫細胞が主に持つ酵素で、ロイコトリエンやHETEなどの炎症性脂質を作る。がんやアレルギーに関与する。
  • CYP(シトクロムP450): 肝臓などで働く解毒酵素の一種で、脂質を酸化してエポキシドやDHETなどの物質に変える。がんや血圧の調節にも影響を与える。

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科
獣医薬理学研究室・放射線動物科学研究室
准教授 村田 幸久
Tel: 03-5841-7247 / Fax: 03-5841-8183
E-mail: amurata<アット>g.ecc.u-tokyo.ac.jp(<アット>を@に)


図1:研究概略図



図2:膀胱がんに罹患した犬の尿では、PGE2やTXB2の濃度が増加し、15-keto-PGE2の濃度が減少していた

関連教員

前田 真吾
後藤 裕子
米澤 智洋
小林 幸司
村田 幸久

ヒトの高感度な匂い知覚に関わる嗅粘液中因子の発見 ――細胞外マトリクス糖タンパク質のフィブロネクチンが 嗅覚受容体の匂い応答を促進――

発表のポイント

◆嗅上皮を覆う粘液中の細胞外マトリクス糖タンパク質であるフィブロネクチンが、これまで大きな謎とされていた高感度な嗅覚のメカニズムの一端を担っていることがわかりました。
◆疎水性の匂い物質が、フィブロネクチンの周りに効率良く集積することによって、嗅覚受容体の応答が促進することを見出しました。
◆フィブロネクチンは、嗅覚の感度を調節する因子として、生体模倣型匂いセンサー開発や嗅覚障害治療へ向けて産業・臨床応用が期待されます。


本研究で明らかになったフィブロネクチンの嗅覚感度上昇における役割

概要

 東京大学大学院農学生命科学研究科の東原和成教授の研究グループは、大学院医学系研究科の近藤健二教授、味の素株式会社の伊地知千織氏(Group Executive Specialist)と共同で、ヒトの嗅粘液(注1)中の細胞外マトリクス糖タンパク質、フィブロネクチン(FN,注2)が、嗅覚受容体(OR,注3)の匂い物質への応答を促進することを見出しました。
 動物は極めて高感度な嗅覚能力を持つものの、OR自体の感度は比較的低いため、嗅覚感度を調節する因子の存在が示唆されていましたが、実体は不明でした。本研究では、ヒトORを発現した培養細胞及びマウス嗅上皮を用いて、嗅粘液中のFNが匂い物質を効率よく集積して、受容体の匂い応答を促進させることを示し、FNが嗅覚の高感度メカニズムに関わっていることを明らかにしました。さらに、ヒト嗅粘液中のFN濃度は、健常者と比較して特発性嗅覚障害患者で有意に低いことがわかりました。
 これらの結果は、嗅覚の感度を調節する因子としてのFNの新たな役割を示すとともに、生体模倣型匂いセンサー、嗅覚障害治療薬開発への応用の可能性を示すものです。

発表内容

 嗅覚は、空気中に存在する低濃度の匂い物質を、高感度で感知する感覚システムです。鼻腔に取り込まれた匂い物質は、嗅上皮を覆う嗅粘液に溶け込み、嗅神経細胞(注4)の繊毛上の嗅覚受容体(OR)に結合し、細胞内cAMP(注5)産生を通じて電気信号を引き起こします。これまで、空気中のpptからppbレベルの低濃度の匂い物質が、uMオーダーの感度しか持たないORをどうやって活性化できるか謎でした。示唆的なこととして、嗅粘液分泌障害による嗅覚感度低下が報告されており、嗅粘液に感度を調節する細胞外因子が存在するのではと考えられていました。しかし、嗅神経細胞の匂い応答を模するアッセイ系がなかったこともあり、嗅粘液の存在によって嗅覚感度が向上する直接的な証拠や活性因子同定の報告もありませんでした。

 研究グループは、まず培養細胞でのOR応答測定系として、cAMP応答ダイナミクスを時空間解析できるイメージング技術を開発しました。この技術を用いて、嗅粘液のOR応答への影響を調べたところ、ヒト嗅粘液添加により匂い応答強度が有意に増加しました。そこで、この効果を指標に、タンパク質の分析データを参照しつつ、嗅粘液から精製を行ったところ、嗅粘液中に多く存在する高分子マトリクス糖タンパク質であるフィブロネクチン(FN)が活性因子として同定されました。 

匂い物質は比較的疎水性の揮発性分子で、その構造は多様です。様々な匂い物質で、FNの匂い応答増強効果によって匂いに対する感度が改善するか探るため、11組の匂い物質-ORペア(注6)に対するFNの効果を調べました。その結果、10組のペアで、匂い応答増強に伴って感度の上昇(EC50(注7)の減少率が大きい)が見られ、その程度はペアによって異なっていました。同じORでも匂い物質が異なると効果の程度が異なり、一方で、同じ匂い物質では、ORが異なっても効果の程度が同じでした。つまり、FNはORではなく匂い物質に作用することが示唆されました。さらに、匂い物質の疎水性が高いほど、より大きな感度の上昇効果が見られました。

 次にFNの効果のメカニズムを解明するため、FNの存在/非存在下において、OR発現細胞に添加した自家蛍光性匂い物質の挙動を可視化しました。その結果、FN添加に伴い細胞近傍の匂い物質の蛍光が増加し、OR応答の増強も同時に起きることがわかりました。以上の結果は、FNが匂い物質を局所的に集積させて濃度を増加させる結果、匂い応答増強効果が見られることを示しています。

 次に、より生体に近い系でのFNの効果を調べるため、マウス嗅上皮から、嗅神経細胞で生じる匂いに対する電気的な応答を記録しました。嗅上皮から嗅粘膜を部分的に除去すると匂い応答が減少しましたが、そこにFNを添加すると匂い応答が部分的に回復しました。以上の結果は、嗅上皮上の嗅粘液において、FNが匂い応答の増強効果に関わっていることを示しています。

 さらに、ヒトの嗅覚障害におけるFNの関与に注目し、特発性嗅覚障害患者と健常者を対象に嗅粘液中のFN濃度を測定しました。その結果、患者のFNレベルは健常者群よりも有意に低いことが判明しました。ヒトの嗅覚で匂い知覚にFNが関与している可能性を示唆しています。

 本研究により、高感度に匂いを受容する嗅覚メカニズムに、嗅粘液中のFNが重要な役割を果たしていることが明らかになりました。この知見は、バイオハイブリッド型嗅覚センサーの感度向上や嗅覚障害の治療の基盤となる可能性があり、今後の匂いセンサー技術開発や嗅覚障害の臨床応用に貢献することが期待されます。

発表者・研究者等情報

東京大学
大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻
 ステラ チャプマン 特任研究員
 伊原 さよ子    助教
 佐藤 幸治     特任准教授
 東原 和成     教授

大学院医学系研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学
 近藤 健二     教授

論文情報

雑誌名: Science Advances
題 名:Fibronectin in the olfactory mucus increases sensitivity of olfactory receptor response to odorants
著者名: Stella Chapman, Kenji Kondo, Sayoko Ihara, Chiori Ijichi, Koji Sato*, Kazushige Touhara*
DOI: 10.1126/sciadv.adu7271
URL: https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adu7271

研究助成

本研究は、文部科学省「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」(課題番号:JPMXS0120330644)、科研費 特別推進研究(課題番号:23H05410)、基盤研究A(課題番号:23H00244)、基盤研究B(課題番号:19H02531)の支援により実施されました。

用語解説

(注1)嗅粘液
 鼻腔の奥の上部にある、匂いを感じる嗅上皮粘膜組織を覆う粘液。
(注2)フィブロネクチン
 様々な細胞で合成、分泌され、細胞が接着する足場となるための高分子マトリクス糖タンパク質。生体では多種多様な役割を担うと考えられており、特に、怪我などで傷ついた細胞組織の修復など、治癒に大きな役割を持つ。
(注3)嗅覚受容体
 主に嗅神経細胞の繊毛に局在して、匂い物質を感知する受容体タンパク質。7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体ファミリーに属していて、ヒトでおよそ400種類存在する。匂い分子が嗅覚受容体と結合すると、共役したGタンパク質の働きにより、細胞内でcAMPが産生され、嗅神経細胞の電気的興奮をもたらす。
(注4)嗅神経細胞
 腔の奥の上部にある嗅上皮の中にある神経細胞で、匂い物質のシグナルを脳に伝達する抹消神経。神経の先端部分に匂いを感じる繊毛と呼ばれる微細な毛状構造をもつ。また他の神経細胞と違い、損傷しても嗅上皮内部の幹細胞から再生する特徴がある。
(注5)cAMP
 アデニル酸シクラーゼという酵素の働きで、ATPから作られる物質。細胞内シグナル伝達分子としての役目を持ち、細胞の電気信号や遺伝子発現など、様々な細胞応答の調節に関与する。
(注6)匂い物質-嗅覚受容体(OR)ペア
 多くの匂い物質は、複数の嗅覚受容体(OR)を活性化し、また各ORは複数の匂い物質によって活性化され、匂い物質とORの間には、多対多の関係が成り立っている。
(注7)EC50
 匂い物質が応答する受容体に対して最大応答の50%を引き起こすための濃度を指す。

問合せ先

(研究内容については発表者にお問合せください)
東京大学大学院農学生命科学研究科
 教授 東原 和成(とうはら かずしげ)
 Tel:03-5841-5109 E-mail:ktouhara[at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp

東京大学大学院農学生命科学研究科
 特任准教授 佐藤 幸治(さとう こうじ)
 Tel:03-5841-5113 E-mail:satok[at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp

東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
 事務部 総務課総務チーム 広報情報担当
 Tel: 03-5841-8179, 5484  FAX:03-5841-5028
 E-mail: koho.a[at]gs.mail.u-tokyo.ac.jp

※上記の[at]は@に置き換えてください。

関連教員

東原 和成
伊原 さよ子

ATP依存型ジアゾ化酵素の構造と触媒メカニズムを解明 ――実験科学×計算科学で反応機構を提唱――

発表のポイント

◆ATPを利用して、アミノ基のジアゾ化反応を触媒するジアゾ化酵素CmaA6の立体構造を解明しました。
◆生化学的実験と計算化学的解析から、CmaA6が逐次反応によってジアゾ化反応を触媒することを明らかにしました。
◆本研究の知見を用いることで、ジアゾ化酵素の基質認識を制御することが可能になると期待されます。

概要

 過去数年の研究において、亜硝酸とアミノ基を縮合することでジアゾ基を合成するジアゾ化酵素が複数報告されています。しかし、その詳細な反応機構は未だ解明されていませんでした。東京大学大学院農学生命科学研究科・応用生命工学専攻の勝山陽平准教授・寺田透教授・大西康夫教授らの研究グループは、亜硝酸を用いて3-アミノクマル酸 (3-ACA) のジアゾ化を触媒するATP依存型ジアゾ化酵素CmaA6の触媒機構の解明に取り組みました。まず、X線結晶構造解析とクライオ電子顕微鏡単粒子解析によって、CmaA6の基質非結合状態とAMP結合状態の立体構造を解明しました。一方、反応速度論解析から、CmaA6は3つの基質(亜硝酸、ATP、3-ACA)が同時に反応ポケットに結合する逐次反応機構でジアゾ化を触媒することが示唆されました。また、計算科学的解析により、亜硝酸と3-ACAの結合部位および3-ACAが反応ポケットに入るためのトンネルが予想され、部位特異的変異導入実験によってその妥当性が確認されました。

発表内容

 微生物は構造や生物活性の多様性に富む様々な種類の天然物を生産します。このような天然物に見られる特徴的な官能基の合成に関与する生合成酵素の発見や触媒機構の解明に向けた研究が、これまで盛んに行われてきました。その中でも、ジアゾ基 (注1) 等の窒素-窒素 (N-N) 結合を形成する酵素の探索や機能解析は近年大きな関心を集めています。
 東京大学大学院農学生命科学研究科・応用生命工学専攻の勝山陽平准教授・大西康夫教授らの研究グループは、これまでクレメオマイシン、アラゾペプチン、アベナルミ酸といった放線菌(注2) が生産する複数の天然物の生合成研究を実施しました。その過程で、亜硝酸をアミノ基に縮合させることでジアゾ基を合成する生合成システムが放線菌において普遍的に存在することを明らかにしました。さらに、この反応を触媒する酵素も複数発見しました。しかし、亜硝酸を用いたジアゾ化酵素の詳細な触媒機構は謎のままでした。
 そこで、同研究グループは以前に発見した3-アミノクマル酸 (3-ACA) のジアゾ化を触媒するATP依存型ジアゾ化酵素CmaA6に着目しました。CmaA6は、ATPを用いて活性化させた亜硝酸を3-ACAのアミノ基に縮合させることでジアゾ化し、3-ジアゾクマル酸 (3-DCA) を合成する反応を触媒することがわかっていますが (図1 A)、3つの基質 (3-ACA、亜硝酸、ATP) の認識機構や詳細な触媒機構は未知でした。本研究では、CmaA6の立体構造を基に、実験科学と計算科学を組み合わせることで、ジアゾ化酵素の触媒メカニズムの解明を目指しました。
 まず、同研究グループはCmaA6の立体構造解析に取り組みました。X線結晶構造解析 (注3) から、基質非結合型の構造 (図1 B) とAMP結合型の構造 (図1 C) を取得しました。また、クライオ電子顕微鏡単粒子解析法 (注4) によっても基質非結合型の構造を取得しました (図1 D)。
 次に、CmaA6の3つの基質に対する包括的な反応速度論解析を行いました。その結果、CmaA6が属するANLスーパーファミリーの他の酵素とは異なり、CmaA6は3つの基質が酵素ポケット内に結合した後に反応が進行する「逐次反応」という触媒機構を有していることが明らかになりました (図2)。そのため、CmaA6はANLスーパーファミリーの他の酵素と異なる基質結合様式を有していると予想しました。
 次に、CmaA6の立体構造を精査することで、亜硝酸の認識を担うと考えられる3残基 (ヒスチジン, フェニルアラニン, リジン) を見出しました (図3 A)。さらに、3-ACAの結合サイトをドッキングシミュレーションとMDシミュレーションにより検証しました。その結果、CmaA6ではANLスーパーファミリーの他の酵素と異なる位置のポケットに3-ACAを収容することが示唆されました。また、3-ACAの認識を担うと考えられる3残基 (グルタミン、アルギニン、アスパラギン) も見出されました (図3 B)。これらのアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換したCmaA6の組換えタンパク質をそれぞれ調製し、酵素活性を調べたところ、上述の基質認識機構が正しいことが示唆されました。さらに、計算科学的手法により、3-ACAが基質ポケットに侵入するための新たなトンネルも見出しました。これらは、ANLスーパーファミリーに属する酵素の反応機構の常識とは異なる結果であり、ジアゾ化酵素特有のものであると考えられます。
 以上のように、X線結晶構造解析とクライオ電子顕微鏡単粒子解析という2つの手法によって、ジアゾ化酵素 (CmaA6) の立体構造を世界に先駆けて解明しました。さらに、反応速度論解析や変異酵素の活性解析といった実験科学と各種計算科学的な手法を組み合わせることで、CmaA6の触媒機構の一端を明らかにしました。本研究は、ジアゾ基を始めとするN-N結合を有する天然物の生合成機構と酵素学に関する極めて重要な知見を与えるものであり、今後、ジアゾ基を種々の化合物に酵素的に導入する技術的基盤になると考えられます。

図1:CmaA6が触媒する反応 (A) と、本研究で得られたCmaA6の立体構造 (B – D)。



図2:CmaA6が触媒する反応の模式図。3つの基質が酵素ポケットに結合してから反応が進行し、3つの生成物が放出される。



図3:X線結晶構造解析より得られた構造から予想される亜硝酸の結合位置 (A) と、
ドッキングシミュレーションとMDシミュレーションから推定された3-ACAの結合位置 (B)。

参考文献

  1. Sugai et al. Nat. Chem. Biol., 12(2), 73-75.
  2. Kawai et al. Angew. Chem. Int. Ed., 60(18), 10319-10325
  3. Kawai et al. Angew. Chem. Int. Ed., 61(45), e202211728

 

発表者・研究者等情報

東京大学大学院農学生命科学科学研究科 応用生命工学専攻
 川合 誠司 日本学術振興会特別研究-PD (当時)
 唐澤 昌之 特任研究員
 寺田 透 教授
 勝山 陽平 准教授
 大西 康夫 教授

 

東京科学大学 総合研究院 難治疾患研究所
 森脇 由隆 准教授

論文情報

雑誌名: Angewandte Chemie International Edition
題 名: Structural Basis for the Catalytic Mechanism of ATP-Dependent Diazotase CmaA6
著者名: Seiji Kawai, Masayuki Karasawa, Yoshitaka Moriwaki, Tohru Terada, Yohei Katsuyama *, Yasuo Ohnishi
DOI: 10.1002/anie.202505851
URL: https://doi.org/10.1002/anie.202505851

研究助成

本研究は、科研費「19H04645、19H05685、22H05130、22H05126、22KJ1046」、JSPS A3フォーサイト事業、生命科学・創薬研究支援基盤事業 (AMED)、プロアクティブ環境学国際卓越大学院の支援により実施されました。

用語解説

(注1)ジアゾ基
 窒素原子2つからなる官能基(=N+=N-)です。反応性が高く、さまざまな反応の足場として有機化学合成に用いられることで有名です。
(注2) 放線菌
 主に土壌中に生息する、グラム陽性細菌の一群のことを指します。原核生物としては高度な形態分化を示すほか、ゲノムDNAのGC含量が高いという特徴を示します。また、抗生物質や抗がん剤として用いられている多くの天然物の生産を担うことで知られています。
(注3) X線結晶構造解析
 タンパク質の結晶にX線を照射し、その回折像から得られる電子密度を基にタンパク質の立体構造を明らかにする手法です。
(注4) クライオ電子顕微鏡単粒子解析法
 タンパク質の試料を極低温で凍結させ、電子顕微鏡で多数のタンパク質粒子を撮影し、画像処理によってタンパク質の立体構造を明らかにする手法です。2017年ノーベル化学賞を受賞した技術です。

問合せ先

(研究内容については発表者にお問合せください)

東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命工学専攻 醗酵学研究室
 准教授 勝山 陽平(かつやま ようへい)
 Tel:03-5841-5124 E-mail:aykatsuhko[at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp

※上記の[at]は@に置き換えてください。

関連教員

寺田 透
勝山 陽平
大西 康夫

世界のメタン収支 2000–2020 ――グローバル・カーボン・プロジェクトの最新成果――

発表のポイント

◆国際研究プロジェクト「グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)」は、温室効果ガスであるメタン(CH4)の全ての発生源と吸収源を詳細に網羅した世界のCH4収支「世界のメタン(CH4)収支2025」を公表しました。
◆世界で実施されている観測とモデル研究の成果を統合し、大気中のCH4濃度が2022年までに産業革命前の約2.6倍である1912ppbに達し、その主要な原因が農業・畜産、化石燃料採掘、廃棄物処理に伴う排出量の増加であることを明らかにしました。
◆CH4は温室効果ガスであるとともに大気汚染にも関与しており、人為排出量の削減が強く望まれていますが、本研究は最新のCH4収支を明らかにすることで、効果的な対策立案への科学的基礎を与えています。

発表内容

 東京大学大学院農学生命科学研究科の伊藤昭彦教授らによる研究グループ(合計69名)は、強力な温室効果ガスであるとともに大気汚染にも関与するため注目されているメタン(CH4)の、放出と吸収・消滅の全体像(図1)を明らかにする統合解析を実施しました。国際研究プロジェクト「グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)」による、世界の温室効果ガスにおける排出と吸収・消滅の状況を把握する研究活動の一環です。
 今回の報告では、大気中のCH4濃度の観測と大気化学輸送モデルによるシミュレーション、社会経済的な統計データの分析、地表でのCH4排出・吸収の観測データと物質循環モデルによるシミュレーションなどの結果が吟味されました。それら最新の科学的データを分析することで、近年の大気中CH4濃度上昇の主な原因となる排出源や地域を明らかにし、今後の気候変動政策に貢献することが期待されます。

図1:世界のメタン(CH4)収支、2010–2019年の結果(出典:Global Methane Budget 2000–2020のFigure 7を改変)

 大気中のCH4濃度は、世界各地で行われた観測結果を平均すると、2022年時点で1912 ppb(ppb = 気体の10億分の1)に達しており、産業革命前の濃度水準と比較して約2.6倍に増加していました。2020-2021年には顕著に高い濃度上昇速度が観測されており、その原因は新型コロナ感染症の蔓延時期に起こった人為排出の変化や、熱帯域での自然起源排出増加にあると考えられました。
 最近10年間(2010-2019年)の総CH4排出量は、大気観測に基づく推計法では年間約575 Tg(Tg [テラグラム] = 1012 g)と推定され、地表排出を積み上げる推計法では年間約669 Tgと推定されました。2020年に発表された前回の解析から、排出源別推定の見直し作業を行ってきましたが、まだ2つの手法でギャップが残されており、特に湿原や湖沼・河川などの内陸水面からの排出量に不確実性が残っていることが明らかになりました。
 総排出量のうち約65%(年間約360 Tg)が人間活動によるもので、そのうちの6割程度は農畜産業(アジア地域の水田を含む)および廃棄物処理、3割程度が石炭や天然ガスなどの化石燃料採掘に伴う排出でした。これらの人為排出量は、2000年代から2020年の間に年間40〜60 Tg程度増加しており、大気中CH4濃度上昇の主要な原因となっていました。
 近年の大気中CH4濃度の増加は、対策をほとんど実施しない場合の予測に近いトレンドを辿っていることが示されました。つまり、国際社会が掲げたCH4削減目標とは大きく離れた状況となっており、更なる排出削減努力が必要であるという結論になりました。本研究は、実効性のある対策の実施に科学的基礎を与える意義があり、今後も観測やモデルの精度を向上させるための研究開発を進める必要があります。

発表者・研究者等情

東京大学 大学院農学生命科学研究科
 伊藤 昭彦 教授

論文情報

雑誌名:Earth System Science Data
題 名:Global Methane Budget 2000–2020
著者名: Saunois, M.*, Martinez, A., Poulter, B., Zhang, Z., Raymond, P. A., Regnier, P., Canadell, J. G., Jackson, R. B., Patra, P. K., Bousquet, P., Ciais, P., Dlugokencky, E. J., Lan, X., Allen, G. H., Bastviken, D., Beerling, D. J., Belikov, D. A., Blake, D. R., Castaldi, S., Crippa, M., Deemer, B. R., Dennison, F., Etiope, G., Gedney, N., Höglund-Isaksson, L., Holgerson, M. A., Hopcroft, P. O., Hugelius, G., Ito, A., Jain, A. K., Janardanan, R., Johnson, M. S., Kleinen, T., Krummel, P. B., Lauerwald, R., Li, T., Liu, X., McDonald, K. C., Melton, J. R., Mühle, J., Müller, J., Murguia-Flores, F., Niwa, Y., Noce, S., Pan, S., Parker, R. J., Peng, C., Ramonet, M., Riley, W. J., Rocher-Ros, G., Rosentreter, J. A., Sasakawa, M., Segers, A., Smith, S. J., Stanley, E. H., Thanwerdas, J., Tian, H., Tsuruta, A., Tubiello, F. N., Weber, T. S., van der Werf, G. R., Worthy, D. E. J., Xi, Y., Yoshida, Y., Zhang, W., Zheng, B., Zhu, Q., Zhu, Q., and Zhuang, Q.
DOI: 10.5194/essd-17-1873-2025
URL: https://essd.copernicus.org/articles/17/1873/2025/

問合せ先

(研究内容については発表者にお問合せください)
東京大学大学院農学生命科学研究科
 教授 伊藤 昭彦(いとう あきひこ)
 Tel:03-5841-5211 E-mail:akihikoito[at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp
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関連教員

伊藤 昭彦

ザンビアにおけるリーシュマニア原虫感染状況

発表のポイント

  • ◆寄生虫の一種であるリーシュマニアの感染は、ヒトおよびイヌに重篤な健康被害をもたらします。
  • ◆アフリカ・ザンビア共和国では、過去数十年間にわたりリーシュマニア症の報告がありませんでした。
  • ◆今回、イヌにおける抗体保有調査を行った結果、ザンビアにおいてリーシュマニア感染が高率であることが明らかになりました。

  • 概要

     寄生虫性疾患であるリーシュマニア症(注1)は世界広くに蔓延する人獣共通感染症です。原虫種の一つであるLeishmania infantumは、地中海沿岸や南米の国々において、ヒトとイヌの両方に致死的な疾患をもたらすことが報告されています。一方、南部アフリカ諸国ではリーシュマニア症の報告がほとんどありませんでした。そこで、私たちは未報告国の一つであるザンビア共和国において、イヌにおけるリーシュマニア原虫感染状況を把握するための調査を行いました。その結果、一部の地域では高率でリーシュマニア原虫感染がおきていることが明らかになりました。今回確認された感染陽性率は、他の浸淫地域における陽性率と比較しても同等もしくはより高いものであり、ザンビアにおけるリーシュマニア原虫感染の重要性を示唆しています。

    発表内容

     リーシュマニア症(注1)は、寄生虫の一種であるリーシュマニア原虫の感染によっておこる人獣共通感染症です。世界保健機関によると、本疾患は98の国や地域で確認されており、世界に広く蔓延する疾患である一方、南部アフリカ諸国ではリーシュマニア症の報告がほとんどありませんでした(図1)。しかしながら、マラリアや結核など他の感染症の発生状況などから鑑みると、これら地域でリーシュマニア症の報告がないことは、実際に疾患が存在しないのではなく、調査不足に起因して疾患が認知されていない可能性がありました。未報告国の一つであるザンビア共和国においても、リーシュマニア症の報告は文献で確認出来る限りヒトにおいて1973年と1976年の2件、イヌにおいて1997年の1件に限られており、長く本症の存在は確認されていませんでした。

    図1.リーシュマニア症の発生状況

    世界保健機関の報告によると、リーシュマニア症は98の国や地域で確認されている一方、南部アフリカには報告がない国が多く見られる。他の感染症の発生状況などから鑑みると、これら地域で報告がないことは、十分な調査の不足に起因する可能性が考えられる。

     しかしながら、2021年に南部州においてリーシュマニア症の疑いがあるイヌが見られ、私たちの解析を通して本症例が原虫種Leishmania infantumによるイヌリーシュマニア症であることが確認されました(図2)。L. infantumは、地中海沿岸や南米の国々においてヒトとイヌの両方に致死的な疾患をもたらす原虫種であり、本イヌ症例の発見は、公衆衛生や動物福祉の両面から問題を提起するものでした。

    図2.2021年に確認されたリーシュマニア症イヌ個体

    (A, B)皮膚症状に加えて、爪の異常伸長や目の異常が確認された。(C)リンパ節生検試料のギムザ染色によりリーシュマニア原虫が確認された。(Squarre et al., Emerg Infect Dis, 2022, 28(4):888-890. より引用、一部改変)

     そこで東京大学および北海道大学、ならびにザンビアの各種研究・行政機関による合同チームは、主に日本医療研究開発機構(AMED)による支援を受けて、ザンビアにてヒトとイヌにおけるリーシュマニア症の実態把握ならびに新規診断技術の開発を目指すプロジェクトを立ち上げました。そのプロジェクトの一つとして、ザンビアでは初となる血清学的検査(注2)によるイヌの大規模解析を行いました。首都ルサカならびに南部州の都市リビングストンにある5つの地域で採取されたサンプルの解析を行ったところ、複数の地域において陽性個体が確認され、陽性率は最も高いところで17%でした(図3)。この陽性率は、本症の浸淫が確認されている地中海沿岸や南米の国々における陽性率と比較しても同等かより高いものであり、2021年に発見されたイヌ感染症例がその地域に限局したものではなく、ザンビアにおいて広くリーシュマニア原虫の伝播がおこっていることを示唆するものとなりました。続いて、最も高い陽性率が確認された地域において、陽性個体の1年後生存状況を追跡調査したところ、陽性群は陰性群と比較して高い死亡率が確認されました(相対リスク:7.9)。この結果は、ザンビアにおいてリーシュマニア原虫の感染が実際にイヌの健康状態に悪影響を与えることを示唆しています。

    図3.ザンビア・イヌにおける血清学的診断による陽性率

    ルサカならびにリビングストンにある5つの地域で採取されたサンプルの解析を行ったところ、複数の地域において陽性個体が確認され、陽性率は最も高いところで17%だった。

     本研究を通して、ザンビアにおけるリーシュマニア原虫感染の蔓延について初めて明らかにすることができました。前述のとおり、ザンビアでは人獣共通感染症を引き起こす原虫種であるL. infantum が確認されていることから、本研究で確認されたイヌでの高い陽性率は、その地域に住む人々への感染・発症リスクを強く示唆します。今後は、ヒトにおける感染状況の実態把握を進めながら、ザンビアの医学・獣医学セクターにまたがる様々なステークホルダーと協力して、リーシュマニア症の対策を進めていく予定です。また、リーシュマニア症の報告が限定的なザンビアの近隣諸国においても、同様にリーシュマニア原虫の感染が広くおこっている可能性があります。例えば、リビングストンは国境に接する都市ですが、隣国ジンバブエにおいてもリーシュマニア症の報告はありません。ザンビアにおいて得られた知見を近隣諸国と共有しながら、近隣諸国での実態把握に繋げていくことも重要であると考えられます。

    発表者・研究者等情報

    林田 京子(北海道大学 人獣共通感染症国際共同研究所 准教授)
    杉 達紀 (北海道大学 人獣共通感染症国際共同研究所 助教)
    山岸 潤也(北海道大学 人獣共通感染症国際共同研究所 教授)
    三條場 千寿(東京大学 大学院農学生命科学研究科 応用動物科学専攻 准教授)
    後藤 康之(東京大学 大学院農学生命科学研究科 応用動物科学専攻 教授)
    ほか研究チーム構成員

    論文情報

    雑誌名: Parasitology International
    題 名:A high prevalence of dogs seropositive to Leishmania in Zambia
    著者名:Chambaro HM, Hayashida K, Moonga LC, Shawa M, Muleya W, Chizimu J, Squarre D, Sugi T, Yamagishi J, Ogata S, Kajihara M, Sawa H, Sanjoba C, Mwase ET, Chilengi R, Munsaka GH, Sarenje KL, Mulunda NR, Mutengo MM, Namangala B, Goto Y*
    DOI: 10.1016/j.parint.2025.103081
    URL: https://doi.org/10.1016/j.parint.2025.103081

    研究助成

    本研究は、日本医療研究開発機構(課題番号:22wm0225024h0001, JP243fa627005h0003, 24wm0125008h0005)、日本学術振興会科研費(課題番号:21H02722, 24K02271)、北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所一般共同研究による支援を受けて実施されました。

    用語解説

    (注1)リーシュマニア症
    リーシュマニア原虫の感染によって引き起こされる寄生虫性疾患です。皮膚型、皮膚粘膜型、内臓型に大別され、最も重篤なタイプである内臓型リーシュマニア症はインド、ブラジル、エチオピアなどの熱帯地域で年間5~9万人の発症者をもたらしています(世界保健機構、2022年)。典型的な症状として発熱、肝脾腫、体重減少、貧血などが挙げられ、治療しないと90%以上が死に至るとされています。

    (注2)血清学的診断
    内臓型リーシュマニア症を引き起こすリーシュマニア原虫は、脾臓・肝臓・骨髄といった組織に寄生するため、病原体の直接検出に必要な生体試料の採取が困難です。そのため、病原体を直接検出する代わりに、病原体の感染を示唆する生体指標として、血液中に存在する、病原体に対する抗体を用いることがあります。これを血清学的診断と言います。
    現在、内臓型リーシュマニア症の診断は寄生虫の直接検出よりもこの血清学的診断が一般的になっており、その理由として上述のとおり採材による患者への負担(侵襲性)軽減のほか、技術を必要とせず迅速に結果が得られるといった利点が挙げられます。

    問合せ先

    (研究内容については発表者にお問合せください)

    東京大学 大学院農学生命科学研究科 応用動物科学専攻 応用免疫学研究室
    教授 後藤 康之(ごとう やすゆき)
    E-mail:aygoto@g.ecc.u-tokyo.ac.jp

    北海道大学 人獣共感染症国際共同研究所 国際協力・教育部門
    准教授 林田 京子(はやしだ きょうこ)
    E-mail:kyouko-h@czc.hokudai.ac.jp

    関連教員

    三條場 千寿
    後藤 康之

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